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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る
第7話 魔法少女VS人形使い(パペットマスター) その三
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白音たちが人形遣いとの戦いに臨もうとしたその時、そらの声に呼び止められた。
『魔女の人』のほうきに乗せてもらって来ていたらしい。
しかし人形の数が多すぎて、観測と陽動に徹していたのだという。
魔女の人は上空から周囲の警戒を続けつつ、手を振ってくれている。
「人形遣いは、何の動作も発声もなしにパペットを作成できるみたい。制限や限界は今のところ見えてこない。無力化するには気絶させるしかないかも」
接触による鑑定ができない分、観測によってできるだけ多くの情報を得ようと試みていたみたいだった。
白音たちと同じくギルドから「生死を問わない」との依頼を受けているであろうそらが、当然のように無力化を想定していてくれてよかった。
「アタシと莉美は、多分気絶させるなんて器用なまねはできないよ?」
確かにふたりがやったら、大惨事になるところしか想像ができない。
「うん。私も接触距離まで近づくのはリスクの方が大きそう。だからあいつは白音ちゃんにお願いするの。周りのパペットは私たちで止めよ」
「了解っ!」
能力強化をかけてもらったそらがマインドリンクを使い、敵の位置をリアルタイムでみんなに伝える。
視界の隅に半透明なウインドウが開いて、敵味方の位置関係が表示される。
しかも予測される危険度に応じて、敵のマーカーは大きさが変わるらしい。
ゲームの画面のようなのだが、多分戦いの達人が無意識のうちにやっているようなことを視覚化して、分かりやすく示してくれているのだろう。
それを人数分、である。相当な情報処理能力がないとできないはずだ。
戦いがもし長引けば、負担をかけている分みんなを危険にさらすことになる。
白音が単独で人形の群れを突破し、いかに迅速に人形遣いを無力化できるかが鍵になるだろう。
佳奈が白音に近づきそうな瓦礫人形を、片っ端から拳で殴っていく。
彼女の拳は、白音の能力強化によって強化されている。
それを自身の固有魔法である身体強化でさらに強化するのだが、このブーストの魔法自身もリーパーによって強化されている。
結果その威力たるや凄まじく、殴られた瓦礫製のパペットは次々と文字どおり爆散していく。
莉美も安全な位置取りを心がけつつ、フリーになっている人形を中心に強大な威力のビームで狙い撃っている。
数が多く、油断のならない相手ではある。
しかし白音を中心部にたどり着かせさえすればよい。
勝利条件のはっきりした戦いに、そらの采配が狂うはずもない。
ただ壁を厚く、人形を大量に配置しただけの防御陣形はあっという間に攪乱されていく。
そして僅か数分後、まるで歓迎してくれているかのように導かれて、白音と金髪のターゲットが相対峙した。
「んだコラ、やんのか、ああん?」
そのあまりに工夫のない典型的な威嚇に白音は底の浅さを感じて、「投降しませんか?」と短く応じた。
「あまり長く待てないので五秒だけ待ちます。5、4……」
「ざっけんな。俺のこと舐めてんじゃねぇぞ、てめぇなんざ秒でぶっころ…………」
やはり創造性を感じさせないそのありふれたセリフを、金髪の男は最後まで言えなかった。
何が起こったのか理解する暇も無く、気がついたらうつぶせに倒されて腕の関節を極められていた。
白音はふと、男が『投降』という言葉の意味を知らなかったのではないかと不安になった。
もっと簡単な言い方をするべきだったかもしれない。
「いででででで」
男が呻きながらも、付近の崩れたコンクリート片から新たにパペットを造ろうとした。
何のモーションも言葉もなかったが、白音は男の体内で魔力が高まるのを感じた。
白音は完全に身動きを封じて彼を押さえつけていたはずだ。
やはりそらからの情報どおり、人形を造るのに体が自由である必要はないらしい。
「んー、ごめんね」
白音が手刀で金髪男の頚部を強打する。
男の魔法を制止できなかった場合の想定内の行動だ。
それであっさりと男は意識を刈り取られ、反動で額をアスファルトに打ち付けた。
男が気を失うとモンスターたちはコントロールを失ったようで、その瞬間に静止した。
ただ、崩れたり消えたりするような様子はなかった。
莉美が全員無事の勝利を喜んでVサインを送る。
しかし人形遣いの魔法は消失したわけではなかった。
コントロールが失われたことでほんの少しの間混乱して静止し、再び動き出した。
男からの指令が途絶えたモンスターたちは、力を失わずにむしろその軛|《くびき》から解き放たれたのだ。
「莉美っ!!」
莉美は再び動き出した人型パペットが、背後から自分を狙っていることに気づいていなかった。
戦いが終わったと思った莉美は完全に集中を切らしていた。
パペットが手にした得物を振り上げ、莉美の背後から渾身の力で頭を殴りつけた。
鈍い音がして莉美の体が宙に浮く。
さらにパペットは、地面にくずおれた莉美の脚を掴んで引きずり寄せると、その体を押さえつけて上からのしかかった。
コンクリートや石でできたパペットの重量で、莉美は身動きができなくなってしまう。
パペットの手には、どこかから適当に引き抜いてきたのであろう「止まれ」の道路標識が握られている。
文字の上にべっとりと付いているのは多分莉美の血だ。
パペットは、今度は標識の根元の方を莉美に向けて振り上げた。
莉美は先程殴られた衝撃がグワングワンと頭の中をこだましていた。
一瞬手放しかけた意識の底で、引きちぎられて鋭利になったポールの先端が、既に誰のものなのか、大量の血と脂でぬらぬらと光っているのを見た。
それを莉美の体に突き立てようとしているのだ。
「や、やめっ……」
パペットの大重量で胸を押しつぶされて声もうまく出ない。
だが、莉美がその消え入りそうな悲鳴を上げた時には、既に白音と佳奈が飛び出していた。
白音は道路標識を握ったパペットの腕を魔力の剣で肩から切り飛ばし、佳奈は残った胴体を蹴って後方へと弾き飛ばす。
「大丈夫か、莉美?!」
佳奈が莉美の体を抱き起こす。
「うぅ……、びっくりしたぁ。ありがとう」
白音が頭の傷を見てやる。
「最後まで気を抜いちゃダメよ。ちょっとだけ軍曹の気持ちが分かっちゃったじゃないの……」
「いたたた、ごめんね…………、あっ!?」
莉美が白音の背後、金髪ウェーブパーマの男が倒れていた方を指さした。
見知らぬ少女が、白音が飛び出した一瞬の隙にその男を捕らえていた。
喉元を片手で掴んで吊り上げている。
体から漏れ出てくる魔力からすると、その少女もおそらくは魔法少女なのだろう。
巫女の装束を身に纏っており、しかし顔は狐の面をかぶっているために窺うことができない。
「ちょっと、何してるのっ?!」
白音の制止を無視して、巫女の魔法少女は空いた方の手を金髪の男の胸に突き立てた。
派手な柄のシャツを着たその胸板を、あっさりと巫女の手刀が貫く。
「!!」
気絶したまま男はびくびくと不自然に痙攣し、そして突き立てられた手の部分から凍り付き始める。
おそらくは凍結の魔法だろう。
あっという間に冷気が広がり全身が凍ってしまうと、それと呼応するようにして周囲のモンスターは崩れて瓦礫に還った。
それを見た白音と佳奈が、見る間に殺気立つ。
まだ少し目眩がする様子の莉美をそらに任せると、巫女に詰め寄った。
だが巫女はふたりの放つ強烈な怒気を気に留めるような様子もなく、ただひと言呟いた。
「殺ス許可は出てイる。こレが最良の解決策ダ」
地の底から湧いてくるような声だった。
無機質に無感情に、ただただ事実を宣告するためだけに発せられた言葉。
実存感の薄いその響きに、白音たちは目の前の巫女が発したものなのかどうかすら確信が持てなかった。
狐面の巫女はそれ以上は何も言わず、白音たちに背を向けた。
「おい、待てよ!!」
佳奈が声を荒げたが、巫女は一顧だにしなかった。
おそらくはもう事切れているであろう男をぶら下げたまま、立ち去ろうとする。
「無視すんなって!」
巫女は男を持ち上げたまま、瓦礫の山を軽々と飛び越えてしまった。
佳奈がすぐに後を追おうとすると、その行く手をスーツ姿の男が数人で遮った。
いずれも大柄で筋肉質、佳奈の倍はありそうな体格である。
顔つきもおよそ堅気の人間とは思えないような強面ばかりだった。
「なんだよ、お前ら? 邪魔すんなっ!」
体格差を物ともせずに掴みかかろうとする佳奈を、白音が慌てて止める。
「待って待って、ステイステイ。その人たち普通の人だって。佳奈がやったらミンチになっちゃうよ?」
男たちは「ミンチ」の言葉に一瞬怯んだが、それでも道は譲らなかった。
「我々の指示に従って下さい。あの男の措置は決定事項です。遺体も回収します」
と、話す間に巫女の姿を見失ってしまった。
男たちに注意を向けた一瞬の間に消えていた。
少し不自然な消え方だったから、まだ他にも魔法を使う者が関与しているのかもしれない。
スーツの男たちはいくら食い下がろうとも何も説明することはなく、決定事項の一点張りだった。
「そうするようにどこかから命令を受けている」といったところだろう。容易に想像ができる。
しかし白音は、そのやり方が佳奈に対して悪手なのをよく知っている。
そろそろ佳奈をクールダウンさせないとまずいことになりそうだった。
白音がそう考えていると、少し小柄な男が横から割って入ってきた。
男が白音たちに名刺を差し出す。
『外事特課 課長補佐 宮内寛次』と書かれている。
宮内は手を払う仕草で厳つい男たちを下がらせると、ひとりで魔法少女たちの相手をした。
他の男たちとは違って柔和な印象がある。
「皆さんのご協力、感謝いたします」
年齢が半分にも満たないような少女たちに向かって頭を下げる。
「国家緊急権、ということですか?」
そらが白音の背後から尋ねた。
どうしてそうなったのか知らないが、そらが怪我人のはずの莉美に抱きかかえられている。
莉美はコスチュームが少し血で汚れているが、もう平気な様子だった。
そらは、白音が手にした宮内の名刺を覗き込むようにしている。
彼女が言っているのは、危機的な事態において行政機関が独裁的な権限を発動する、という意味だ。
実際にはそこまで大袈裟なものではないだろうが、少なくとも基本的人権を無視した行為だったとは思える。
「の、ようなもの、とご理解下さい。この措置自体が記録には残りません」
「わたしたちが口外したら?」
白音がちょっと意地悪を言ってみた。
別にキレているのは佳奈だけではない。
「そうならないようお願いするしかありません。もしあなた方にその気になられたら、恥ずかしながら我々には止める手立てがないのです」
「あの人、死んじゃったんだよね? 殺さなくても良かったんじゃないの?」
そらを抱えた莉美が、宮内にというよりは白音に向かって訴えている。
白音は莉美のことを心配していた。怪我の具合ももちろんなのだが、それ以上に、男の死に責任を感じてしまっているんじゃないかと気がかりだった。
抱っこされるがままになっているそらは、そんな白音の気持ちを知ってか知らずか、莉美の手を優しく握ってくれていた。
『魔女の人』のほうきに乗せてもらって来ていたらしい。
しかし人形の数が多すぎて、観測と陽動に徹していたのだという。
魔女の人は上空から周囲の警戒を続けつつ、手を振ってくれている。
「人形遣いは、何の動作も発声もなしにパペットを作成できるみたい。制限や限界は今のところ見えてこない。無力化するには気絶させるしかないかも」
接触による鑑定ができない分、観測によってできるだけ多くの情報を得ようと試みていたみたいだった。
白音たちと同じくギルドから「生死を問わない」との依頼を受けているであろうそらが、当然のように無力化を想定していてくれてよかった。
「アタシと莉美は、多分気絶させるなんて器用なまねはできないよ?」
確かにふたりがやったら、大惨事になるところしか想像ができない。
「うん。私も接触距離まで近づくのはリスクの方が大きそう。だからあいつは白音ちゃんにお願いするの。周りのパペットは私たちで止めよ」
「了解っ!」
能力強化をかけてもらったそらがマインドリンクを使い、敵の位置をリアルタイムでみんなに伝える。
視界の隅に半透明なウインドウが開いて、敵味方の位置関係が表示される。
しかも予測される危険度に応じて、敵のマーカーは大きさが変わるらしい。
ゲームの画面のようなのだが、多分戦いの達人が無意識のうちにやっているようなことを視覚化して、分かりやすく示してくれているのだろう。
それを人数分、である。相当な情報処理能力がないとできないはずだ。
戦いがもし長引けば、負担をかけている分みんなを危険にさらすことになる。
白音が単独で人形の群れを突破し、いかに迅速に人形遣いを無力化できるかが鍵になるだろう。
佳奈が白音に近づきそうな瓦礫人形を、片っ端から拳で殴っていく。
彼女の拳は、白音の能力強化によって強化されている。
それを自身の固有魔法である身体強化でさらに強化するのだが、このブーストの魔法自身もリーパーによって強化されている。
結果その威力たるや凄まじく、殴られた瓦礫製のパペットは次々と文字どおり爆散していく。
莉美も安全な位置取りを心がけつつ、フリーになっている人形を中心に強大な威力のビームで狙い撃っている。
数が多く、油断のならない相手ではある。
しかし白音を中心部にたどり着かせさえすればよい。
勝利条件のはっきりした戦いに、そらの采配が狂うはずもない。
ただ壁を厚く、人形を大量に配置しただけの防御陣形はあっという間に攪乱されていく。
そして僅か数分後、まるで歓迎してくれているかのように導かれて、白音と金髪のターゲットが相対峙した。
「んだコラ、やんのか、ああん?」
そのあまりに工夫のない典型的な威嚇に白音は底の浅さを感じて、「投降しませんか?」と短く応じた。
「あまり長く待てないので五秒だけ待ちます。5、4……」
「ざっけんな。俺のこと舐めてんじゃねぇぞ、てめぇなんざ秒でぶっころ…………」
やはり創造性を感じさせないそのありふれたセリフを、金髪の男は最後まで言えなかった。
何が起こったのか理解する暇も無く、気がついたらうつぶせに倒されて腕の関節を極められていた。
白音はふと、男が『投降』という言葉の意味を知らなかったのではないかと不安になった。
もっと簡単な言い方をするべきだったかもしれない。
「いででででで」
男が呻きながらも、付近の崩れたコンクリート片から新たにパペットを造ろうとした。
何のモーションも言葉もなかったが、白音は男の体内で魔力が高まるのを感じた。
白音は完全に身動きを封じて彼を押さえつけていたはずだ。
やはりそらからの情報どおり、人形を造るのに体が自由である必要はないらしい。
「んー、ごめんね」
白音が手刀で金髪男の頚部を強打する。
男の魔法を制止できなかった場合の想定内の行動だ。
それであっさりと男は意識を刈り取られ、反動で額をアスファルトに打ち付けた。
男が気を失うとモンスターたちはコントロールを失ったようで、その瞬間に静止した。
ただ、崩れたり消えたりするような様子はなかった。
莉美が全員無事の勝利を喜んでVサインを送る。
しかし人形遣いの魔法は消失したわけではなかった。
コントロールが失われたことでほんの少しの間混乱して静止し、再び動き出した。
男からの指令が途絶えたモンスターたちは、力を失わずにむしろその軛|《くびき》から解き放たれたのだ。
「莉美っ!!」
莉美は再び動き出した人型パペットが、背後から自分を狙っていることに気づいていなかった。
戦いが終わったと思った莉美は完全に集中を切らしていた。
パペットが手にした得物を振り上げ、莉美の背後から渾身の力で頭を殴りつけた。
鈍い音がして莉美の体が宙に浮く。
さらにパペットは、地面にくずおれた莉美の脚を掴んで引きずり寄せると、その体を押さえつけて上からのしかかった。
コンクリートや石でできたパペットの重量で、莉美は身動きができなくなってしまう。
パペットの手には、どこかから適当に引き抜いてきたのであろう「止まれ」の道路標識が握られている。
文字の上にべっとりと付いているのは多分莉美の血だ。
パペットは、今度は標識の根元の方を莉美に向けて振り上げた。
莉美は先程殴られた衝撃がグワングワンと頭の中をこだましていた。
一瞬手放しかけた意識の底で、引きちぎられて鋭利になったポールの先端が、既に誰のものなのか、大量の血と脂でぬらぬらと光っているのを見た。
それを莉美の体に突き立てようとしているのだ。
「や、やめっ……」
パペットの大重量で胸を押しつぶされて声もうまく出ない。
だが、莉美がその消え入りそうな悲鳴を上げた時には、既に白音と佳奈が飛び出していた。
白音は道路標識を握ったパペットの腕を魔力の剣で肩から切り飛ばし、佳奈は残った胴体を蹴って後方へと弾き飛ばす。
「大丈夫か、莉美?!」
佳奈が莉美の体を抱き起こす。
「うぅ……、びっくりしたぁ。ありがとう」
白音が頭の傷を見てやる。
「最後まで気を抜いちゃダメよ。ちょっとだけ軍曹の気持ちが分かっちゃったじゃないの……」
「いたたた、ごめんね…………、あっ!?」
莉美が白音の背後、金髪ウェーブパーマの男が倒れていた方を指さした。
見知らぬ少女が、白音が飛び出した一瞬の隙にその男を捕らえていた。
喉元を片手で掴んで吊り上げている。
体から漏れ出てくる魔力からすると、その少女もおそらくは魔法少女なのだろう。
巫女の装束を身に纏っており、しかし顔は狐の面をかぶっているために窺うことができない。
「ちょっと、何してるのっ?!」
白音の制止を無視して、巫女の魔法少女は空いた方の手を金髪の男の胸に突き立てた。
派手な柄のシャツを着たその胸板を、あっさりと巫女の手刀が貫く。
「!!」
気絶したまま男はびくびくと不自然に痙攣し、そして突き立てられた手の部分から凍り付き始める。
おそらくは凍結の魔法だろう。
あっという間に冷気が広がり全身が凍ってしまうと、それと呼応するようにして周囲のモンスターは崩れて瓦礫に還った。
それを見た白音と佳奈が、見る間に殺気立つ。
まだ少し目眩がする様子の莉美をそらに任せると、巫女に詰め寄った。
だが巫女はふたりの放つ強烈な怒気を気に留めるような様子もなく、ただひと言呟いた。
「殺ス許可は出てイる。こレが最良の解決策ダ」
地の底から湧いてくるような声だった。
無機質に無感情に、ただただ事実を宣告するためだけに発せられた言葉。
実存感の薄いその響きに、白音たちは目の前の巫女が発したものなのかどうかすら確信が持てなかった。
狐面の巫女はそれ以上は何も言わず、白音たちに背を向けた。
「おい、待てよ!!」
佳奈が声を荒げたが、巫女は一顧だにしなかった。
おそらくはもう事切れているであろう男をぶら下げたまま、立ち去ろうとする。
「無視すんなって!」
巫女は男を持ち上げたまま、瓦礫の山を軽々と飛び越えてしまった。
佳奈がすぐに後を追おうとすると、その行く手をスーツ姿の男が数人で遮った。
いずれも大柄で筋肉質、佳奈の倍はありそうな体格である。
顔つきもおよそ堅気の人間とは思えないような強面ばかりだった。
「なんだよ、お前ら? 邪魔すんなっ!」
体格差を物ともせずに掴みかかろうとする佳奈を、白音が慌てて止める。
「待って待って、ステイステイ。その人たち普通の人だって。佳奈がやったらミンチになっちゃうよ?」
男たちは「ミンチ」の言葉に一瞬怯んだが、それでも道は譲らなかった。
「我々の指示に従って下さい。あの男の措置は決定事項です。遺体も回収します」
と、話す間に巫女の姿を見失ってしまった。
男たちに注意を向けた一瞬の間に消えていた。
少し不自然な消え方だったから、まだ他にも魔法を使う者が関与しているのかもしれない。
スーツの男たちはいくら食い下がろうとも何も説明することはなく、決定事項の一点張りだった。
「そうするようにどこかから命令を受けている」といったところだろう。容易に想像ができる。
しかし白音は、そのやり方が佳奈に対して悪手なのをよく知っている。
そろそろ佳奈をクールダウンさせないとまずいことになりそうだった。
白音がそう考えていると、少し小柄な男が横から割って入ってきた。
男が白音たちに名刺を差し出す。
『外事特課 課長補佐 宮内寛次』と書かれている。
宮内は手を払う仕草で厳つい男たちを下がらせると、ひとりで魔法少女たちの相手をした。
他の男たちとは違って柔和な印象がある。
「皆さんのご協力、感謝いたします」
年齢が半分にも満たないような少女たちに向かって頭を下げる。
「国家緊急権、ということですか?」
そらが白音の背後から尋ねた。
どうしてそうなったのか知らないが、そらが怪我人のはずの莉美に抱きかかえられている。
莉美はコスチュームが少し血で汚れているが、もう平気な様子だった。
そらは、白音が手にした宮内の名刺を覗き込むようにしている。
彼女が言っているのは、危機的な事態において行政機関が独裁的な権限を発動する、という意味だ。
実際にはそこまで大袈裟なものではないだろうが、少なくとも基本的人権を無視した行為だったとは思える。
「の、ようなもの、とご理解下さい。この措置自体が記録には残りません」
「わたしたちが口外したら?」
白音がちょっと意地悪を言ってみた。
別にキレているのは佳奈だけではない。
「そうならないようお願いするしかありません。もしあなた方にその気になられたら、恥ずかしながら我々には止める手立てがないのです」
「あの人、死んじゃったんだよね? 殺さなくても良かったんじゃないの?」
そらを抱えた莉美が、宮内にというよりは白音に向かって訴えている。
白音は莉美のことを心配していた。怪我の具合ももちろんなのだが、それ以上に、男の死に責任を感じてしまっているんじゃないかと気がかりだった。
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