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2章英雄と龍魔王

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 断りの言葉を口にしようとした瞬間、イリスがあの悲しい紅の両眼で、下向き、か細い腕を震わせながら、今までに自信の無い顔を見せる。

「私はそんなに強くない……強くない……強くない。本当は弱くて、泣き虫で、いつも一人で……」

 涙を浮かべる彼女は暗い言葉を並べ立てる。
 アタマカラは弱々しい彼女の姿に涙腺が耐えられずに、思わずイリスを抱きしめる。
 端からだと白い巨人が華奢な彼女を襲っているようにしか見えないだろう。
 彼女はきっといつも、一人でこの暗い家で過ごしていたのだろう。
 あえて、家族の話を聞くことはしなかったが。
 もしかしたら、彼女は聞いて欲しかったのかもしれない。
 誰かに弱味を見せたかった、安らぎを求めていたのではないかと思った。
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