エディとルカ

うー吉

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エディとルカ 3

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朝から
ナタニエルと数人の兵士を連れて 休戦ラインを見る
「この辺りは その先の村でこの前戦闘になったようですね
ナレンの軍が仕掛けてきたと報告されてます」
「で どうなった」
「こちらが反撃すると 兵士は逃げて行ったようですが
村人だけをを捕虜に取ったと報告があったので ナレンへ連絡はしたのですが
返事はありません」
「何もなかったようにしたいだろうな」
「だた ひとりだけ軍人がいたようです」
「少年兵だったようで 置いていかれたのかもしれませんね」
「捕虜の食事などはきちんとしているのか?」
「そのあたりの報告はありません」
ナタニエルと顔を見合わせる
「見に行こう」
「はい」
と車を走らせる

雪が降り止み 寒さだけが残っている
見張り小屋の前に ひとりの女性が立っている
「どうした」とナタニエルが声をかける
「ルカが帰ってこないんです ルカが」と女性が訴える
「ルカが毛布をもらいに見張り小屋へ行ったのですが 帰ってこないんです」
「いつの話だ」
「昨日の晩です」
女性の姿を見る 雪が降るほど寒いのに 薄いシャツ一枚とボロボロのスカート
足元は靴はない
「捕虜の者か?」ナタニエルは自分の着ていたコートを女性にかけてやろうとするが 女性は遠慮する
「いけません こんなことをされれば またルカがぶたれます」
「ルカ?」
その時 見張り小屋の扉が開き 中から数人の兵士が出てくる
「たった数枚の毛布のためにあいつ何人相手してんだ?」
「兵長もそれぐらい出してやればいいのに」
「凍えて死んでもいいんだろ どうせ見放された捕虜だしな」
「ちがいねぇ」と笑いながら歩いていく兵士に声をかけた

部屋に飛び込む
男の匂いと血の匂いが混ざっている
「何をしている」大きな男に声をかける 男はゆっくり振り返る
「師団長も使われますか もうあまり反応ないんですけどね」
と血が流れている 足の傷を押さえる
「イッ」と小さな声が聞こえた
「どけッ」大男を押しのけ その子を見る
体全体に鬱血の後 ところどころから出血も見られる
手を縛ってある紐を切る コートで覆いその子を抱き上げる
あまりの軽さと熱さに驚く
「そいつを牢屋にぶち込めろ」と連れてきた兵士に命令する
「ここの責任者は」と言うと 青白い顔で立っていた
「昼まで時間をやる 何があったのか 私に報告に来るようにいいな」
と言い残して 車に乗り込む
女性にあなたも一緒に来てください と車に乗るように言った

軍の病院へと運ぶ
医師のジャンが 「こりゃひどいな」と一言だけ言って処置室へ消えた
「エディ着替えたほうがいい」とナタニエルがいう
あの子の血で服が真っ赤になっていた 手も真っ赤だった



女性は ハーニャと言った
「あの少年はあなたの息子さんですか?」
「ちがいます 昔大変お世話になった人の息子さんです」
「あの子の名前を聞いても?」
「ルカです いつかこうなるんじゃないかと思ってました
ナレン軍の軍人は村を捨てて逃げました ルカだけは逃げずに
エグザート軍の軍人から守ってくれました」
「ルカは 
『僕たちが村の平和を崩したんだ』と言って私たちの盾になってくれてました」
「捕虜の扱いが悪かったですか?」ナタニエルの質問に
「捕虜なので仕方ありませんが 子供たちがお腹を空かせたり寒さで震えているのを見るのはつらいです
ルカは私たちより責任を感じてしまって 食事もほとんど子供たちへ与えていました」
「背中の傷は知っていましたか?」
ハーニャは首を振る
「昨日は寒さが厳しくて ルカが毛布をもらいに見張り小屋へ行ったんです
それっきり帰ってこなくて 心配で小屋へ行きました」
「わかりました ナタニエル」
「では ハーニャさん行きましようか 施設へ案内していただけますか
人数分の毛布と温かい食事と子供たちには甘いお菓子を用意しましよう
今すぐはそれぐらいしかできないですが 問題点を教えていただければ
なるべく解決するように努力します お約束します」
「はい よろしくお願いします」とハーニャは頭を下げた
ナタニエルに背中を押され部屋を出ようとした時
振り向いて
「すいません ルカをお願いします」とエディに頭を深く下げて行った
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