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その女神、悦楽
女神の饗宴(4)
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彼女の意識は虚ろったまま。灯りのすっかり消え静寂に包まれた館内をカーライルは進んだ。二人の間にも会話はない。アッシュからは濃い血の香りがまだしていた。
城を出て、監獄棟へと向かう。自分たちが住む地下世界へ下りて行った。下るにつれて下がる体感温度。湧き上がってくるような、決して心地の良くない雰囲気が二人を包んでいく。
「着いたぞ」
彼女の寝床にそっと下ろした。放心状態で脱力している。牢の外ではパウロが心配そうな顔をして見つめていた。そんな少年の顔を牢から出るとそっと覆った。
パウロは大きな手を顔もとからのけると、カーライルを見上げ息を飲んだ。
「カーライル様、血が……」
「あぁ。まだ出てんのか。そういえば少しふらつくな」
傷口を抑えるとその手はどす黒く濡れた。この時はじめてその傷が、思っている以上に深いことに気が付いた。
「おいパウロ」
「なんですか?」
「ちょっと手当手伝ってくんねぇか?」
「もちろんです!」
小さいながらもカーライルの支えに少しでもなろうと肩を貸そうとするがうまくいかない。あきらめて服の裾をそっと持ち、心配そうな顔をしてゆっくりと付き添った。
アッシュは深い夢の中にいた。その中で彼女はさらに深い眠りにいた。
「疲れちゃったんだね」
眠る彼女の前には小さなアッシュがいた。
幾重にもがんじがらめになっている鎖が、眠っている冷たい彼女をしっかりと絡め取っていた。
小さなアッシュは悩んだ。この体を寝かせたままにしておくのはまずい。
「うふふ。ボクがおっきな僕の代わりをしてるね」
冷たい体を暖かな手でそっと撫でた。
深い深い眠りのアッシュは、見覚えのない場所で目覚めた。身に覚えのない黒い巫女の服を着衣していたが裸足だった。
そこは血生臭く、燃えるように暑いのに寒さを感じる。辺りは黒煙が上がり遠目には赤々と燃える炎の揺らぎのようなものが見える。
あちらこちらから、呻きのような声が聞こえる。足元を見ると、泥の中から人の鼻や口、片目が見えていた。その顔を足で踏んだ。生きた人間の様に温かさがある。
「ん……」
息をしていた。そして、小さく身じろきをすると口が動きかすれた声が聞こえた。
「助けて……」
彼女はその顔を思い切り踏みつけた。見えていた顔はそれを歪め、呻きを残して泥の中へ消えて行った。
「酷いことするわねぇ」
顔を上げると、そこにはデカルソフィがいた。アッシュは出来うる限りの不快だという表情をした。
「何の用?」
「いいえ、別にぃ」
デカルソフィは妖艶に笑って見せた。
「ここはどこなの」
「ここ?ここは驕れるものが落ちた世界よ。と言っても貴女のことではないけれどね」
「どういう意味」
「貴女はアタシの器よ?驕れる者たちはアタシに呑まれた者たち。貴女はアタシを呑む者」
彼女はアッシュの顎をクイッと持ちその澄んだ瞳を混沌とした目で見つめた。
「この世界を掌握なさい。全てを受け入れて。アタシを呑みこむのよ」
アッシュは体の自由が効かないことに気付いた。混沌とした瞳は蛇の目にも見えた。怪しく微笑む口元はそのままに、彼女の体は歩きだした。
「どこへ連れて行く気」
「貴女が完璧になれる場所よ」
「やめろ」
「イヤよ。やっと見つけた器ですもの」
「クソっ。絶対いやがらせしてやるから覚悟しといてよね」
アッシュは真っ赤な湖の前までやってきた。
「これは何」
「さぁ?アタシもよく分かんないの」
そういうと、デカルソフィはアッシュの耳元で囁いた。
「さぁ、行ってらっしゃい」
彼女は導かれるように湖へと入っていった。痛みを感じるほど熱い。しかし火傷を負うわけでもない。纏わりついてくるような粘度の高い赤い水。
「いつか絶対後悔させてやる」
怒りに満ちた呟きを残し、湖面から姿を消した。
城を出て、監獄棟へと向かう。自分たちが住む地下世界へ下りて行った。下るにつれて下がる体感温度。湧き上がってくるような、決して心地の良くない雰囲気が二人を包んでいく。
「着いたぞ」
彼女の寝床にそっと下ろした。放心状態で脱力している。牢の外ではパウロが心配そうな顔をして見つめていた。そんな少年の顔を牢から出るとそっと覆った。
パウロは大きな手を顔もとからのけると、カーライルを見上げ息を飲んだ。
「カーライル様、血が……」
「あぁ。まだ出てんのか。そういえば少しふらつくな」
傷口を抑えるとその手はどす黒く濡れた。この時はじめてその傷が、思っている以上に深いことに気が付いた。
「おいパウロ」
「なんですか?」
「ちょっと手当手伝ってくんねぇか?」
「もちろんです!」
小さいながらもカーライルの支えに少しでもなろうと肩を貸そうとするがうまくいかない。あきらめて服の裾をそっと持ち、心配そうな顔をしてゆっくりと付き添った。
アッシュは深い夢の中にいた。その中で彼女はさらに深い眠りにいた。
「疲れちゃったんだね」
眠る彼女の前には小さなアッシュがいた。
幾重にもがんじがらめになっている鎖が、眠っている冷たい彼女をしっかりと絡め取っていた。
小さなアッシュは悩んだ。この体を寝かせたままにしておくのはまずい。
「うふふ。ボクがおっきな僕の代わりをしてるね」
冷たい体を暖かな手でそっと撫でた。
深い深い眠りのアッシュは、見覚えのない場所で目覚めた。身に覚えのない黒い巫女の服を着衣していたが裸足だった。
そこは血生臭く、燃えるように暑いのに寒さを感じる。辺りは黒煙が上がり遠目には赤々と燃える炎の揺らぎのようなものが見える。
あちらこちらから、呻きのような声が聞こえる。足元を見ると、泥の中から人の鼻や口、片目が見えていた。その顔を足で踏んだ。生きた人間の様に温かさがある。
「ん……」
息をしていた。そして、小さく身じろきをすると口が動きかすれた声が聞こえた。
「助けて……」
彼女はその顔を思い切り踏みつけた。見えていた顔はそれを歪め、呻きを残して泥の中へ消えて行った。
「酷いことするわねぇ」
顔を上げると、そこにはデカルソフィがいた。アッシュは出来うる限りの不快だという表情をした。
「何の用?」
「いいえ、別にぃ」
デカルソフィは妖艶に笑って見せた。
「ここはどこなの」
「ここ?ここは驕れるものが落ちた世界よ。と言っても貴女のことではないけれどね」
「どういう意味」
「貴女はアタシの器よ?驕れる者たちはアタシに呑まれた者たち。貴女はアタシを呑む者」
彼女はアッシュの顎をクイッと持ちその澄んだ瞳を混沌とした目で見つめた。
「この世界を掌握なさい。全てを受け入れて。アタシを呑みこむのよ」
アッシュは体の自由が効かないことに気付いた。混沌とした瞳は蛇の目にも見えた。怪しく微笑む口元はそのままに、彼女の体は歩きだした。
「どこへ連れて行く気」
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「イヤよ。やっと見つけた器ですもの」
「クソっ。絶対いやがらせしてやるから覚悟しといてよね」
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「さぁ?アタシもよく分かんないの」
そういうと、デカルソフィはアッシュの耳元で囁いた。
「さぁ、行ってらっしゃい」
彼女は導かれるように湖へと入っていった。痛みを感じるほど熱い。しかし火傷を負うわけでもない。纏わりついてくるような粘度の高い赤い水。
「いつか絶対後悔させてやる」
怒りに満ちた呟きを残し、湖面から姿を消した。
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