ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】

音無やんぐ

文字の大きさ
220 / 261
第二部 魔法少女は、ふたつの世界を天秤にかける

第17話 律動のメッセージ その二

しおりを挟む
 初めての街では何が起こるか分からない。
 だから十分気を付けていきましょうと白音が言うと、いつき、ちびそら、リプリンの三人が声を揃えて、愛らしい返事をしてくれた。

「はーい!」

 この子たちを見ていると白音には、国籍とか種族とか、どうやって生まれた生命体かとか、そんな小さな事はどうでもいいように思えてくるのだ。


 街の大通りは二本あり、それぞれが東と西、南と北の郭門を結んでいる。
 かなり蛇行はするものの、おおむね十字状に走っており、ふたつの道が交差するところには中央広場がある。
 魔族の時代からその構造は同じで、白音の記憶によればその中央広場には大きな市場マーケットが設けられていた。
 利便性から考えれば、今もそこには市が立っているのではないかと白音は予想している。
 北の郭門からその中央広場方向へと馬車を進めながら、白音は自分たちと同じように大通りを走っている他の馬車の様子を窺い始めた。

「どうかしたんすか?」
「あ、うん。どこかに一旦、馬車を停めたいんだけど…………」

 白音は馬車の扱いには慣れているのだが、それは前世の近衛隊での従軍経験からである。
 だから輜重しちょう、すなわち軍需物資の輸送でしか使ったことがなかった。
 従って街中まちなかで停めるにはどうすればいいのか、その勝手が分からないのである。

「馬車だけならおなかに入るよ?」
「!?」

 リプリンにそう言われて白音は一瞬驚いた。
 しかしあの巨大ボルークが入ったのだから、確かに馬車くらいならいけそうだなとすぐに思い直す。

「お願いできる?」
「あい!」

 道の脇へと馬車を寄せると、リプリンがなんの前触れもなくいきなり巨大化した。
 できるだけ目立ちにくそうな場所を選んではいたものの、白音は慌てていつきの方を見る。
 すると彼女は既に幻想ファンタジアの魔法を投射キャストし終えていた。
 咄嗟の場合にいつきは羽織ったローブの下で魔法少女へと変身し、即座に魔法で周囲の目を誤魔化してくれる。
 自身の変身自体も幻想ファンタジアで隠蔽するので、魔力エーテルの流れで感知されるということもない。
 本当に優秀な幻覚魔法の使い手だ。

「オッケーっすよ」

 しかし二頭の馬たちは幻覚の内側にいるので、リプリンの姿がはっきりと見えている。
 すぐ側で彼女がいきなり巨大な水塊に変じたので、大きく恐慌してしまった。

「ちょっともう……、いきなりやるとこの子たちが怖がるでしょ」

 白音が馬たちに能力強化リーパーをかけて必死で宥める。
 その方が馬たちの理解力が高まるため、落ち着かせやすいのだ。

「ごめんね」

 リプリンは一瞬で馬車を丸呑みにし終えていた。
 彼女が元の愛らしい女の子の姿に戻って馬たちに近づくと、二頭はタイミングを合わせるようにして、「ぶふーーっ」と盛大に鼻息を吹いた。

「うひゃあぁぁっ…………」

 鼻息の嵐を受けたリプリンの体表に、面白いように複雑な模様のさざ波が立ったリプリング

 何はともあれ、おかげで身軽になることができた。
 馬たちもそのことはちゃんと理解しているらしい。
 すぐに機嫌を直してリプリンの体に鼻をすり寄せたり、腕をはむはむし始めた。

「食べちゃダメ!」

 しかし馬たちのはむはむが止まらなくなった。
 どうやらリプリンの不思議な触感(食感?)が気になるらしい。

「それにしても、相変わらずものすごい量入るわね。ほんとどうなってるのかしら……」

 白音としてはリプリンの食感よりも、その腹具合の方がよほど気になる。

「リプリンが胎内にものを取り込むと、一恵の次元魔法に似た空間を操る魔法が働くと推測。しかし非生物限定となると、大量に食べ物を摂取するための貯食能力、たとえばリスの頬袋のようなものから進化したように思える」

 ちびそらが白音の疑問に対する見解を述べた。
 彼女はリプリンが巨大化する寸前に危険を察知して、既に馬のたてがみへと飛び移っている。

「やっぱり、食いしん坊のための能力ってことなのかしら……。すごく助かってるけどね」


 白音とリプリンがそれぞれ馬の手綱を引いて歩くことにした。
 いつきは大きな馬のすぐ側を歩くのがちょっと怖いらしい。
 なんとか慣れようとしているのか、何度も近づいたり離れたりを繰り返しながら歩いている。
 ちびそらは馬のたてがみの中に上手く姿を隠すようにして、高いところから街の眺めを楽しみ始めた。

「これからどうするのー?」

 リプリンがふんふんと、周囲の匂いを嗅ぎながら聞いて来た。
 今し方呑み込んだ馬車は『食べちゃダメ』なものなので、もしかしたらおなかが空いているのかもしれない。

「まずは冒険者ギルドハローワークに行きましょうか。そこで宿を紹介してもらえると思うわ。その後で市場に向かいましょう」

 できれば日が暮れる前には市場に行き、そこで食事をしながら情報収集もしたいと白音は考えていた。

冒険者ギルドハローワークって、一時滞在の人でも行っていいんすかね?」

 いつきは、観光ビザで働くのはいけない事なのではないか? というような感覚で言っているのだと思う。

「みんなを見つけるために、できるだけ多くの情報が欲しいしね。行くだけならいいんじゃない? それに多分日本じゃないから、一時滞在で働いちゃいけないとかのルールは無いと思うわよ?」

 白音といつきがそんな話をしていると、リプリンが突然叫んだ。

「おいしい匂いがする!!」


 白音たちは南下する大通りを逸れて、少し西へと進んでいた。
 付近の人に聞き込みをして、そちらの方に冒険者ギルドハローワークがあると教えてもらったからだ。
 しかし叫んだリプリンの方を見てみると、両方の瞳の中に『左折』の矢印が出ている。
 比喩でもなんでもなく、本当に矢印が表示されている。
 そちらから食欲をそそる食べ物の匂いがするのだろう。
『美食ナビゲーション装置』みたいになっている。
 試しに白音も匂いを嗅いでみると、確かに食欲をそそるいい匂いが漂っているのが感じられた。
 市場の方からなのだろう。
 もちろん白音もいつきもおなかは空いている。
 だから折れることにした。

「オーケーオーケー、ひとまず何か口に入れましょうか」

 もちろん左に折れる。


 広場には多くの露天商が店を並べており、大変な賑わいを見せていた。
 食べ物から雑貨、装身具など様々なものを扱う店が所狭しと商売をしている。
 白音は広場へと足を踏み入れると、真っ直ぐにそのうちのひとつへと向かった。

「何か買うんすか?」

 いつきがその店の品揃えを眺めながら聞いた。
 装身具を多く扱っている店のようで、白音の目の前には綺麗なブレスレットが並べられている。

「いえ、わたしはブレスレット持ってるからいらないわ」

 誕生日にリンクスからもらった桜瑪瑙さくらめのうの腕輪は、異世界にもしっかりと持ってきている。
 白音にはそれがひとつあれば十分だった。
 しかしこちらの世界では普段から荒事に巻き込まれる可能性が高い。
 そのため壊してしまうのが嫌で、ずっとしまいっ放しになっているのだ。

「んじゃ、いったい何を?」

 白音は装身具アクセサリー屋の男性と人族語で会話をすると、幾ばくかの金銭を渡した。
 二十代前半くらいといった感じの若い男性だ。

「この子たちを預かっていてもらおうと思って」

 白音はそう言って、自分たちの馬を装身具アクセサリー屋の裏手へと連れて行った。
 そこには頑丈そうな石柵が設置されており、既に何頭か馬が繋がれている。
 そこが馬繋場ばけいじょうということらしかった。

「ここでお店を出す人たちは、みんな馬車で荷を運んできて、その荷台を固定して屋台にしてるでしょ」

 白音の言うとおり、装身具アクセサリー屋の屋台には車輪が付いていて、それが転がらないように固定されている。
 馬車の荷台に屋根を付け、その前に陳列用の台を置けばすぐに完成する可搬式の屋台だ。

「馬はみんな周囲の柵に繋いでるみたいだったから、頼み込んでこの子たちも一緒に見ててもらおうと思って」

 そう言いながら白音は、自分の鞄から鈴の飾りを取り外し、馬のたてがみに結わえている。

「それは?」
「何か現世界のものだと分かるような飾りを付けておけば、絶対に盗まれないらしいわ。持ち主が召喚英雄なら犯人を突き止める魔法が使えるかもしれないし、もし突き止められたら何をされるか分からないからですって」
「なるほどっす」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

処理中です...