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3章最悪な旅行

2章4話助けて

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 それから、私はレイカ達と合流し、海へ行って泳いだり、日光浴をして、楽しいバカンスを満喫した。
 やがて、夕方になり、別荘に戻った。
 きっと、楽しい旅行はこのまま続くのだと誰しもが思っていた。
 だが、その重厚の扉が開いた先に待っていたのは血の惨状だった。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁあ!」

「ああああ!」

 レイカとスルガの悲鳴が響き渡り、他はあまりの衝撃の光景に絶句する。
 包丁が心臓に刺さったまま、血まみれになった状態で横たわる男。
 それは今朝挨拶してくれた頭頂部が禿げ上がった管理人のおじさんだ。
 誰も近寄ろうとしないので、咄嗟に、私はその男に駆け寄り、必死で呼び掛ける。

「大丈夫ですか! 大丈夫ですか! 大丈夫ですか!」

 私は心臓の鼓動を確認し、脈を計り、暗い顔をする。
 レイカは強張った表情で、問い掛ける。

「死んでるの?」

「……」

「ねぇ! どうなの?」

 私は悲しい無言を貫いた後、顔を隠し、首を振る。

「死んでるわ」

 皆、驚愕と絶句をする。
 
「え……そんな」

「嘘よね」

 重い沈黙が続く、
 その時、誰かの恐ろしい呻き声が聞こえた。 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 皆は、咄嗟に殺害した犯人だと思い、必死で周囲を確認する。
 しかし、誰もいない。
 いや、なんと死んでるはずのおじさんの身体がピクッと動き、驚くことに起き上がったではないか。
 レイカは一段と大きな声で叫ぶ。

「きききゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 その血を被ったミイラのおじさんは眼鏡を掛け直し、笑みを漏らす。


「なんてねー。あはははは」

「……え」  

「死体が笑ってる」   

「やだな。僕だよ、僕、管理人のおじさん」

 皆は一瞬理解できず、必死で理解しようする沈黙の時間が続いた。
 そのミイラのおじさんは、気まずい空気を察して、明るく場を和ませる

「そんなに怖がらなくても、僕は死んでない。ほら、この通り、この包丁は作り物さ。あははは」

 血染まった包丁はただの玩具の包丁で、特殊な液体を塗っただけだった。
 管理人のおじさんは証拠として、特殊な液体の瓶を示した。
 だが、スルガだけは信じられず、気絶した。
 子供達はスルガの不甲斐なさにも、またも絶句した。

          *
「いや、ごめん。ごめん」

「あんた自分が何やったか分かってる?」

「まあまあ、管理人さんは悪気あってやった訳じゃないのよ」

 対面で頭を掻き、申し訳なそうに謝る管理人のおじさん。
 けれど、レイカは腕を組み、怒りは収まらない。

「スルガもスルガで、私達の中じゃ一番年上なのに、なんなのあの無様な姿は」

「ははは……確かにね」

 見つめる視線の先はソファーでぐったりと、白眼を剥きながら気絶しているスルガ。

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