【花言葉~果実編~】

色酉ウトサ

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『博愛』<♀♀>

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~梨の花言葉~



 少女は、にこにことどこか機嫌良さそうに隣を歩く女を見つめながら、溜め息を吐いた。

「はぁ~…。」

(本当、何で誰に対しても優しいのよ…。)

「はぁ~…。」

「どうしたの?」

 再度溜め息を吐いた少女に気付いた女は、顔を近付けて少女の顔を心配そうに覗き込む。

 突然の事に驚いた少女だったが、すぐに愛想笑いを浮かべて‘何でも無いです’と答えた。
少女の返答に、未だ納得した様子を見せていない女だったが、それでも少女が笑みを張り付けていると、困った様に笑って顔を離した。

 その事にホッとしながらも、少女はチラッと前を向き直した女の横顔を盗み見て、眉を寄せる。

(…優しいのは、嫌じゃないけど…。)

 女は誰に対しても、どんな相手に対しても平等に優しく接する。
小さな頃から女の側で、女を見つめて来た少女はその事を身に染みて良く知っていた。

 つい先程も、二人で買い物をしている時、ふざけあってぶつかって来た男達に怒る訳でも無く、‘気を付けないと、あなた達も怪我をするわよ’と優しく声を掛けるだけだった。
あからさまに相手が悪いのに、女は常に相手を気遣い、決して誰を責める事も無い。

「…さっきの人達、ちゃんと謝ってましたね。」

「ええ。良い人達だったわね。」

「あの人達が謝るとは思いませんでした…。」

「あら、皆優しい人達なのよ?あの人達もね。ただ、ちょっと落ち込んでたり、傷付いてしまった時に相手を攻撃してしまうだけでね。」

「…それだけじゃ無いと思いますけど…。本当に、あなたは優しい人ですね…。」

(あなたは、相手に攻撃しないじゃない…。)

女の言葉に反論しながらも、少女は俯いた。

 女のそんな考え方を理解は出来るが、常にそう思って居続ける事は無理だし、自分だってそうなる事もあると、小さく溜め息を吐く少女。

 そんな少女の様子に女は、ふと何かを考え始め、黙り込んだ。
しかし、すぐに何か思い付くと、女はそっと少女の背後に回り、後ろから力強く抱き締めた。

“ギュッ”

「わぁっ?!」

「ふふふ、私だっていつも優しい訳じゃ無いわよ。」

「???」

「貴女が居る前では、誰にでも優しくなれるんだけどね…。」

「どう言う事…って、離して下さいよ!!」

“ギュ~ッ”

「嫌よ。貴女が居なければ、私だって攻撃的になるんだから。」

「嘘!」

「本当よ!!」

 思いもよらない女の言葉に、少女は今何が起こっているのか理解するのに時間が掛かった。
けれど、女の真剣な声に少女の頭は冷静さを取り戻し、頬を赤く染める。

「…だって、私が居ない時でも、あなたは誰にでも優しくしてて…。」

「…気付いていたわよ。貴女が近くに居る事。」

「っ!!…何で…。」

「貴女が、愛しいからに決まってるじゃない。」

「愛しいって…。」

「貴女に嫌われるのは、嫌なのよ…。」

 まさかの女からの告白に、少女は動揺した。
同時に、女の気持ちを知って少女の心はとても満たされていった。

(あ、この気持ち…。)

「…あなたの気持ち、分かりました。私も、あなたに嫌われたくありません。」

「…それって…。」

「はい…、私もあなたと同じ気持ちです。」

「っありがとう!!」

 更に腕に力を込める女に、苦しいと思いながらも、少女は穏やかな表情を浮かべていたのだった。


「私も、これからは人に優しくなれそうです。」

「それは駄目よ!」

「何故です?」

「そうなったら、私が攻撃的になってしまうわ。」



終わり
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