転生物語・短編集(悪役・ヒロイン・モブ等)

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悪役令嬢「それはそれ、これはこれ。」

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「結局の所、足りないのです。どちらがではなく、どちらもですけどね。」


静かにお茶を飲む美麗な婚約者候補の顔を、この国の王子は複雑な心境で見つめていた。
「ねっ。」と小首をかしげて作られた完璧な笑顔を向ける高位貴族の令嬢は、薄く笑いながら持っていた本に目を移していた。


気付いたら昔読んでた悪役令嬢に転生して早3年目。
あらまぁ。何てめんどくさい事を押し付けられたのやらとため息を吐いて早3年・・。

産まれた家は高位貴族であるけれど、別にそこまで不仲ではない家族にひとまず安堵した。

じゃあ、それこそ元凶になる婚約者選定の王家主催のお茶会でしれっと婚約者にはなりません!をアピールして・・・あえなく失敗。

何としても婚約者にはならない事を曲げずに主張した結果、婚約者で矛先を収めた健気な悪役令嬢の私。

そんな事をしでかしているので、普通に仲が良くない王子様と私。

ただし、言い合いなどはしない。ただ、埋まらない深い溝を作っただけのことである。

何故かって?

逆に何でと聞きたい次第である。

私がちゃんとすれば、もしかしたら愛されるかもしれない?
何なら溺愛ハッピーエンドになるかもしれない?

ほう。ほう。なるほど。


では、手短に考えてみよう。

本当に愛する人ができた。
それは仕方ない。お互いに不幸な結婚となる前に相手を変えるのは長い目でみれば悪くない。
ただし、それはちゃんとした別れが出来た場合のみであろう。
誠意を持って謝り、加害者が被害者に慰謝料を持って名誉を傷つけぬよう慎重に事を進めた場合のみ和解の道があるのでしょう。

それが出来る人であれば、相手に向き合う時間を持とうと思える。
せめて、その悪役とやらにならぬよう相談役くらいまでには親しくできたと思う。

でも、残念ながら恋するお花畑脳になる王子様では無理がある。

長年の婚約関係を破棄する?
今までの関係をマイナス方向に振り切る態度に対応。

へぇ・・自分が気に入らない相手に対してそこまで手のひらくるくるする人ってどうなんでしょうね?
別に聖人君子になれとは言いませんが・・嫌な人に正直に話をするのではなく冷徹な態度で示すって・・そんなの上手くいってもいかなくても信用できませんがな。


で?皆の前で公開婚約破棄して一人の女性の尊厳をバッドで粉々になるくらいに粉砕する。
王家でそれが許されるのであれば、今後、どこの貴族が婚約者持ちの娘をおめおと社交の場に出向かせれるのかと。

嫉妬した?いじめた?

まぁまぁ待ちなさい。

世の中に嫉妬しない嫁、怒らない嫁、浮気をしてもフライパンを上げない嫁がはびこったとしよう。

それ、どこの原始時代?

いや・・多分それもない。原始時代でもウホウホ言いながらこん棒で旦那の頭殴って土に埋めることくらい想像つくでしょう。

まぁ。結論としてはそんなとこだったと思う。

よく言うでしょう。やる奴はほっといてもやる。やらない奴はやらない。
もしくは・・バレたら10発殴られて土下座する覚悟を持って隠密に徹する。墓場まで黙ってるコースを取るのよ。

だもんで、改心からの溺愛ハイスペック男も悪くないだろうけど、何年か1度の墓場まで震えながら隠密する旦那だってみようによっては男前なもんだと私は思ってる。
だって、恋や愛の情熱~はそこまで何十年も持たないからね、お互い嫌になりそうでも尊重しあえることが大事。

だから、いくら見目麗しい高スペックイケメン王子であっても。

一人の娘さんを追い込んで破滅させる素質があるのなら、最初から地雷抱えて人生歩む死にゲーでしかないのだ。

そういうことで、無駄な時間を使う事に多少の不便さを感じますが、多少の矯正教育だけしておいて後は好きなだけ恋物語に送り出してあげましょう。となりました。


王子様には当然、私以外の別の婚約者候補がいるので・・普段は悪役令嬢である私の側に来ることはない。
会ってもほとんど喋らない。

婚約者候補となる時に一つだけ約束させた事を守れば悪役令嬢は王子様に何も言わないし、何も求めない。

一応、それだけは律儀に守ってくれる王子様。

月に一回のお茶会の時に渡す、様々な恋の物語をしっかり読んで感想文を書く。
勿論、適当にでは許されない。ちゃんとしっかり読み込んでもらう。

その感想を綴ったノートに私も思いついたままの感想を書いて次のお茶会で渡す。

そしてまた新しい恋物語を見つけては王子様と感想を交わす。

ただ、それだけ。




デートもプレゼントも会話もいらない。

ただ、お互いの恋愛観を淡々と見せ合う。それだけを3年間続けた。




1月後にはヒロインと出会う学園入学の年になった私と王子様。

入学前の最後のお茶会ということで今日は今まで感想を見せ合った本の全てを持ってきている。


「今日は思い出の本を持ってきました。」
滅多にない笑顔で婚約者候補の令嬢が綺麗に笑う。

「あ・・あぁ・・。」
家格の高さ故、王家としてあまり無下にできないからと付き合ってきたが、彼女から話すのは珍しい事。

「覚えていますか・・?」と言いながら懐かしそうに令嬢はゆっくりと本の感想を話す。

「そんな内容だったな・・確かにあの時はこう感想を持ったが・・今は・・。」

穏やかに話す彼女につられながら、王子様もポツリポツリと話し始める。



3年分のお互いの感想文を見ながらお互いに真剣に・・時に笑ったりしながら話し合った。

「いや・・最初は面倒だと思ったけど、今となってはこの1冊1冊に達成感を感じるな・・。」
王子様は苦笑しながら最後のページを閉じて綺麗な所作でテーブルの上にノートを置いた。

「ええ。本当に。今まで私の我儘にお付き合い下さいましてありがとうございます。」
私はやり切った達成感を感じながらホロリと素の笑顔で笑いかける。

王子様は少し驚いた様子を見せながらも、ああ。まったくだ。といつもの王子然とした笑顔を崩して笑う。


そして、私は静かに一度目を閉じて。真っすぐに王子様を見て

「では、本日で私は婚約者候補を辞退したいと思います。」

揺るぎない真っすぐな瞳で王子様を見据えて彼女は綺麗に微笑んだ。

王子様は呆気にとられたように・・・「理由を・・。」と聞いてきた。

政略的な婚約者候補だとわかっていたし、お互いにこの感想文以外の交流を持たない淡白な間柄であったから・・この先、彼女が婚約者となる事はほぼないとはわかっていても・・この状況で言われるとは思っていなかったようだ。

私は一つ大きく息を吸って深く吐いて・・。

「色々感想文を書いてお互いの恋愛観や感情を知りえた上で・・私は今日この日まで自分の胸の内と向き合ってきました。」

真剣な目で見つめる私の顔を見て、王子様は続きを真面目に聞いてくださる様に一つ静かに頷いた。

「それでも結局の所、私はタイミングが合えば・・愚かにも恋すると思います・・。」
自嘲気味に笑う私に王子様はハッと息をのんで見つめてくる。

「理性で制御しきれない狂おしい程の衝動を感じ荒れ狂う恋を・・私は抑えきれないでしょう・・。きっと・・。その時が来れば・・。」
自分の左手の薬指を見ながら、寂しそうに・・片側の口角が上がるのがわかる。

王子様は言葉を紡ぐことなく私を見ている。

「例えば、貴方を生かすために剣に切られても私は構わないと思うんです・・。貴方の為に命をかけることはそれほど苦ではないのです。何故ならきっとそれが国を思う最上であるとどこかでわかっているから。ですが・・。」


「どうしても心が・・大波が来ても嵐が来ても手を離さないでいられる相手を求めてしまうのです・・。それが・・私なんです。」

「そして・・おそらく・・殿下も求める方です。お互いに・・似た者同士・・・手を繋げる関係ではなく・・。話し合えても寄り添い合うのは違うと思います・・。」

前世の記憶とはままならない事もある。自由を知っている私にこの責務は違うと気付いていたのだから。

「私に国母は務まりません。」

私は一切揺るぎのない目で王子様を見つめる。


「では・・。なんでこんなノートを私に・・。」
王子様は呆気にとられながらも訝し気に私に問いただす。

「そうですね・・これは、私と殿下の心を知るための一冊でもありますが、一番は・・。」

「私の感想はあくまでも感想。知ってほしかったのは男性と女性の感じ方の違いです。」

「言い訳になるようにしか聞こえないでしょうが。私はここに全て正直に感想を書きました。」

確かに、彼女は普段の淑女然とした態度とは正反対の実に豊かな感情でノートに感想を綴ってくれていた・・。

眉間に皺を寄せてじっと考え込んでいた王子様・・ですがこちらを見た時に、私の潔い笑顔に拍子抜けするような顔で王子様は困った様に笑い始めた。


「あぁ・・確かに。君の感想と私の感想の違いでお互いに知り得ようとする・・回りくどいやり方かと思っていたが・・そう言われたらそうだな・・。」

「ええ。私、知ってほしかったんです女性と男性の心の動きの違い。」
「そして・・私も殿下から自分でも知らない男性の感じ方を教えて貰いました。」


「当たり前の事だけれど、違うんです。性別や・・立場や・・個人の数だけの感じ方・・。」

なんだか、怒るに怒れない・・変な女だと、この時やるせなさそうに王子様は笑って納得しました。

「あぁ。わかったよ。わかった。陛下・・父には私たちの婚約は解消してもらうよう私が話をしよう。」
「ただし・・いつか私が本当に困ってしまった時にはこのノートと共に君に相談しても良いだろうか・・?」

困ったように笑いながらずるい顔をして王子様は私に問いかける。

「ええ。是非。私に頬を張られる準備と共に・・本当に困った時にだけ相談しに来てください。」

「そして、殿下のお相手の方が決まりましたら・・感情の揺れや目に見える態度だけで悪や劣と捉えることなく・・腐ることなく・・その方と心通わせ慈しみ合える・・そんな素敵な王子様になって欲しいと願っているんです。」

「その為に私を利用するならしてください。元婚約者として私の感想は詳らかに見せてきました。なので、正々堂々受けて立ちますから。」


殿下は、それはそれで怖いな!!と怯えながらも年相応の笑顔で笑いかけてくれました。

私も、女とはそういう生き物です。男がおバカなのと一緒でそういうもんなんです。と念を押してから肩の荷が下りた安堵と共に笑いかけました。


妙齢の前世持ちの私。

夏の熱気に煽られた情熱を私は青年の彼に与える事は出来ないのです。

でも、涼しくなった秋の夜空に清涼なお茶を与える事ぐらいはできるんです。


少し・・説教くさくなってしまいますがね。








それから・・どうしたと言うとですね。


結局、殿下はちゃんと国王陛下になりましたよ?
まぁ・・一応及第点としてですが・・。

私も勿論!最高の旦那様・・って程ではないですが・・それでも私だけの王子様を見つけて今も幸せに暮らしています。


あ・・そういえば・・あれからほどなく私は殿下の頭を一度すぱーんとやりました!

そして、何年か後に二度ほど殿下の綺麗なお顔から涙が流れるくらいほっぺたをひっぱりまわしました・・。

恋に素直なお馬鹿殿下ですから、友が本気で向き合って怒れば彼も更生はするんです・・。骨はだいぶ折れましたが・・。


でもね。それで良いと思うんです。

私だって、恋や愛の為に一人で暴走した時は周りが助けてくれたんですもの。
勿論、私が助ける立場になるのも自然と・・こんなのは前世と一緒です。



やれやれです。悪役令嬢と言えばそうだったのかもしれませんが。
自分的に誰も貶められる事がないのであればそれはそれで、ハッピーエンドだと思っています。










え・・?仕返し?ざまぁ?








知りたいですか?




仕方ないですね。こっそりですよ?





あれはお互いに40歳手前くらいの事でしょうか。


殿下から国王陛下になった彼が、酔っ払ったまま数年ぶりに私の家に来てあれこれ愚痴っていた時です。


しょうもない事ばかり言うので・・・。




キスしてやりましたよ?



えぇ・・彼ったら超絶驚いて馬鹿みたいに真っ赤になって倒れそうでしたよ?

「どどどどおおおおおどどど・・どうした・・・・?????!!」
と慌てて私から飛びのく陛下に言ってやりましたとも。

「これは、恋情ではなく。ざまぁという仕返しですよ?」

「私のキスは案外甘かったでしょ?でもこれよりも甘いものを旦那様が一生受けて下さるのです。貴方に差し上げれなかった極上の甘い恋ですよ。」

私はにっこりして、殿下の唇を二本の指で綺麗にぬぐってあげました。

「ささ、もう良いでしょう。貴方の最愛のところへお戻りなさいな。」

私は苦笑しながらしっしと手をひらひらさせておきます。


「ぐ・・・・ぐぬぬぬぬぬ・・・ひ・・ひきょうな・・・」


私はカラカラと笑って足元のおぼつかない・・ちょっっと変にクラクラしてる彼を玄関まで見送りました。



彼はまだ真っ赤な顔をしながら・・うつむいて・・。


「さっきの間だけだが・・・ちょっとだけ・・本当に少しだけだけど・・惜しい事したと思った・・。お前は本当に昔からずっ・・・・・・・・と・・・・ずるい奴だよ。」

ぼそぼそとそう呟きながら彼はちょっと震えています。

私はクスクスと笑って。

「ええ。知ってます。そんな自分が大好きなもんで。」

「お・・・おまえなぁ・・・」
彼はワナワナと震えてこちらを見つめて・・


「すまなかった。そして今までもこれからも・・ありがとう。世話をかけたしこれからもかける。」

ぶっきらぼうに彼はそうおっしゃってくれました。

「ええ。こんなのなんてことない。お互い様でしょう。」

私は笑って彼の肩をポンと叩いて馬車に促しました。

彼は馬車に乗り込むとすっと私の手を引いて私の顔だけ中に入れると、彼の方からそっと触れるだけのキスをくれました。


「これで、おあいこだ。」
彼はにやりと笑って、またな友よ!と真っ赤な顔で帰っていきました。

「ええ。またね。おバカな友よ。」

私も苦笑しながら彼を見送りました。



最初で最後の彼と逢瀬はこの歳だからこそ出来た事。

若い頃なら溺れるか溺れさせるかしかできなかったでしょうから・・。


そんなざまぁですよ?

悪役令嬢みたいなざまぁは一生のうちに・・・20分で終了させておきました。

面倒ですからね。






「はぁ。。」

馬車に揺られながら陛下はまだ顔を赤くして顔を手でおおっていました。


「昔は解らなかった・・けどやっぱりちょっと・・惜しかったか・・。」

歳を重ねてもまだ消えない精鋭で美丈夫な国王は・・
空が色濃く闇に包まれている、ごとごと揺れる馬車の中。

若草色の青年の様な面持ちで・・ゆっくりと・・柔らかな感触が消えるまで唇を触っていましたとさ。



















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
第一話目。

お疲れ様です。ご拝読いただきましてありがとうございます。

この短編集は、こんな感じで短い話ですがポロポロと書いていこうと思います。


またの機会がありましたら、箸休めにでもご一読していってください☆

ではでは、読んでくれた皆様の幸せな恋が訪れますように。

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