謎色の空と無色の魔女

暇神

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真章

真六章 入学ボッチ

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 入学ボッチ。入学して早々友達を作れず、ボッチになった人間の事。

 正直笑ってた。まあ大丈夫だろうと楽観視していた。
 しかし、現実は残酷だった。
「え、特待生?」「平民とか無いわ~」「何やったんですの貴女!軽蔑しますわ!」
 はい、こうじて無事、入学ボッチの誕生であります。
 良いもん私友達作りに来た訳じゃないもん。皆の仇を取れる力を身に着けに来ただけだもん。私よりも成績が振るわなかった人間がこそこそ悪口言ってるだけだもん。別に気にしてないもん。
 授業は面白かった。結構知ってる事ばっかりだったけど、偶に知らない所が出てきて面白かった。けど、それ以外が地獄だった。一人で食べるご飯は慣れてたけど、皆がにこやかに友達とワイワイ話しているのを見るとへこむ。キツイ。
 そして私は、今日も一人で学食をつつく。そんな私に、話しかけて来た子が一人居る。
「貴女、大丈夫ですの?」
「女神の類か」
 そう彼女。「女神なんて照れますわ~」と言って笑っている彼女、マリア・キクエ・スカーレットだけが、私に話しかけてくれるのだ。特待生じゃないから、同じ授業を受けられないのが悔やまれる。悲しい。
 マリアは結構気さくな子で、平民の私にも気軽に話しかけてくれる。ついでに可愛い。面が良い上に優しい、しかもお茶目とか最高かよ。なんか行商の皆を思い出す。やべえ依存しちゃいそう。
 しかし、マリアはあくまで貴族。貴族間でのいざこざも結構あるし、それが原因の嫌がらせは、故郷の村の数千倍酷かった。又聞きになるが、机に落書き、教科書を破く、靴に虫を詰め込むなんてのは日常茶飯事。酷いとリンチにも遭うらしい。治癒魔法で治すから、痕すら残らない。キモイ。
 当然、これらは噂でしかなく、現実はもっと酷かったり、そうでもなかったりするのだろう。と言っても、『火の無い所に煙は立たない』と言う。マリアが嫌がらせを受けているというのは本当らしい。
 これが物語だったり、マリアが私に言ってくれるなら、話は別だ。その実行犯に加え、元凶まで追求して叩きのめす。問題は、マリアのプライドの高さである。
 一応にも貴族。それもそこそこ歴史のある家なのだ。マリアのプライドは間違ってはいない。しかし、上流階級にも関わらず、魔術の行使ができないのが、この嫌がらせの原因。そこをどうにかすれば、このイジメはどうとでもなりそうだ。
 これはマリア自身の問題。マリアが他者へ助けを求めない限り、私は手を出さない。何も無い状態でやった所で、マリアに迷惑が掛かるだけだ。
 ま、何もしない訳じゃないんだけどね。

 そんなある日、食堂で仲睦まじく話す私達に、とある三人組が近寄って来た。
「ねえ、ちょっと隣良いかな?」
 誰だっけこの人等。思い出せない。
「ラインハルト様!リューク様!ジルベルト様も!」
 あ!思い出した!私よりも順位が上の五人の内の三人だ!王子様と武闘派と賢者の孫さん!
 これはこれは。面白い話が聞けそうだ。ここは相席で話をしよう。もしかしたら友達ができるかも。目指せボッチ卒業。
「どうぞ、お好きな席に」
「ありがとう」
 おい王子様。何で私の隣に座る。そっちの二人は向かいの席なのに、なんでアンタはこっちに座るんだ。
 まあ、これ位我慢我慢。面白い話を聞く為だ。美形を間近で見れて、眼福だと思っておこう。その方が気が楽だ。
「で、何の御用でしょうか」
「心当たりがねえって面してんな」
 そりゃ無い物は無いし。にしても、武闘派君は予想通りの喋り方するな。この時点で少し面白い。
 次に口を開いたのは、賢者のお孫さんだった。
「率直に申し上げましょう。私は、貴女の不正を疑っております」
 ほほう。そう言われると、少しばかりの心当たりがあるぞ。どうせ、入試の実技で、私が複数の剣を出した事に、納得がいっていないのだろう。
 だが、あれは不正でも何でもない。何なら、やり方を知っている人間が、多少の技術を用いるだけで、あれは簡単にまねができる。
「ジルベルト様!その言い方では……まるでライラさんを『卑怯者』と罵っているようでは……」
「大丈夫だよ、マリア」
 そう、大丈夫。私にやましい事は無い。ならば、堂々と、このお高く留まった王子様方に、説教してやろう。
「賢者のお孫様……なぜ、私が不正を働いたと?」
「貴女のような平民が、魔術の行使ができる時点で疑わしいのです。魔術は、才能がある貴族が、厳しい訓練の末、行使できるようになる物です。それが、貴女はあんな数を操ってみせた。不正だと入学を弾かれなかったのが不思議です」
 ふむ。正論だ。魔術書というのは、大して珍しくもない。探せば結構簡単に見つかる。だが、そこに書いてある事を理解できず、魔術の行使が叶わない者は多い。魔術の行使には、魔力の有無だけでなく、魔術理論の講師や、それを理解する理解力、そして応用力が求められる。講師を雇える金が無いであろう平民が、応用編まで行っている。この事実は、結構異常な筈だ。
 しかし、それは甘ったれたお貴族サマの場合だ。平民の底力、見せてやろう。
「ごもっとも。ただ、魔術理論は自分で理解しました。あの魔術は、結構簡単なやり方で再現できます」
「だから、それができねえから言ってんだろ」
 こいつ黙らねえかな。まあ良いや。無視だ無視。
「魔術には、数の指定が可能なのはご存じですか」
「ああ。それを発見したのは、たしか二十五代前の賢者だった筈だ」
「おい無視すんな」
 だから黙っとけやアンタは。普通に煩いんだよ。貴族に庶民が意見できる訳が無いから言わないが、一発殴ってやりたい。
「しかし、それは一般の魔法書には書かれていない筈だ」
「ええ。だから少しズルをしました」
「やっぱ不正してんじゃねーかよ!」
 だから話を聞けやアンタは。普通にウザイんだよアンタ。
「ズルとは何かな?」
「魔法書には、複数の魔法陣を描く方法は掛かれていました。なので、二つ目の魔法陣に、数の指定を入れたんです」
 そう言うと、少し回りがざわついた。まあ、複数の魔法陣の安定は、かなり魔力を使う。学生でもない、ただの受験生が、そんな事ができるのが異常らしい。まあ、ズルというのは、ここの魔力の補填の方でもある。ここは言う訳にはいかない。
「そうすれば可能か。すまないな、疑って」
 よし。疑いは晴れてくれたらしい。
 しかし、ここで言われっぱなしは、気分が悪い。折角のランチタイムを邪魔されたのだし、一泡吹かせてやろう。こっちも少しばかり、情報収集をしているのだ。庶民だからと甘く見てもらっては困る。
 私は王子様に近づいて、小声で話を始めた。
「じゃ、こっちも一つ良いですか?」
「何だい?」

「貴方、不正してますよね」
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