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二人の思い

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心臓が、必要以上にドキドキしてくる。
顔が熱くなりそうになって、自分用にと買っておいたペットボトルのお茶を、顔を見られないようにがぶ飲みする。
まだ少しドキドキが、おさまらない。
押さえ込もうすると、余計にドキドキして…
こんなに厄介なドキドキなんって、初めてだった。
「…あの…桜との距離感は、桜の素なんだ…あの子の今カレにも中学のとき誤解されて…そのアイツが言うには、俺と一緒にいると、ホラあれだよ。女子との距離感に近くなるとかってやつ……だから。付き合ってるとか、変に誤解させたらゴメン。ホントにゴメン!!」

…って、俺…
なに言ってるの?

今、ライガくんに誤解されたくないって、思った…

「カケル?」

そう訪ねるとカケルは、ベンチから勢いよく立ち上がった。
チラッと横顔が、見えたけど…

…顔…赤い?

「あの! 俺、買い出し行かなきゃだから」
「えっ…うん!」
あっという間に走って行ったけど…
耳まで赤くなかった?
見間違い?

カケルが?

ちょっとは、保留の返事…
期待してもいいとか?
都合よすぎかな?

いやでも、去り際にあんな顔されたら…
期待すんなって言う方が、無理だし。
そんなふうに考えながら帰った ものだから。
たまたま家に居た姉に、
「アンタ…どうしたの?  そんなヨレヨレで、首からタオル掛けて…ダサそうだけど、ダサくないから不思議ね。アンタって…」
と、信じられないような顔をされた。
「えっ?  あぁ…ちょっと…」
正直、格好なんってどうだっていいやって、思えてしまった。
俺…服装に拘って選んだ学校で、
悩み事があるとしたら成績とか、進路だけだって思っていたから。
こんな初っ端から…
「どうした?  弟よ。顔真っ赤だぞぉ~っ」
今日一日の疲れと言うのか、一気に色々な感情が込み上げてきたらしいオレは、玄関前でまたしゃがみ込んだ。
「ライガ?!」
「あのさぁ…姉さん。洗濯の仕方、教えて」
「何…いきなり?」
ホントに何、いきなり言ってんだって話しだよね。
でも、貸してくれたタオルは自分で洗って返すのが、礼儀かなぁ…とか?  姉を頼って洗濯してみたけど…
家族の誰かと一緒だと出来るのに…ナゼ、自分だけですると泡だらけになるのか…
やっぱり。
「分かんねぇ…」
でも、取り敢えずって言うのか、フンワリと乾いたタオルが、机の上に畳まれて置かれている。
どうやって返すか?
昼休みに会うから、その時に返そうか?
そう考えるだけで、ドキッとするとか、オレ重症かよ…
でもこのドキドキは、嫌じゃない。



同時刻頃。
桜からの着信に気が付いたのは、夕飯を済ませてから間も無くのことだった。
済ませたと言っても、やっぱり食欲が微妙にない状態で…
余らせたおかずを、明日のお弁当のおかずに何って考えていたときで…
お昼休みは、ライガくんに…
「会えるかな……?」
って、今、会うじゃなくて会えるって俺、言った?
それとも重なって、桜には妙に怪しまれた。
「何…オロオロしてるの?  らしくない!」
「色々あって」
「それは、分かってるよわよ。じゃなくて、あのライガって子。私、最初は気付かなかったけど、SNSでは、なりに有名な子よね?」
有名?
そう言えば、俺が勘違いで告白したときにSNSが……どうとうか言っていたような気が…
「見てないの?」
SNS…?
「俺、そう言うの分からないし疎くって…」
「確かにメッセのアプリの使い方くらいで、ワーッワーッ騒いでたくらいだからね…期待してないけど…検索してみたら?  多分、RAIGAって出ると思うよ……」
「どうやって?」
返ってきた言葉は、そこから?
だった。
「あぁ~っもうぉ~っ、めんどくさい直接カレシにでも、聞きなさいよ!!」
おもいっきりガチャ切りされたけど…
「カレシ…?」
その言葉を聞いてボッと熱くなる。
行くなとか、行かないでって、抱き寄せられたときのライガくんの鼓動の早さとか…
一緒に、走らされたり。
バテて、ヨレヨレになっていたり。
あの触れられた指の感触に、柔らかい笑顔とか。
その全部が、自分に対して向けられているとか、言ったりすると堅苦しいけど…
自分を見てくれてるって、思うとギュッと苦しくなった。
ヒヤリとしたテーブルにコツンと、額をつけそのまま横を向き
目に留まったスマホを、手に取る。

さっきも思ったことだけど…
自分から。

ライガくんを、知ろうとしないと、
ずっと、保留のままだなんだ。

俺、自分から保留って言っておいて何も考えてない…

相談なんって言いながら。
逃げ道を考えてる俺は、他の誰よりもカッコ悪い。
「向き合わなきゃ…」
ボソッと声が、口を衝いた。

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