僕という花たちは…

315 サイコ

文字の大きさ
2 / 35

今年のクリスマスは…

しおりを挟む
 ここは……

 シルバーアクセサリーの工房兼自宅と店舗。
 
 勿論、ここの店主は俺で…

 従業員? とは少し違って同居人…
 いや…
 同棲してる恋人のセリとは、同じ大学に通っている同級生同士で…
 
 少し前まで、破局寸前…

 いやあれは、一度。
 破局したんだよな。
 
 「アサキどうしたの?」

 セリは、休憩にとレモングラスとハーブのお茶を、ホットで出してくれた。

 漂うレモングラスの香りと、飲む度に鼻を抜けるハーブのスーッのした感覚が、じんわりと染み込んでくる。

 「お疲れ様」
 「うん…」
 「もう暫く掛かりそうだね」

 店番や接客。
 店の掃除等を、受け持ってくれているセリは、俺の仕事の流れも理解しているから。
 今が、どの段階かを分かってくれている。
 
 「僕、店の方で店番してるから。何かあったら声を掛けて…」

 そう言うとセリは、レモングラスとハーブのお茶を淹れたカップと、講義で使う参考書を手に持って、店のカウンターに座った。

 で、参考書を読むのかと思えば…

 自然とその視線は、外へと向けられる。
 
 セリのヤツ。

 キラキラした街路樹のイルミネーションや、そのショップ独自の飾を、ワクワクした風な目で眺めてることに、気づいてんのかなぁ…
 
 見に行きたそうな顔してる。

 俺もまた、作業場からセリの目線に合わせるように顔を出し窓の外を眺める。
 
 毎年思うけど、凄い人の数だなぁ…

 「アサキ…仕事は?」
 「休憩中。セリこそ何見てんの?」
 
 カウンター座っていたセリが、こっちに向かって振り返る。

 「いや…クリスマスは、明後日なのに…凄い人だなぁ~って…」
 「そうだな…」

 去年までは、考えもしなかった。
 大切だって、思いながらも、大切にする意味を履き違えて…
 
 セリも、何も言ってくれなくて…
  
 こんな風にまた肩を並べてる事が出来るとか…
 想像出来なかった。

 今は…
 こうやって、隣に居てくれるだけで良いとか…

 内心で、思いながら照れ臭くなった。

 「どうしたの?」
 「いや…別に…」
 「そう」

 カウンターの椅子に座り直してセリは、またイルミネーションを眺め始めた。

 「…行くか? イルミネーション見に?」

 ピクッとした風に、肩を弾ませて俺に振り返ると同時にセリは…

 「行きたい!」と、立ち上がった。
 早々に店を閉めて、俺達は店の裏口から外に出る。

 夕方から冷えるとは、聞いていたけど…
 予想以上に寒くて、少し震えてしまった。
 
 「お店の方は、暖房がきいていたから。余計に寒く感じるのかも…」
 
 そう言って見合わせたお互いの鼻が、少し赤くて笑い合ってしまった。

 裏通り道から表に出ると途端に昼間かってぐらいにイルミネーションの明りで眩しくなる。

 店の表の通りは、多くの人が行き交って思い思いに明りを眺めては、笑顔になっていく。

 写真を、撮っている人もいる。

 「一緒に写真撮ろうか?」
 「うん!」

 セリの腕を引き寄せて、自分のスマホを傾ける。

 「ねぇ。その写真送ってよ!」
 「ちゃんと送るよ…」

 キラキラ笑ってるセリの顔が、幸せそうで良かった。
 
  
 今だからこそ、本当にそう思えてならない。

 

 話は、このプロローグから数ヶ月前に戻ることになる…




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

幸せごはんの作り方

コッシー
BL
他界した姉の娘、雫ちゃんを引き取ることになった天野宗二朗。 しかし三十七年間独り身だった天野は、子供との接し方が分からず、料理も作れず、仕事ばかりの日々で、ずさんな育て方になっていた。 そんな天野を見かねた部下の水島彰がとった行動はーー。 仕事もプライベートも完璧優秀部下×仕事中心寡黙上司が、我が儘を知らない五歳の女の子と一緒に過ごすお話し。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

僕は今日、謳う

ゆい
BL
紅葉と海を観に行きたいと、僕は彼に我儘を言った。 彼はこのクリスマスに彼女と結婚する。 彼との最後の思い出が欲しかったから。 彼は少し困り顔をしながらも、付き合ってくれた。 本当にありがとう。親友として、男として、一人の人間として、本当に愛しているよ。 終始セリフばかりです。 話中の曲は、globe 『Wanderin' Destiny』です。 名前が出てこない短編part4です。 誤字脱字がないか確認はしておりますが、ありましたら報告をいただけたら嬉しいです。 途中手直しついでに加筆もするかもです。 感想もお待ちしています。 片付けしていたら、昔懐かしの3.5㌅FDが出てきまして。内容を確認したら、若かりし頃の黒歴史が! あらすじ自体は悪くはないと思ったので、大幅に修正して投稿しました。 私の黒歴史供養のために、お付き合いくださいませ。

冬は寒いから

青埜澄
BL
誰かの一番になれなくても、そばにいたいと思ってしまう。 片想いのまま時間だけが過ぎていく冬。 そんな僕の前に現れたのは、誰よりも強引で、優しい人だった。 「二番目でもいいから、好きになって」 忘れたふりをしていた気持ちが、少しずつ溶けていく。 冬のラブストーリー。 『主な登場人物』 橋平司 九条冬馬 浜本浩二 ※すみません、最初アップしていたものをもう一度加筆修正しアップしなおしました。大まかなストーリー、登場人物は変更ありません。

綴った言葉の先で、キミとのこれからを。

小湊ゆうも
BL
進路選択を前にして、離れることになる前に自分の気持ちをこっそり伝えようと、大真(はるま)は幼馴染の慧司(けいし)の靴箱に匿名で手紙を入れた。自分からだと知られなくて良い、この気持ちにひとつ区切りを付けられればと思っていたのに、慧司は大真と離れる気はなさそうで思わぬ提案をしてくる。その一方で、手紙の贈り主を探し始め、慧司の言動に大真は振り回されてーー……。 手紙をテーマにしたお話です。3組のお話を全6話で書きました! 表紙絵:小湊ゆうも

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

クズ彼氏にサヨナラして一途な攻めに告白される話

雨宮里玖
BL
密かに好きだった一条と成り行きで恋人同士になった真下。恋人になったはいいが、一条の態度は冷ややかで、真下は耐えきれずにこのことを塔矢に相談する。真下の事を一途に想っていた塔矢は一条に腹を立て、復讐を開始する——。 塔矢(21)攻。大学生&俳優業。一途に真下が好き。 真下(21)受。大学生。一条と恋人同士になるが早くも後悔。 一条廉(21)大学生。モテる。イケメン。真下のクズ彼氏。

処理中です...