コウモリの悲哀

市橋千九郎

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コウモリの悲哀

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 昔々、地上の生き物と、鳥達が戦争を始め、コウモリは、その時々で、旗色のいい方に味方し、寝返りを行なったので、戦後誰からも相手にされなくなったという話が、確かイソップ寓話にあります。

 しかしながら、私の知っている話はちょっと違うので、今からお話します。

 昔々、鳥達は地上の生き物と戦争を始めました。戦争のきっかけは良く分かりません。大体戦争の理由は、後から、勝った方がでっち上げるものなので、あんまり当てにはならないものです。

 当初、鳥達がコウモリを勧誘にきました。翼があるから、鳥の仲間だろうという事です。

 コウモリはガンとして拒絶しました。

「おまえらは知らんじゃろうが、ネズミとは先祖が親戚じゃ、戦争なんて阿呆らしい事はできんわい。」

 コウモリは哺乳類なので、あながち根拠のない話ではありません。

「そんな阿呆らしい事するより、かか(嫁)と乳繰りあいでもしよる方がずっと楽しいわい。こんならあも(おまえらも)つまらん事はやめちょけ」

 コウモリのセックスは一回4時間、おまけに雄の一物は上下左右自由自在に動くすぐれ物です。淡泊なセックスしかできない鳥の使者は、こんな下品な奴は仲間に要らないと、帰ってしまいました。


 次に、地上の動物達が勧誘に来ました。鳥の味方でないなら、自分達の味方に違いない、というわけです。

 しかしながら、今回もコウモリはガンとして拒絶しました。        
「わしの姿をみて鳥らあと殺し合いせえ言うんか、できるわけないじゃろうが、奴らとは空の仲間じゃ。それに一つ忠告してやるがのう、この戦争は、こんならあに分が悪いぞ。何ちゅうても、戦争は制空権持っちょる方が圧倒的に有利じゃけえのお」

 使者は、士気旺盛な我が軍はその位の事で負けるわけはないと、いきまいて帰っていきました。

 やがて、戦争が始まりましたが、コウモリの言ったとおり、地上の動物達は空からの攻撃に手も足も出ず、最初の鼻息はどこへやら、洞窟や地下に逃げ込んで青息吐息です。

 何とか助けてくれと、コウモリのところへ泣きついてきました。

「しゃあないのお、このままじゃ皆殺しにされるかもしれんもんのお、戦争にゃあ、加担できんが、一つ教えちゃる。奴らの大部分は夜目が利かん。夜襲すりゃあ、そこそこ反撃できるじゃろう。じゃが、たいがいのところで手打ちにせえよ。戦争なんてつまらんぞ。」

 このコウモリの忠告で形勢は一気に逆転、今度は鳥達が逃げ回る番になりました。夜もおちおち眠れないとはこの事です。

 鳥達がコウモリに泣きついて来ました。

「しゃあないのお、ちっとは頭を使えよ。わしゃあ戦争は反対じゃが、戦争に参加しちょるこんならあの仲間にもフクロウとか夜目が利く奴がおろうが。それをうまく使えば、そこそこ勝負になるじゃろう。ほじゃけどのう、本当にええ加減のところで手打ちにせえよ。戦争は本当につまらんぞ。」

 このコウモリの助言で、鳥達は何とか盛り返し、やがて両軍ともコウチャク状態に陥りました。その結果、ようやく和平が成立し、好戦的だった者達も、平和の到来を涙を流して喜んだとの事です。


 ただ、戦争の被害は甚大でした。皆、失ったもの大きさに皆愕然とし、深い嘆きを抱きました。その結果、最初から、一切戦争に参加しなかったコウモリを逆恨みするようになりました。

 その後です。冒頭に述べたコウモリに関するでっあげ話が流布するようになったのは。このあまりな世の流れにコウモリは呆れ果てましたが、品性下劣な馬鹿どもを相手にしてもつまらんと、その特殊能力で超然と生きぬき、せっせと子づくりに励んだとの事です。
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