9 / 32
第一章:獲物と番犬~二つの純粋を穢す調律~
第八話:番犬の怒りと絶望
しおりを挟む
予感は的中した。
三日後、リーゼが再び「愛の密会」へと向かう夜。俺は二階の窓の隙間から、その光景を静かに観察していた。
リーゼは、周囲を過度に警戒しながら、裏通りへと足を踏み入れた。その様子は、罪を犯す者のそれだ。清廉な治癒師の魂は、既に背徳の蜜に慣れきってしまったらしい。
そして、その影を追う者がいる。
重装甲を脱ぎ捨て、黒いマントを纏ったイザベラだ。彼女は闇に溶け込もうと必死だが、その鍛え上げられた体躯と、隠しきれない騎士としての気迫が、彼女の存在をかえって際立たせている。
その愚直な正義感が、哀れで、そして愛おしい。彼女は今、自分の友情を裏切ったリーゼへの悲しみと、そのリーゼを狂わせた魔術師への怒りで、胸を張り裂けさせているだろう。
リーゼは、裏通りの奥にある、俺の店『黒曜の瞳』へと吸い込まれていった。扉が開く音は微かだが、イザベラの心臓には、雷鳴のように響いたに違いない。
そして、間もなく、二階の私室の窓に、微かなランプの光が灯る。
リーゼが俺の私室に入ったことを確認したイザベラは、もはや理性を保てなかった。彼女の瞳は怒りの炎を燃やし、その顔は悲痛な裏切りに歪んでいる。
——番犬は、ついに吠え始めた。
イザベラは、裏口からではなく、店の表扉を乱暴に蹴破って店内に雪崩れ込んできた。
「ヴァリス!出て来い、この外道が!」
その怒声は、この小街の静寂を切り裂く。イザベラの声には、正義の剣を振りかざす者特有の、揺るぎない確信が込められていた。
俺は、一階の扉が破壊される轟音を聞きながら、二階の私室で優雅に火酒を呷った。ミランダは、俺の隣で静かに跪き、その光景を歓喜で受け入れている。
「ヴァリス様…っ、獲物を守る番犬が、牙を剥きましたね」
ミランダの瞳は、まるで美しい劇を見ているかのように潤んでいた。彼女にとって、これは俺の支配の絶対性が試される、神聖な儀式なのだ。
「ああ、ミランダ。最高の舞台だ。その番犬の誇りを、お前と二人で白濁の悦楽に沈めてやろう」
俺は立ち上がり、黒髪黒目の瞳に冷たい光を宿した。
「リーゼに、下の喧騒など気にする必要はないと伝えろ。彼女には、俺の愛の奉仕を続けるようにと」
ミランダは、恍惚とした表情で頷き、奥の階段から階下へと降りていった。
俺はゆっくりと階段を降りた。一階の店内に立っていたのは、怒りに燃えるイザベラと、そのすぐ側で、怯えながらも狂信的な愛を訴えるリーゼだった。
「イザベラ、やめなさい!ヴァリス様を侮辱しないで!」
リーゼは俺を庇うように立ち塞がっている。指輪から流れる魔力は、彼女の理性を完全に麻痺させていた。
イザベラはリーゼを押しやり、俺に向かって、震える指を突きつけた。
「卑劣な魔術師!あなたはリーゼに何を付与した!?彼女の心は、あなたの邪悪な魔術で汚されている!」
イザベラの青い瞳には、涙と憎悪が混ざり合っていた。彼女の友情と正義感は本物だ。その清廉な怒りこそが、俺の欲望を最高潮に刺激する。
俺はゆっくりと眼鏡を押し上げた。
「騎士さん。何を勘違いしている」
俺は、慈悲のかけらもない、冷酷な笑みを浮かべた。
「俺はリーゼに、彼女が最も欲していたものを与えただけだ。お前という貧弱な友情では満たされなかった、絶対的な愛をな」
俺は指を鳴らした。
「そして、その愛を受け入れた彼女の身体は、今や俺の玩具だ。お前はただの敗者。一歩遅く、獲物を闇の底に奪われた、哀れな番犬に過ぎない」
イザベラの顔色が一気に青ざめた。彼女は、俺の言葉が真実を突いていることを理解した。リーゼの心は、もはや彼女の知るリーゼではない。
「ふざけるな!今すぐその魔術を解け!そうでなければ、この剣で、お前を切り刻んでやる!」
イザベラは、カウンターに置いてあった自分の剣を掴み、怒りに任せて俺に斬りかかろうとした。
その抵抗こそが、俺が待っていた瞬間だ。
俺は魔力を練り上げた。力ではなく、支配のための魔術。イザベラのような誇り高い騎士にとって、最も屈辱的な隷属の鎖。
「抵抗するのか、騎士。その誇りと正義ごと、調律してやろう」
俺の口元に浮かんだのは、冷酷な付与術師の、勝利の予感に満ちた笑みだった。
(続く)
三日後、リーゼが再び「愛の密会」へと向かう夜。俺は二階の窓の隙間から、その光景を静かに観察していた。
リーゼは、周囲を過度に警戒しながら、裏通りへと足を踏み入れた。その様子は、罪を犯す者のそれだ。清廉な治癒師の魂は、既に背徳の蜜に慣れきってしまったらしい。
そして、その影を追う者がいる。
重装甲を脱ぎ捨て、黒いマントを纏ったイザベラだ。彼女は闇に溶け込もうと必死だが、その鍛え上げられた体躯と、隠しきれない騎士としての気迫が、彼女の存在をかえって際立たせている。
その愚直な正義感が、哀れで、そして愛おしい。彼女は今、自分の友情を裏切ったリーゼへの悲しみと、そのリーゼを狂わせた魔術師への怒りで、胸を張り裂けさせているだろう。
リーゼは、裏通りの奥にある、俺の店『黒曜の瞳』へと吸い込まれていった。扉が開く音は微かだが、イザベラの心臓には、雷鳴のように響いたに違いない。
そして、間もなく、二階の私室の窓に、微かなランプの光が灯る。
リーゼが俺の私室に入ったことを確認したイザベラは、もはや理性を保てなかった。彼女の瞳は怒りの炎を燃やし、その顔は悲痛な裏切りに歪んでいる。
——番犬は、ついに吠え始めた。
イザベラは、裏口からではなく、店の表扉を乱暴に蹴破って店内に雪崩れ込んできた。
「ヴァリス!出て来い、この外道が!」
その怒声は、この小街の静寂を切り裂く。イザベラの声には、正義の剣を振りかざす者特有の、揺るぎない確信が込められていた。
俺は、一階の扉が破壊される轟音を聞きながら、二階の私室で優雅に火酒を呷った。ミランダは、俺の隣で静かに跪き、その光景を歓喜で受け入れている。
「ヴァリス様…っ、獲物を守る番犬が、牙を剥きましたね」
ミランダの瞳は、まるで美しい劇を見ているかのように潤んでいた。彼女にとって、これは俺の支配の絶対性が試される、神聖な儀式なのだ。
「ああ、ミランダ。最高の舞台だ。その番犬の誇りを、お前と二人で白濁の悦楽に沈めてやろう」
俺は立ち上がり、黒髪黒目の瞳に冷たい光を宿した。
「リーゼに、下の喧騒など気にする必要はないと伝えろ。彼女には、俺の愛の奉仕を続けるようにと」
ミランダは、恍惚とした表情で頷き、奥の階段から階下へと降りていった。
俺はゆっくりと階段を降りた。一階の店内に立っていたのは、怒りに燃えるイザベラと、そのすぐ側で、怯えながらも狂信的な愛を訴えるリーゼだった。
「イザベラ、やめなさい!ヴァリス様を侮辱しないで!」
リーゼは俺を庇うように立ち塞がっている。指輪から流れる魔力は、彼女の理性を完全に麻痺させていた。
イザベラはリーゼを押しやり、俺に向かって、震える指を突きつけた。
「卑劣な魔術師!あなたはリーゼに何を付与した!?彼女の心は、あなたの邪悪な魔術で汚されている!」
イザベラの青い瞳には、涙と憎悪が混ざり合っていた。彼女の友情と正義感は本物だ。その清廉な怒りこそが、俺の欲望を最高潮に刺激する。
俺はゆっくりと眼鏡を押し上げた。
「騎士さん。何を勘違いしている」
俺は、慈悲のかけらもない、冷酷な笑みを浮かべた。
「俺はリーゼに、彼女が最も欲していたものを与えただけだ。お前という貧弱な友情では満たされなかった、絶対的な愛をな」
俺は指を鳴らした。
「そして、その愛を受け入れた彼女の身体は、今や俺の玩具だ。お前はただの敗者。一歩遅く、獲物を闇の底に奪われた、哀れな番犬に過ぎない」
イザベラの顔色が一気に青ざめた。彼女は、俺の言葉が真実を突いていることを理解した。リーゼの心は、もはや彼女の知るリーゼではない。
「ふざけるな!今すぐその魔術を解け!そうでなければ、この剣で、お前を切り刻んでやる!」
イザベラは、カウンターに置いてあった自分の剣を掴み、怒りに任せて俺に斬りかかろうとした。
その抵抗こそが、俺が待っていた瞬間だ。
俺は魔力を練り上げた。力ではなく、支配のための魔術。イザベラのような誇り高い騎士にとって、最も屈辱的な隷属の鎖。
「抵抗するのか、騎士。その誇りと正義ごと、調律してやろう」
俺の口元に浮かんだのは、冷酷な付与術師の、勝利の予感に満ちた笑みだった。
(続く)
0
あなたにおすすめの小説
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる