魔女と欲に溺れる魔術師

nashlica

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第3節 魔女が与えし鉄槌

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PM 9:00 すすきの某所

 人のいないバーで、密会が行われている。
 ――――っと言うのは冗談で、今は彼女が集めた情報を聞き始める所である。

「では、私が集めたものを報告させてもらうわね」

「手短に頼む。こうしているうちに、警察がどう動くかわからんから」

 私はそういうと、彼女は早速写真を何枚か見せてきた。

「この写真は?」

「今回の首謀者しゅぼうしゃの写真よ。年齢は40。魔術師としての階級はB、適正色てきせいしょくは藍となってるわ。
 主に使役の魔術を得意とし、それの研究で、一躍いちやく時の人になったとか」

「なるほど。そんな奴が、なぜこの街や、それ以前の事件に関与していたのか、謎でしかないよ」

「旧体制までは、魔術院でも有数な魔術師だったそうよ。主に、幻獣を使役する魔術の使い手ね。
 その使役の魔術と、その知能から『策謀家さくぼうか』と呼ばれたそうよ。
 けど、現体制になってから彼のキャリアは地の底に落ちたそうよ。多額の賄賂わいろを受け取って隠蔽いんぺいしていたのよ。その額は日本円で数億だとか」

「その隠蔽していたのが、洗脳して使役する魔術か。それも、人間を」

愚者グール大群たいぐんは、それの副産物らしいわ。何せ、強い魔力を注がれて耐えれる非魔術師ひまじゅつしなんて、レアですもの。
 それに人を使役する魔術なんて、以ての外よ。身に覚えのない罪を着せられるなんて、堪ったものじゃないわ」

「まぁ、1000年も前にくらってる人間が言うんじゃ、説得力はあるしね。
 それで、奴の居場所は?」

「さぁ?なんのことか。奴の場所なら、教団の信者が奴のGPSをジャックしたわ。
 この赤いピンで止められているところよ。36号線にある潰れた病院を住処すみかにしているようだわ」

 彼女は、タブレットを見せる。地図アプリで赤いピンが刺している位置を示していた。
 どうやら、まだ移動していないそうだ。そうと決まれば、すぐに動くしかない。

「もう行くの?」

「あぁ。奴がいつ逃げるかわからないしね。それに、一課の連中が余計な事をしないうちに終わらせておきたい」

捜査一課そうさいっかの介入ね……。あなたの判断がそうなら、そうしておくのが賢明ね」

 私は、彼女が共有した情報を、ラスティアと望月さんに送る。そして、ここを後にする。

 振り向くと、彼女はいつもの姿になっていた。それと同時にバーから彼女の工房に変貌した。

「気をつけなさい、アル。奴を殺す前に、使役された子供達を解放するのが先よ。
 まぁ、あなたにはそれを簡単に解く魔術があるなら、心配はないわ」

 彼女は、自身の左乳房ちぶさに刻まれている『III』の文字を見せる。

「では、お気をつけて、偉大なる我らが主人よ」

「あぁ、行ってくるよ。『仮面の魔女ジャンヌ』」

 私は、『仮面の魔女ジャンヌ』のアトリエを後にし、車に戻る。すると、ビルの真ん前で、車が止まっていた。
 助手席のドアをあけ、乗り込む。

「遅い。あいつと何話していたのさ」

「さぁ? ただの与太話さ。ラスティア、ここまで車飛ばせれる?」

道路交通法どうろこうつうほうで捕まるんだけど? まぁ捕まれないようには飛ばすよ」

 ラスティアはやれやれと思いつつ、法に引っかからないように車を走らせる。
 時間も時間なので、案外早い時間に目的地に到着した。

 ――――――――――――――

 車は少し遠くに停め、徒歩で奴のいる廃病院に着く。こんな立派な建物を残しては、不穏な噂も後が経たないのだろう。

「随分と立派な建物ねぇ。ここなら、易々と見つかるはずがないわね」

「こんなところに、あの犯人が……」

 2人は、あれからもらった情報を信じきれていない。何せ、情報があまりにも正確すぎるからだ。
 明日香は、中途半端に開いているゲートを見つける。どうやら、あそこから入っているらしい。
 私たちは、そこから廃病院の中に入っていった。

「設備とかはいいのに、閉めるなんて勿体無いわね」

「経済的に厳しかったのかも。器具もまだ新しいよ」

 2人は、呟きながら話している。すると、後ろから視線を感じ振り向く。

「あぁ……。あぁああ……」

 呻き声と共に、学生と思われる少年たちが現れた。どうやら、奴に洗脳されているらしい。
 彼らは、容赦なく私たちを襲い始める。しかし、ラスティアと明日香によって彼らは食い止められる。

「これが、この間アルを襲ってきた子達ね。見た感じ正気じゃなかったけど」

「理性を封じられているみたい……。これじゃただの捨て駒だよ」

 奴の魔術を考察していると、次々と洗脳された学生達が現れる。3人は、私を先に行かせるために、殿を務める。

「ここは一旦私達に任せて、先に行きなさい。アル」

「いいのか?」

「大丈夫! 後で行くから」

「姉さんは早く片をつけて来ていいから。さぁ、早く」

 ラスティアは、氷の壁を作り自分達の後ろを塞ぐ。私は、3人に任せ奴の元に向かう。
 眼鏡を外し、奴の魔力を可視化させて居場所を索敵さくてきする。人型の魔力の塊を見つけると、奴は4階にいるらしい。

「――――――――見つけた!」

 私は階段を登り、4階に向かう。途中、愚者グールに遭遇するが、すぐに頭を火球で吹き飛ばす。
 後ろから襲ってきた愚者グールは、血の剣で串刺しにし、前から来た愚者グールは炎で焼き殺す。
 そうしている内に、4階に着いたようだ。非常ドアを開けて入ると、厄介なのと出会す。
 さっきの愚者とは違い、大型の個体のようだ。大型の愚者グールは、全速力で私に突撃をする。
 しかし、私はそれを避け奴の場所へと向かう。

「邪魔だ」

 私の後ろにいる大型の愚者は、突撃をせずそのまま倒れる。
 さっき避けた際、私はこの愚者グールの胸部に火球を放ち、風穴を開けていたのだ。
 そして、奴のいる場所に到着し、火球を放ってドアを壊す。

「ごきげんよう。勝手口から失礼させてもらうぞ」

「だ、誰だ!? なぜここが!? き、貴様は一体!?」

「一体とは失礼だな。一応、お前とは同胞なんだがな」

仮面の魔女ジャンヌ』の情報通りも見た目の魔術師だった。しかし、左腕の方を見ると包帯で巻かれている。

「お前か? 若い子達を洗脳して使役しているのは?」

「し、知れたことを!! それを知り前に貴様を殺してやる!!」

 奴は、洗脳した子達を呼び寄せる。全く、これだから魔術師相手は疲れる。
 こうして、私と奴の殺し合いが始まるのだった。
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