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王は騎士と出会い、騎士は王と出会う。
1、王の逃亡
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難解な森に入るときは、道を忘れないように食べ物を落としながら進むという例がある。でもそれは、場合によっては危険なことではないか。
例えばそう、何かから逃げているとき。
自分の居場所を敵に教えているのと同じことなのだから、あっさり追いつかれてしまう。
逃げているときは、物も食べ物も……雫一つ、落とさずに逃げるべきだ。
全身からポタポタと水を落としながら逃げるのは、オススメしない。
「陛下ぁ! リオウ陛下ぁ!!」
「やっかましぃいい! いい加減風呂くらいゆっくり入らせろ!!」
手短にあったバスローブを着て、追いかけてくる侍女と側近から全力で逃げていた。身体や髪に纏わり付いている水を、切った風がより一層冷たくする。それらは通りすがりの周囲に飛びかかり、被害をもたらす。もはや日課となる光景であり、すれ違う者達は「ああ……またか」と呆れた目を向けてくる。
「いけません陛下! 浴槽に浸かる前に身体を洗うのは常識でございます!」
「だから自分で洗うって言ってんだろ! 何回言わせりゃ気が済む!」
「ええと確か今回で――」
「数えんでいい!!」
無駄な記憶力。優秀な側近だ、計算をするに大した時間は要しないだろう。
「誰が好き好んで侍女に身体を洗われたいか!」
「なら侍男ならよろしいのですか?」
「尚悪いわ!」
「毎日毎日……この者達の何が気に入らないのですか!? 今年のミスコンの最終選考に残った者達ですよ陛下!」
何がって、そんなの決まっている。
「ミスコン……ね……」
決してスピードを緩めることなくチラリと後ろを振り返った。
最終選考に残るだけあって、たしかに全員美人の部類に入る容姿だ。だが普通の人間は背中に羽があったり、頭に角が生えていたりしない。手の爪が異様に尖っていて、当たると刺さって痛いなんてことはない。
「女は女でも人間の女を持ってこい! そしたら目を瞑って我慢してやる!」
「なんと! いくらリオウ陛下といえど、それは許されないお言葉ですぞ!? 人間の女性様は人の子を産むことの出来る唯一の存在! そのような方々に侍女の真似事をさせるなどもってのほかです!」
「なら一人で入らせろ!」
――動物、魔物、植物、精霊、妖精、その他様々な生き物が共存して暮らす世界「ファミーユ」。この世界で、動物の一種である人間という生き物は現在絶滅危惧種となっている。
人間が魔物と交え、力を持った「魔族」という生き物が生まれたことにより人間同士が交わうことが殆どなくなった。そのせいで純血の人間が減少し、現在は人口千人を切っている。
人間は魔族と違って力を持たない「人」。通常なら下位に見られるが、そうならなかったのは初代国王のおかげだった。初代国王は心優しき魔物で、どうしてか人間という存在をこよなく愛していた。その影響で魔物達も人を愛し、人が国の頂点に立つことを受け入れた。
現在の国の頂点が自分自身と言うことに、いい加減実感も湧いている。第十三代目国王、リオウ・ファミーユ。千人以下の中の一人、貴重な純血の人間王様。
側近の魔族達は毎日俺に困っているらしいが、それはこちらの台詞だ。二十六歳にもなってどうして鳥族、牛族、竜族の侍女に着替えさせられたり風呂で身体を洗われたりせにゃならん。ただ人間様に触りたいだけって下心がダダ漏れなんだよちょっとは隠しやがれ。
それに、なにより困っているのが――
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