3 / 8
プロローグ
魔獣との闘い
しおりを挟む一連の騒動が続くビルの高層階。
メインエリア中央の吹き抜けを挟み、全身を金属で覆われた巨大な魔獣と、赤い髪と瞳を淡く輝らせるジークは対峙していた。
おもむろに右手を前に差し出すジーク。
すると何もない空間から長身両刃の剣が現れる。剣の持つ役割に対し、現代科学によって合理性を追求したような先進性を感じさせる見た目の剣だ。
ジークはその剣を両手で握り、顔の横に構え戦闘態勢をとった。
ジークがぬん!と力を籠めると、剣は赤く刃が輝り炎のようなオーラをまとう。
「こちらジーク。レイ。今から三十秒後にポイントZの爆弾を起爆してくれ。」
「え!?マジ!? 了解だが…… 応援必要か?」
「こっちは大丈夫だ。ルルを頼んだぞ!」
そう言って話を終えるジーク。
――グアアアアアアアッ!!
敵の発し始めたオーラに警戒し、ここまで様子を伺っていた魔獣が凄まじい声で雄たけびをあげる。
その咆哮による音の振動でビル中のガラスが激しく音を立てて割れた。
その割れる音をまるでスタートの合図のように、魔獣は大きな口を開けジークに向けて飛び掛かった。
その巨体と金属の装甲で覆われた見た目から予想できる重量からは、想像もつかないほどのスピードでジークに突進し牙を向ける魔獣。
しかしジークは、その凄まじい運動エネルギーをもつ巨大な金属の塊を受け止めた。魔獣の巨大で鋭い牙を剣で受けたのだ。
ジークの体躯を考慮すればあり得ない、物理の法則を完全に無視したこの事実に魔獣も一瞬ひるむ。
その隙を見逃さず、魔獣の牙と接している剣をジークは思いっ切り上方に振り上げる。
魔獣はまるで顎の下から強烈なアッパーを食らったかのように上方に吹き飛ばされた。
そして露になった魔獣の腹に向けて、剣と同様に赤い光を帯びた足で、強烈な回し蹴りをお見舞いするジーク。
魔獣は物凄い勢いで吹き飛ばされ、飛び掛かる直前まで立っていた場所まで送り返される。さっきのお返しだとジークが言わんばかりの光景だった。
背中から通路に叩きつけられる魔獣。その衝撃に耐えられず通路も激しい音を立て崩れ落ちる。
受け身の取れなかった魔獣はなすすべなく、その巨体をあちこちにぶつけながら吹き抜けを一階に向けて落下していく。
まるで隕石でも落ちたかのような大きな音と地響きを鳴らし、一階に落下した魔獣。
続いてジークも一階に降り立つ。各階をジャンプしながら渡り降りてきたのだ。
ジークの一撃と落下の衝撃で、もがく魔獣。何とか起き上がり、あたりを見回し敵を探す。
一階は魔獣が落下した衝撃と上階から落ちてきた瓦礫で土煙が立ち込めていた。
煙の中にうっすらと赤く光る影。
それを発見した魔獣は、その正体を確認するまでもなく光に向かって牙をむき突進する。
しかしそこにあったのは、警備用のパトライトだった。
魔獣がお構いなしに勢いのままパトライトをかみ砕いた瞬間。
魔獣の頭上にジークが現れる。
パトライトはジークが転がした陽動作戦だった。
その手には三メートルはある槍が握られている。一階でレイと戦ったあの強化兵のものだろう。レイに倒され、床に転がっていたものをジークが拾ったのだ。両手剣と同様に、槍の矛先は赤い光を帯びていた。
その槍で魔獣の頭を上から突き刺そうとした瞬間。
ジークの視界の端に煙の中から大きな影が現れ、物凄いスピードで空中にいるジークに迫る。
空中にいるため避けることができず、その巨大な影に薙ぎ払われるように吹き飛ばされるジーク。
その影の正体は魔獣の巨大な尻尾だった。
鞭のようにしなり金属装甲の重量と硬度でさらに威力を増した強烈な一撃。
ジークは壁に叩きつけられながらも、かろうじて受け身を取っていた。しかしさすがにダメージを隠せない様子。
魔獣は咆哮をあげながら間髪入れずジークに追い打ちの突進を仕掛けようとする。
が、何かに引っかかるように魔獣の動きが一瞬止まる。
土煙の中うっすら赤く光る、魔獣の右後ろ足。
そこには強化兵の長い槍が、魔獣の足を貫き深く突き刺さっていた。
魔獣がその後ろ足に気を取られている隙に、いつの間にか態勢を立て直しているジーク。まるで、壁に叩きつけられていたのは陽動だったのだと言わんばかりだった。
再び赤いオーラを槍に纏わせ、今度は左前脚に思い切り突き刺す。
痛みを感じるのか、雄たけびをあげる魔獣。
魔獣がもがく中、残る二つの足と尻尾の先端にも、素早く一本ずつ槍を突き刺していくジーク。ちょうど計五本の槍が一階に転がっていたのは、レイが強化兵を倒しておいてくれたおかげだ。
五本目を突き刺すと同時に、ビルのあちこちで連続的に小規模の爆発音が鳴り響く。
魔獣との戦闘開始前にジークがレイに指示した爆弾が起爆したのだ。
激しい音とともに崩れ始めるビル。一階部分から崩れ始め、二階、三階と次々にきれいに崩れ落ちてくる。
確実にビルが倒壊するよう、建物構造に熟知したものが綿密に仕掛けたもののようだった。
もがき暴れまわり、魔獣の手足に突き刺さったすべての槍が抜けるころには時すでに遅し。
魔獣に頭上から大量の瓦礫が降り注ぐ。
ビルは完全に倒壊した。
ビルの倒壊から数分後。
ジークはビルの地下にある駐車場にいた。
髪と瞳の光はすでに消えている。
魔獣に槍をすべて突き刺した直後、自身はすぐに脱出していたのだ。
魔獣からの逃走劇中でもビル構造を熟知していたジークは、当然地下への最短の逃走ルートも把握していた。
「こちらジーク。レイ。そちらの状況は?」
「お!無事だったか! こっちはとっくに本部まで帰還済みだ。もちろん姫さまも一緒にな!」
「了解!よかった! ミッション完了だな。俺も今から帰還する。」
「早く帰って来いよ? 任務完了祝いに今日は飲み行くからな!」
無線を終え、ふーっ、と一息つくジーク。
任務を無事終えた安堵と達成感を感じていた。
――パチパチパチ……
突然、駐車場内で拍手を打つ音が聴こえた。
不意の出来事に再び緊張感が走るジーク。
音の聴こえた方を振り向く。
そこには、ルルを監禁していた部屋に現れた、あの大柄で邪悪な雰囲気の男が立っていたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる