謎色の空と無色の魔女

暇神

文字の大きさ
57 / 143
進章

進十章 巨大な陸地を進む道

しおりを挟む
 日が昇るよりも少し前。私はいつかと同じ馬車に揺られながら、次第に遠のく王都を眺めていた。
「良かったのかい?ライラちゃん」
「エディさん……大丈夫ですよ。今生の別れって訳じゃないですし」
 そうならない筈だ。昔と違って、今は友達も居るんだ。死んで堪るかってんだ。
 長い間見ない内に、エディさんとリーダーさんは老けた。口の端にや目の縁に、僅かに皺が刻まれた。それでも、内面的な物は何一つ変わっていないのを見て、私は少し安心した。
「にしても、そっちの子はどうしたんだい?」
「朝早かったですからね。眠かったんでしょうね」
 アイクは馬車に積まれた荷物の間に挟まりながら、小さく寝息を立てている。リョウコさんはアイクに毛布を掛けながら、「まだほんの子供だもの。仕方無いわよ」と呟いた。
「そうだぞライラ。お前ももう少し寝てたって良いんだ」
「大丈夫ですよリーダーさん。それに、王都が見える内は起きていたいんです」
「いや、こればっかりはマイクさんに同意だ」
 タセイ先生まで言うのか。まあ、睡眠の重要さは理解しているつもりだし、もう少ししたら寝るかな。
 にしても大所帯だな。昔この馬車に乗った時から、二人も人が増えている。若干狭く感じる。次第に空が明るくなって来た頃、私は馬車の端で丸くなって、静かに目を閉じた。

 目を覚ましたのは、火が点けられた薪が弾ける音が聞こえたからだった。私はまだ重い瞼を擦りながら、馬車を降りる。
「お、目を覚ましたみたいだな」
「ライラちゃん。朝ご飯、できてるわよ」
「その前に顔を洗うべきだな。エディ、川まで案内してやれ」
「リーダーったら人使い荒いんだから」
 私はエディさんに手を引かれ、川へ向かう。顔を洗うと、瞼が大分軽くなる。私は頬を一度叩いてから、魔術で顔を乾かした。
「君が魔術をこんな事に使ってると知ったら、ファンの人は幻滅するだろうね」
「ファンなんて居ないでしょ」
「そうでもないよ?ほら」
 そう言ってエディさんが見せて来たのは、どうやらスクラップブックらしかった。いくつかの新聞から、記事が切り抜かれている。
「やっぱり、こういうのは見といた方が良いんですか?」
「新聞は良いよ。金は掛かるけど」
 ふうん。にしても、こんな量のスクラップブックなんて誰の……と、口に出し掛けた所で、私はその記事の見出しに目が行った。そしてエディさんからその冊子を奪い取り、その記事を確認する。ニ、三回程目を擦った後、また見て、溜息を吐きながら、私はエディさんに聞いた。
「私、いつのまにこんな記事書かれてたんですか?」
「巷じゃ有名な話だよ。ほら、さっさと行こう」

 その記事は、私が様々な賞金首を討ち取った事を英雄視する、実に質の悪い物だった。

 今の私達の目的地は、この国における絶対的信仰対象である女神様、そして女神様が住まう天界に、この地上で最も近いとされる都市、『メイデ』だ。どうやらそこで、勇者パーティーの聖女様と合流し、そのまま亜人達の国へ行き、勇者と合流、作戦会議といった流れらしい。
 問題は、何事も無く合流という訳には行かなそうという話だ。どうやら、対処に困る障害があるらしい。
「連絡は取り合ってたんですか?」
「元は取り合ってたんだけど、一年前から聖女と勇者の二人は連絡が取れないの。聖女の方は事情がある程度掴めてるんだけど、勇者は何やってるんだか……浮気してたらぼっこぼこにしてやる……」
「諒子と勇者は恋人同士なんだ。そのせいでちょっと荒れる事もあるが、流してやってくれないか?」
 成程。そういう関係ね。なら勇者様が浮気していた場合は、私も思い切り殴ろう。不敬?関係無い。私は行くぞ。
 とは言え、私は今まで新聞とか全く読んで来なかったからな。何が起こってるのか知らないんだよね。私は隣に座っていたアイクの肩を軽く叩き、話を聞く。
「ねえアイク。聖女様って、今何してるの?」
「何って……そっか。お前新聞読まないタイプなんだったか。そら知らないよな」
 次にアイクの口から出て来た言葉に、私は思い切り、「ええええええええええええ!?」と叫んでしまった。

「聖女様、今絶賛監禁中なんだってよ」

 不敬が過ぎるだろ。私が言えた事じゃないけどさ。


 扉がノックされた。私は「どうぞ」と言って、その音を立てた人物を部屋に招き入れる。その人物は私の直ぐ横まで近付いて来た後、私を見下ろしながら問う。
「いい加減、首を縦に振ってくれませんかね?貴女の協力が必要なんですよ」
「何度も言った通り、そちら側が私にとって、明確な利益をもたらさない限り、その話はお請けできませんよ」
 相手は「そうですか」と言いながら、私の向かいの椅子に座り、ティーカップを持ち上げる。私も同じように、机の上に置かれたティーカップを持ち上げ、注がれている紅茶を一口啜る。
「今の貴女であれば、一人で魔族を根絶やしにできるのでは?」
「私の道徳とそれは相反します……こう答えるのは、もう両の手では数えきれない回数になりますね。それに、私一人では無理ですよ。皆と一緒じゃないと……」
「『聖女』の名を冠する貴女こそ、この役目には適任だと思うのですがねえ……」
 目の前の人物は、私の目を見つめながら、私の名を口にする。

「勇者パーティーが一人、『聖女』のシノブ様?」

 私は、牢獄とは思えない煌びやかな部屋の中で、静かに眉をひそめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

湖畔の賢者

そらまめ
ファンタジー
 秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。  ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。  彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。 「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」  そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。  楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。  目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。  そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

処理中です...