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6.陽炎姫と魔王の絆-③
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ヨアンが静かに微笑みながら頷く。
彼がヨアンだったのだ。生命の灯が消えかけているかのようなその様子に、幼い自分は思わず手を差し伸べていた。
「あれは、夢ではなかったのですね」
「夢じゃない。俺はあの時、フェリシアに救われたんだ」
「救われたなんて。ただ、あの時、あの男の子はとても顔色が悪くて、呼吸も止まってしまいそうに見えて…」
「そうだ。フェリシアが癒してくれなかったら、きっと俺は死んでいた。暴走した魔力に、身体が持ちこたえられなかったから」
窓辺の椅子にフェリシアを座らせると、ヨアンはあの時、何があったのかを話し始めた。
すべてを聞き終えたフェリシアは、あまりに辛い話に、涙を堪えることができなかった。
ヨアンの指がためらいがちに伸びてきて、フェリシアの涙をそっと拭う。
「あれから、フェリシアだけが、俺の希望だった。守りたかった。だから、ずっと見ていた」
そして、辛そうに顔を歪めながら、ヨアンは続けた。
「だけど、もしかしたら…。あの時俺を癒したことで、フェリシアは魔力の大半を使い切ってしまったのかもしれない。俺に会っていなければ、救えた命があったかもしれないのに…」
母と兄のことだ、と悟る。
この人は、本当にずっと、見守ってくれていた。フェリシアが辛い時、悲しい時、同じように苦しい思いを抱えて自分を責めながら、それでも目を逸らすことなく…。安心できる、信頼できると思えたのは、決して勘違いではなかった――。
「すまない、フェリシア。本当なら、俺はこんな風にフェリシアの前に姿を現してはいけない存在だったかもしれない」
苦しそうに拳を握りしめるヨアンを前に、胸が締めつけられる。
あの時の男の子を目の前にしているようで、フェリシアは居ても立っても居られず、自分より大きな彼を抱きしめた。
「ヨアン様、自分を責めないでください。私の魔力は、もとよりとても僅かな力でした。あの時ヨアン様を癒せたことの方が、奇跡なのだと思います」
「フェリシア…」
「ヨアン様は、私を助けてくださいました。ヨアン様が見守ってくださっていなければ、きっと私はもうこの世にいません」
そう伝えながら、何かが胸に引っ掛かった。
そう、昨夜、ヨアンは自分を救ってくれた。だが、もっと前にも…。
「ヨアン様、もしかしてあの時も…?私が毒を盛られた時…」
毒を盛られ生死の境を彷徨っていた時、フェリシアの手を握り、明るい方へと導いてくれた影。あの時の声――。
ヨアンは弱々しく微笑む。
「あの時…カラスの目を通じてフェリシアが毒に倒れたのを見た時、母の姿と重なって本当に怖かった。俺はフェリシアに救われてから、魔力を磨くと同時に、魔力を目一杯使ったとしても身体が力に飲まれることがないように、ずっと鍛錬を続けてきたんだ。もう二度と、大切な人を失いたくなかったから。フェリシアを、守りたかったから。──二度目は、フェリシアは、救えてよかった」
一度止まった心臓と呼吸。一体どれほどの力を注ぎ込んでくれたのか。
あの時、黄泉から引き戻してくれたのは、ヨアンだった。ずっと、ずっと自分はヨアンに守られていた──。
彼がヨアンだったのだ。生命の灯が消えかけているかのようなその様子に、幼い自分は思わず手を差し伸べていた。
「あれは、夢ではなかったのですね」
「夢じゃない。俺はあの時、フェリシアに救われたんだ」
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「そうだ。フェリシアが癒してくれなかったら、きっと俺は死んでいた。暴走した魔力に、身体が持ちこたえられなかったから」
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すべてを聞き終えたフェリシアは、あまりに辛い話に、涙を堪えることができなかった。
ヨアンの指がためらいがちに伸びてきて、フェリシアの涙をそっと拭う。
「あれから、フェリシアだけが、俺の希望だった。守りたかった。だから、ずっと見ていた」
そして、辛そうに顔を歪めながら、ヨアンは続けた。
「だけど、もしかしたら…。あの時俺を癒したことで、フェリシアは魔力の大半を使い切ってしまったのかもしれない。俺に会っていなければ、救えた命があったかもしれないのに…」
母と兄のことだ、と悟る。
この人は、本当にずっと、見守ってくれていた。フェリシアが辛い時、悲しい時、同じように苦しい思いを抱えて自分を責めながら、それでも目を逸らすことなく…。安心できる、信頼できると思えたのは、決して勘違いではなかった――。
「すまない、フェリシア。本当なら、俺はこんな風にフェリシアの前に姿を現してはいけない存在だったかもしれない」
苦しそうに拳を握りしめるヨアンを前に、胸が締めつけられる。
あの時の男の子を目の前にしているようで、フェリシアは居ても立っても居られず、自分より大きな彼を抱きしめた。
「ヨアン様、自分を責めないでください。私の魔力は、もとよりとても僅かな力でした。あの時ヨアン様を癒せたことの方が、奇跡なのだと思います」
「フェリシア…」
「ヨアン様は、私を助けてくださいました。ヨアン様が見守ってくださっていなければ、きっと私はもうこの世にいません」
そう伝えながら、何かが胸に引っ掛かった。
そう、昨夜、ヨアンは自分を救ってくれた。だが、もっと前にも…。
「ヨアン様、もしかしてあの時も…?私が毒を盛られた時…」
毒を盛られ生死の境を彷徨っていた時、フェリシアの手を握り、明るい方へと導いてくれた影。あの時の声――。
ヨアンは弱々しく微笑む。
「あの時…カラスの目を通じてフェリシアが毒に倒れたのを見た時、母の姿と重なって本当に怖かった。俺はフェリシアに救われてから、魔力を磨くと同時に、魔力を目一杯使ったとしても身体が力に飲まれることがないように、ずっと鍛錬を続けてきたんだ。もう二度と、大切な人を失いたくなかったから。フェリシアを、守りたかったから。──二度目は、フェリシアは、救えてよかった」
一度止まった心臓と呼吸。一体どれほどの力を注ぎ込んでくれたのか。
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