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その女神、乱舞

女神の享楽(4)

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 三人は慌てて駆け寄った。アールネが抱き起し、クロウがぼろぼろになったアッシュへ自身の上着をかけ、トリスタンは周囲へ注意を巡らせた。
 半べそをかいているアッシュ。鼻をすすりながらアールネの分厚く硬い胸の谷間に顔を埋めた。

「僕、もうお婿に行けない」
「おう、おめぇはいつまでも俺らのところにいればいいんだぜ」
「そうですよ。たとえどこの誰であろうとも私の認める相手でなければ渡したりしません。絶対に」
「そ、そういう。話では……ない、はずだ」

 部屋の中から髪の乱れた針子が出てきた。興奮冷めやらぬ状態で、頬が紅潮し鼻息が荒い。

「ふふ、ふふふふふ。完璧、完璧ですわ!少々お胸が足りないところがまた素晴らしくてよ!将軍様方、きっと満足のいく作品を仕上げて見せますので、しばし時をくださいませ」
「アレン王子が妃を迎える披露目のパーティーには間に合うのでしょうね?」
「もちろんですとも!素材は絹モスリン、ホールネックで……」
「わかりましたので、完成した時の楽しみに残りは取っておきましょう」

 話が長くなりそうだったので、クロウが遮った。彼の提案に針子は手を打ち賛同した。

「そうですわよね!ええ、是非ともそうしてくださいな。それでは早速取り組ませていただきますわ」

 そういって恭しく一礼すると、また部屋へ戻っていった。

「さて、アッシュ。貴女、好意を向ける輩がいるのですか?」

 クロウがアッシュに向き直り、問いかけた。

「まさか、ディランの奴じゃねぇよな?」

 三人の目の色が変わった。キョトンとするアッシュ。

「え?何言ってるの?あいつは人間の友達だよ」
「だよな!そうだよ、あいつはアッシュのいい人間のお友達だよな!」

 豪快に笑いながらアールネの肩をしばく。クロウもどこか満足げな表情だ。アールネはアッシュに小さく微笑みかけたが、彼女は三人の胸中を知ることなくアールネの腕の中で猫のように大きく伸びた。

「ねぇ、拷問部屋はまだ?」

 呆れ顔ににあるクロウ。トリスタンが大きなため息を一つし、アッシュの顔を両手で挟み込んだ。やわらかい頬をムニムニともみながら問う。

「あのなぁ、お前そんなに鞭で打たれてぇんだ?痛てぇだろ」

 アッシュは恍惚とした表情になった。

「父さんわかってないなぁ。あれがいいんだよ。あの鞭で打たれるたびに肉が裂けて、鋭い痛みが走り、また打たれるまでの間の鈍く続く燃えるような痛み」
「俺、こいつの育て方間違えたか?」
「子育ての正解なんてわかりませんよ」

 悶々としたまま、四人は拷問部へと向かった。
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