First Love.

時任志葵

文字の大きさ
上 下
6 / 22
再会

しおりを挟む


「いきなり僕を避けるようになって……10年間も、突然会えなくなった僕の気持ちが、レイに分かる?」
「あ、あまね……」
「レイ、どうして…どうして僕を避け始めたの……」

そんなの、お前が一番よく分かってるだろ!

そう叫びたかったがそれは叶わなかった。なんせ天音が、泣いていたのだ。

「この10年……会えなくて本当に辛かった…」

大きい瞳からぼろぼろ涙をこぼし、拭うこともしない天音は澪の手を強く握りしめる。繋いだ手から天音の痛みが伝わってくるようで、澪は思わず息を呑んだ。

「レイが俳優志望だっておばさんに聞いて…だから僕、街でスカウトされた時、同じ芸能界にいたらいつか会えるかもって……」
「天音……」
「そしたらほんとうに会えた…10年長かったけど、僕、いい子で待てたよ、レイ…」

澪の手に重ねる天音の手が震えていた。天音の体温に驚いて身を引こうとしたが、彼がそれを許さない。

グッとそのまま腕を引かれると、バランスを崩した澪は天音の胸に飛び込んだ。

「わっ、あ、天音!離せ!」
「もう絶対、離さない……離れたくない、レイ…っ」
「落ち着け、お願いだから離し……ッ」

こんな所で誰かに見られたら。

大人気アイドルのメンバーが男を抱きしめてる所を見られて、写真なんか撮られて拡散されたら。

自分のキャリアより、天音の事を考えた。

画面越しにしか彼の活躍は見た事なかったが、ステージの上にいる天音は澪の知らない顔をしてキラキラしていた。

歌いながらダンスして、それでも息が崩れないのだから相当努力しているのが分かる。少なからずあのステージ上は天音の大事な場所に見えるのだ。

そんな彼の大事な場所が脅かされる方が、澪にとっては何だか胸がざわついた。

「お前には、悪かったって思ってる。突然目の前から消えて…ごめん」
「……そんなんじゃ、納得出来ない」
「ごめん、でも……お前とちゃんと話せるようになるにはまだ、時間が足りない…っ」
「いやだ、レイ…やだ、僕はずっとレイと……!」
「――天音!ひぇっ、綾瀬さんすみません!本当にすみません!!」

天音を探しに来たのだろうマネージャーが、澪を抱きしめている彼の姿を見て青ざめる。すみません、すみませんと言いながら天音を引き剥がした。

「綾瀬さんのことになると言うこと聞かなくて……!今日は全体練あるからすぐ帰るって言っただろ!」
「……だって」
「だってもクソもない!メンバーみんな待ってんだから!」

マネージャーの手によって天音はズルズル引きずられていく。天音は引きずられながらも「また明日ね、レイ!」と必死に言っていた。

澪は休憩室の壁に身を預け、ため息をついた。

「………さいあく」

知ってしまった天音の体温に、澪はその場にうずくまった。


しおりを挟む

処理中です...