魔術卿メディスの復讐譚~聖なる雌は快楽に堕つ~

ナイトメア・ルア

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第一章:背徳の甘露、聖都の微熱

第二話

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第二話

リリス・エルガルドは、主メディス・クロノスの命を受け、領都リディアへと到着した。聖都から南西に位置するこの領都は、城塞都市グレイウォールの影響下にあり、北方大陸の中では比較的平穏な場所とされていた。しかし、リリスの鋭い眼には、その平穏の下に隠された、人間たちの淀んだ欲望と悪意が透けて見えた。

メディスが求めたのは、聖都の注意を惹きつけるための「派手な暴れ方」と、最初の「奴隷妻」となるに相応しい器だ。

リリスはまず、領都の裏社会を支配していた悪党たちを一掃した。彼女の削除魔術は、痕跡を残さずに人間を消滅させ、その存在自体を世の記憶から隠蔽する。それは凄惨な光景であったはずだが、彼女の瞳には、ただ主の命を遂行する純粋な狂気だけが宿っていた。

悪党の棟梁たちが忽然と姿を消したことで、領都リディアの治安は一時的に回復し、市民の間には奇妙な安堵感が広がった。だが、これはメディスが撒いた、より深い支配の種だった。悪を排除することで、聖王国は「善の騎士団が動いた」と錯覚し、事態を矮小化するだろう。

リリスが次に狙いを定めたのは、リディア衛兵団の末端兵士、セリアという名の女だった。

セリアは、元々、聖王国騎士団に憧れを抱き、正義感に燃えて衛兵になった。しかし、現実は違った。汚職にまみれた上司、賄賂で悪事を見逃す同僚、そして、領主の悪政。セリアは、清廉であろうとするほど、現実に押し潰され、内面に深い無力感と、満たされない渇望を溜め込んでいた。地味な制服に隠された体は華奢であったが、規律を保つために常に緊張し、その肉体には秘められた性的な抑圧が凝り固まっているかのようだった。

深夜。衛兵団の詰所で、一人警備日誌をつけていたセリアは、窓の外から入り込んだ、微かな、甘い香りに気付いた。

「この匂いは……聖都の報告にあった、あの泉の……?」

その香りは、意識を溶かすような濃厚な甘さを含んでいた。それは、単なる花の匂いではなく、内臓の奥底を直接撫でられるような、背徳的な官能性を帯びている。セリアの神経を鋭く刺激し、彼女の清廉であろうとする理性を、そっと、しかし強引に崩しにかかった。

セリアは突然、全身に微かな熱を感じた。衛兵の制服の下、特に太ももの内側や、胸元の奥が、わけもなく熱を帯びる。

「くっ……何なの、これ……」

彼女は日誌を握る手をきつく締め付けた。この感覚は、清廉な衛兵として、断じて抱いてはいけない汚れだ。長年、無視し続けてきた、どうしようもない女としての情欲が、この甘い香りに誘われて、身体の奥底から浮上してくるかのようだった。

その時、詰所の扉が静かに開いた。そこに立っていたのは、月明かりを背負った、黒い魔術師のローブを纏うリリス・エルガルドだった。彼女の視線は、セリアが内面に抱える情欲を、全て見透かしているかのように深く、そして傲慢だった。

「おやおや、汚職にまみれた領都の片隅で、まだ正義を気取っている哀れな子羊がいたのね」 リリスの声は冷たいが、セリアの耳には、その言葉の全てが、甘い嘲笑のように響いた。

セリアは反射的に剣に手をかけた。 「貴様は……! この街で悪事を働いた魔術師か!」

「悪事? いいえ。主メディス様は、貴方たちが正義と呼ぶものの真実を見せてあげただけよ」 リリスは静かに、しかし絶対的な魔力を帯びた笑みを浮かべた。

セリアは剣を抜き放ち、リリスに斬りかかった。しかし、リリスは動かない。セリアの剣がリリスに届く寸前、彼女の体は、透明な壁にぶつかったかのように弾き飛ばされた。

「無駄よ。聖王国の矮小な魔術など、古代魔術の支配の前では、赤子の戯れにも等しい」 リリスは、指先から黒曜石のような魔力を放った。それは、セリアの甲冑と制服をすり抜け、彼女の肉体、特に、熱を帯びていた太ももの内側と、腹部の中心へと、直接流れ込んだ。

「ああっ……!?」 魔力が注がれた瞬間、セリアの脳裏に、凄まじい快楽の嵐が吹き荒れた。それは、泉の水の微熱など比べ物にならない、肉体の全てを溶かし、骨の髄まで愛撫されるような、途方もない悦びだった。

(違う! 私は、正義のために……戦うべきなのに!)

セリアの理性が抵抗するが、無力だった。魔力は、彼女が長年抑圧してきた情欲の渇きを、一瞬にして見つけ出し、そこへ一気に流れ込む。彼女の体は、快楽によって弓なりに反り、剣を握る力さえ失い、がちゃりと床に落とした。

「貴方の内に溜まった、その無力感と情欲。それは、聖王国が貴方に与えなかった、本当の愛を渇望している証拠。主メディス様は、貴方の最も深い渇きを、満たしてくださるわ」 リリスは、快楽に喘ぐセリアの制服の襟を、無慈悲に引きちぎった。

露出した白い肌に、リリスの黒い魔力が支配の印を刻み始める。セリアは、肉体の極限の悦びに抗えず、瞳の奥に、涙と、そして初めて経験する背徳的な陶酔を滲ませた。

「こんな……こんな、汚れた……悦び……」 セリアの口から漏れる言葉は、もはや否定ではなく、官能的な懇願に近かった。

「そうよ。認めなさい。聖王国に尽くしても得られなかった満足を、主メディス様の快楽支配が与えてくれる。貴方は、正義の衛兵ではない。快楽に堕ちることを運命づけられた、魔術卿の奴隷妻となる器なのよ」

リリスはセリアの腰を掴み、彼女を立ち上がらせると、その全身に、さらなる快楽の魔力を流し込んだ。セリアの体は、もはや自分の意思では動かない。すべての感覚が、悦びによって支配され、脳は主メディスへの絶対的な服従を喜びとして認識し始めた。

セリアは、衛兵の制服を脱ぎ捨て、リリスの足元にひざまずいた。彼女の瞳は、もはや正義の光を失い、メディスへの狂信的な忠誠の炎に焼き尽くされつつあった。

翌朝。領都リディアは、悪党の一掃と、衛兵団の混乱という、二つのニュースに揺れた。

しかし、衛兵団の混乱は、セリアの削除魔術によって、彼女が衛兵団を裏切り、悪党たちと共に逃走したという、もっともらしい報告にすり替えられた。悪党を消し去り、その場所を清めたかのように見せかけた上で、衛兵団の制服を汚す最初の女を確保する。リリスの周到な手口だった。

この「悪党一掃」の報は、すぐに聖都ウィンターヘヴンにも届いた。

白銀騎士団本拠地。セレフィナは、その報告を聞き、眉間に深い皺を刻んだ。

「領都リディアの悪党が一掃された? しかし、衛兵団の一部の女兵士が悪党に加担し、逃走しただと?……悪辣な魔術師が、自らの手で悪を潰すなど、矛盾しているわ」

副団長が戸惑いを隠せない。 「団長。もしかすると、件の魔術師は、世論を味方につけるために、目障りな悪を排除しただけかもしれません。聖都の泉の件といい、この魔術師は、我々の精神を攪乱することに長けているようです」

セレフィナは、報告書を強く握りしめた。彼女の脳裏には、またしても、あの甘く背徳的な香りが微かに蘇り、胸の奥を熱くする。

「汚いやり方だわ。善の仮面を被って、聖王国の足元を崩そうとしている。この愚かな悪党に、私の剣が届く前に、これ以上の被害を出すわけにはいかない」

彼女の怒りは、衛兵団の汚職や、悪党の存在といった、聖王国の不完全さそのものに向けられていた。そして、その不完全さを突いてくる魔術卿メディスの存在が、彼女の使命感を極限まで高めていた。

「白銀騎士団全隊に命じる。領都リディア、そして北方の嘆きの森方面へ、即刻出陣する。目標はただ一つ、魔術卿メディス・クロノスの討伐よ!」

セレフィナの冷たい瞳に、決意の炎が燃え盛った。彼女は甲冑の全てを締め上げ、聖なる使命の剣を佩いた。

しかし、彼女はまだ知らない。この出陣こそが、メディスが望んだ通りの展開であり、彼女の清廉な精神と肉体が、快楽の奈落へと落ちるための、避けられない最初の罠へと向かっているということを。
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