朝飯前

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その1

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 お年寄りが達者なのは、眺めていても心がなごむ。子どもが元気にとび撥ねるのを見ていると心が自然とはずむように。

 年金暮しが長くなると、生活も次第に安定し、いろんなことがしたくなるものだ。
 旅行には最低でも毎月一回は泊りがけで出掛け、各地の名湯や名物、名産を思う存分堪能する。
 車は昔から大好きだったので、二年くらいで新車に買い替える。その方が結果的には経済的だと分かった。

 家電製品も新しいのが出まわるとついつい欲しくなる。お古は嫁いだ娘のところにおさがりに出す。まだ子どもたちが小さいから、何かとお金がかかる年代なのだ。
 お年玉もかならず用意する。孫たちも、おじいちゃん、おばあちゃん、となにかとなついてくれる。ときどきはオモチャとかも買ってあげる。皆、大喜びだ。それも、早すぎ去り、

 二人とも至って健康で、特に悪いところはこれといってない。
 家の裏にあるちいさな畑で野菜を作ったり、海が近いので、浜に出て海藻を採ったり、貝殻を掘ったり、天気のいい日は魚を釣ったりもする。
 アヒージョは、スペイン風の料理らしいが、オリーブとニンニクで簡単にできる料理だ。野菜も魚介類も茸も適当に使えばいい。老妻の煮物や鍋物に厭いたら、わたしが作る。
 男子とは言え、ひとたび厨房に入れば、シンクの食器洗いまで済ますのが、わが家のわたしなりの流儀だ。勿論、その日の食材はわたしが買い出しに行く。老妻と二人で。

 年末の大掃除には、冷蔵庫を移動させ、隅から隅まできれいにする。液晶の大型テレビも電子レンジも全部動かすに如くはない。
 エアコンの換気口まで綺麗にしないと年があらたまった気がしない。
 姉娘の方は、誰に似たのか、片付けや整理をするのが苦手で、よく冷蔵庫の中の物を腐らせていた。あまり物事を意に介さない性格のようだ。仕事に行きながら、子育てとか夫の世話とかで、それどころではなかったのかもしれない。子どもが二人とも成人して、それぞれにそれなりの結婚をし、家を出てからとなっても、事態は一向に改善されはしなかったが。

 娘を二人授かったが、二人とも家を出て嫁いでしまった。
 孫は外孫が五人、ひ孫にやっと男の子ができた。
 断乳するまでは、物静かで、人見知りをする、おとなしい印象の強い児だったが、はいはいを卒業する頃には、けたたましく、たけだけしい、逞しい子になっていた。
 風邪一つひかず、熱も出さない超弩級の健康優良児、好奇心が強く、膂力もかなりのもの、短気で癇癪持ちながら、ねばりづよさも兼ね備え、素直さ、やさしいところが時折見え隠れする、ほんとうはさみしがりやの可愛らしい男の子だった。
 眠っているとき以外は遣りたい放題、大型ハリケーンのように暴れまくり、家一軒分くらい造作もなく壊してしまうとぼやいていた。

 お正月になり、ひ孫にお年玉をあげるついでに、冷蔵庫は足りているのかと尋ねると、すこし前に自分の身長よりもずいぶん高いのを買ったという。
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