謎色の空と無色の魔女

暇神

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侵章

侵七章 神に仇成す者の迷宮

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 長い廊下の奥へ進んで行くと、直ぐに一番奥の壁へぶち当たった。やはりループは一方通行。奥へ行く分には問題無いようね。
「で、どうするの?魔術では何も分からないんでしょう?」
「取り敢えずこの辺りを調べるか。ランプの裏まで探すぞ」
「は~い分かったよ~……」
 面倒ね……まぁ魔術じゃないなら、肉眼で探すしか無いから仕方が無い事だけれど。私達は壁に使われているレンガの一つ一つ、文字通りランプの裏に底に、中までじっくり探し始めた。
 だけど、何も見付からなかった。一番奥の壁からおおよそ百メートルの範囲を隈なく、隅から隅まで見落とす所無く探した。なのに何も見付からなかった。もっと向こうならあるのかしら?でも大聖の考えが正しいとするなら、ループの範囲には何も無いでしょうし……
「諒子!」
 道の奥の方から、大聖の声が響いて来た。声がした方へ顔を向けると、大聖と忍が二人で何か話し合っていた様子だった。
「一旦状況整理だ!戻って来い!」
 何か見付かったか気付いたかしたのかしら?まぁそうじゃなかったとしても、そろそろ戻って良い頃合いよね。私は「分かったわ!」と答えてから、大聖達の方へ戻った。


「……何も無かったか……」
「見落としが無い事が前提ではあるけど、魔法陣とか、何かの仕掛けっぽい物は見付からなかったよ」
「私も。不自然な所も、文字のような物も無かったわ」
 以前ここに来た先人達が、何か手掛かりのような物を残してくれたという、僅かな期待を寄せて探したのも無駄だったわね。最も、こんな所に先人の足跡があるとも思えない訳だけれど。
 しかしあぁもしっかり探して何も見付からないとなると、やっぱりこの壁を破壊するとかしか思い付かないわね。だけどここは地下。下手をすれば生き埋めだし、そもそも壁の向こう側に何も無い事は大聖の魔術で分かってる。やるだけ無駄かしら。
「やっぱりもっと向こう側まで調べるべきかしら……」
「そんな中途半端な位置に突破口を作るとも思えねぇ。何かあるとすりゃ、この壁の辺りだ」
「だけど何も見付からないよ?」
「そこだよなぁ……」
 そう言いながら大聖が上を見ると、何やら驚いたような顔をし、「マジか……」と呟いた。私と忍は一度顔を見合わせ、大聖と同じように天井を見る。そしてそこにあった物に、少なくとも私は腰が抜けるかと思う程の衝撃を受けた。

 天井には、不思議な、巨大な壁画が書かれていた。

 青い大地、赤色の空と白い鳥、そしてそれを追うような、黒い人影の群れ。この世界そのものを書き表したかのような、古い、それなのに色鮮やかな壁画。どこか古ぼけたような廊下の中で、この絵だけが、異様に目立って見えた。
「どうなってる?こんなん、さっき天井を見た時は無かったろ?」
「うん。こんなのあったら流石に分かるよ」
「でも、どうなって……」
 私はそう言いながら、天井を見たまま立ち上がった。すると天井の絵は段々と色が薄れ、足を半ばまで伸ばした時には完全に消えてしまった。
「どうなって……」
「どうした?何か分かったのか?」
「いや、立ち上がったら天井の絵が消えて……」
「「はぁ?」」
 大聖と忍は暫く立ち上がったりしゃがんだりを繰り返す事で、私の発言が事実だった事を確かめた。どうなっているのかは分からないけど、この廊下を歩いている間、こんな目立つ絵を見逃していた理由は分かった。
 多分、視点の高さ次第でどれだけ見えるかが決まる。視点が低ければ低い程しっかり見えるし、十二歳程度の子供程度の視点でほぼ見えなくなる。見る限りはただの絵だけど、もしかしたらここにヒントが……
「よし。取り敢えず切っ掛けは掴めた。後はこれをどう読み解くかだな」
「やっぱり印象的なのは、あの白い鳥じゃない?あれだけ色がくすんでるように見えるし」
「そうね。あそこに何かあるのかしら」
「触ってみるか。ボタンか何かあるかも知れねぇ。忍。指示頼む」
「分かったよ」
 大聖は浮遊魔術を使い、天井へ近付いて行く。大聖の目には、もう壁画は見えていない筈。忍は大聖に指示を出して、壁画に書かれた白い鳥の位置を伝える。
「ここか?」
「もうちょっと右。そうそこ」
「よし。じゃあ行くぞ……」
 そう言い、大聖は白い鳥を手で押した。するとそこのレンガが大きく音を立ててへこみ、同時に、そこかしこからレンガ同士が擦れる音と、地響きが聞こえて来た。私と忍は慌てて立ち上がり、大聖は揺れる地面に着地した。
「どうやら当たりだったようね」
「でも、壁の向こうに空間なんて無い筈……」
「だけど事実、事は起こってやがる」
 一番奥の壁が、次第に形を変えていく。隙間ができ、それが広がり、最終的に一つの、転移魔術の魔法陣が現れた。それから直ぐに地響きは止んだ。どうやらあの転移魔術を使えって事らしいわね。
「セカンドステージクリア~……っつっても、まだ先があっても不思議じゃねぇな」
「喜ぶ位良いんじゃない?それよりどうする?先進む?」
「勿論よ。時間が惜しいもの」
 転移魔術にはあんまり良い思い出が無いような気がするけど……特に最近。いやそんな事を言っている場合じゃないわね。私達は一度深呼吸してから、同時に魔法陣へ触れた。
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