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ワンダーワールド
一時決着
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「あっだだだ……」
与一は重たそうに体を起き上がらせると、敏明を担ぎあげて気怠そうに周りを見渡した。
「………や?」
遥か先に見える与一たちが出発して来た基地から工房からの煙以外の煙が上がっているのを見ると、気だるそうにため息をついて服の一部を変形させて望遠鏡を作って基地を覗き込んだ。
「あーららぁ……おい起きろボケ」
与一は俊明を叩き起こすと、箱を変形させて空を飛ぶバイクの様なものに変形させた。
「もうちょい寝かせろよ……」
「アホか、こないところで寝とったら風邪ひくわ」
「大丈夫!アホやから風邪引かんもん!」
「バカは風邪引かんけどアホは風邪引くんじゃバカ!」
「はいはい……で?」
俊明は与一から望遠鏡を引ったくって基地を覗き込んだ。
「あーちゃぱー、なーにしとんあれ?」
「負けたんでしょうよ、もしくは負けかけ、早よ乗れ飛ばすぞ」
「事故んなよ」
「あいよ」
二人は乗り物に乗ると空に飛び上がって基地に向かって飛び出した。
その頃基地では、
「ふむ、神とはいえこの程度か」
「くっそ……!」
ロキがボロボロになりながらも列車の周りに集まる人々を守っていた。
「すまぬ……ロキ」
「しゃべらないで!傷口が開くから!」
ユウラビ達が倒れるワールドとビートの手当てをして、回復の魔法を絶えず当て続けていた。
「流石は我が主様、神以上の力をお持ちになるとは、やはり人は貴方様の前に皆跪くべきであるのです」
「そ、そうだな……」
何故だか乗り気でない骸骨頭の魔法使いはそんな返事を部下に返しながら周りを見渡した。
「ふぅむ……」
すると、上空から一人のバカが落ちてきた。
「おんどらぁぁぁぁ!!」
魔法使いはそれを何なく避けると、バカは地面に着地して魔法使いを見上げた。
「おいなぁ、さっきから聞ぃとったら好き勝手いいよってからによぉ?俺の恩人らに対してなんちゅー事してくれたんじゃ、えぇ?」
「……お前は?」
「人の名前を尋ねる時は先に自分から名乗るんが礼儀とちゃいますん?」
「貴様……!」
「よせ……そうだな、失礼した、私の名前はエイデン、彼ら十二人衆を統べ、いずれ全ての大地を制覇するものである」
「……ふーん……なぁ、話し合いは出来る?」
「エイデン様!このゴミは私が排除します!」
その瞬間エイデンと名乗った骸骨の隣に侍っていた眼鏡を掛けた悪魔が与一めがけて目にまとまらぬ速さで突っ込んだ。
「あら?」
与一に悪魔の手が届きそうになった瞬間、悪魔はきりもみ回転しながらエイデンの目の前まで飛んでいくと、エイデンは自分の部下をしっかりと受け止めた。
「大丈夫か?」
「は、はい……申し訳ありません」
「構わん……ふむ」
与一の前には足から煙を吹き上げる俊明が、エイデンの事を睨みあげ、ふっと息を漏らして見下げ果てたかの様に、
「クソ雑魚………なにすん!?」
与一が俊明の口を押さえると、俊明に耳打ちした。
「任しとけ……どないかする」
「……無理そうやったら吹っ飛ばすからな?」
与一は膝の土を払うと、切符を切って変身するとふわふわとエイデンと同じ目線まで浮かび上がった。
「それが『落とし物』か」
「そうみたいっすわ……んで、なしてまたコイツらを狙ったんで?」
「それは私達が世界を征服する為だ」
「なして世界征服を?征服した後は?」
「それは……」
「それは勿論貴様ら下等生物等を飼育する為以外に無いのですよ」
すると、エイデンの話を遮ってまた別の女の部下にらしき者がそう言い切った。
「エイデンさん?」
「………その通りだ」
エイデンは暫くの沈黙の後頷いて与一に向かって手を伸ばした。
「ちょまちょまちょま!もうちょっと話し合い出来ん?」
「私たちに利益があるのならばな」
「………多分貴方達って誰かから落とし物の事聞いたんじゃあ無いっすか?」
「……ガーザ」
「はい、とある老人がこのコンパスを」
「んんんんん?じゃあ何や?さっきの剣士はお仲間?」
「剣士?誰の事だ?」
「………しまった、さっきのアイツに詳しい事聞いとけばよかったなぁ……でも………おん、せやな」
勝手に頭の中でシナリオを組み立てていく与一にその場にいる殆どの人物達は頭の上に?マークを浮かべていた。
「ま、まて、勝手に一人で納得しないでくれ」
「あ、んじゃあ話聞いてくれますか?損はないと思いますが?」
「………いいだろう」
与一は嬉しそうに笑うと空中を歩く様な仕草でエイデンの周りを回る様に飛び始めた。
「まず、俺が考えたシナリオっていうか……まぁシナリオだな、は幾つかあってねぇ、一つは最悪のパターンやけどホンマに単純に落とし物を誰にも何も言われずに探しに来ただけ、やけどこれは話の内容的に無しやからよかったわぁ、んで二つ目、貴方達が誰かの手先って話、まぁ、これも可能性は低そうやけどね?って事は一番可能性が高いのはここに落とし物を探す様に誘導された、これが俺ん中ではしっくり来てんのよね?と言うかそれしかない様な気ぃするわ」
早口でそう捲し立てると満足そうに白い息を吐き出した。
「ど?そんな気ぃせん?」
「……そうだな……ガーザその老人はその後どうした?」
「はい、私達の居場所を知った故に処分致しました」
「………………そうか」
エイデンは長い間沈黙すると仕方が無いと言った様にため息をついた。
「と言うわけだ、こちらとしてはその何かを企んでいた老人が死んだ今落とし物を頂戴する事を妨げる理由は無いわけだな」
「現状そうなりまんなぁ……」
与一も仕方なしと言う風に明らかに目に見えてガッカリと肩を落とした。
「あんまり、しばきあいしたく無いんやけど?」
「それはそちらの理由だろう」
エイデンは与一に向かって手を伸ばした。
「与一!」
「心配なさんな!」
与一は体から蒸気を吹き出して周りに煙を充満させるとエイデンから距離を取った。
「しゃーない、死なへん程度にやりまっか」
「虫ケラ、死ぬのは貴様だ」
いつの間にか背後に回っていた殺意剥き出しのエイデンの部下の悪魔が与一に向かって腕を突き出したが、その腕はクルクルと血飛沫を上げながら遠くに飛んで行った。
「なっ!?」
「トッシィー、たすかりまんぼー」
「全滅させんで」
「俺の話聞いてた?」
「こんな上の方で喋ってたら下からやったら何も聞こえんわバカ!」
「あ、そっか」
「ホンマに……行くで!」
「チケットお切りになってどうぞ?」
与一は俊明に向かってチケットを切ると、俊明の足と胴体に金色の鎧が装着された。
「便利やなーそれ」
「殺さん程度にやっつけるで」
「あいよ」
そう言うと、二人はエイデンに向かって一直線に向かった。
与一は素早くエイデンの背後に回り込んで拳を俊明は正面から蹴りを突き出した。
「若いな」
エイデンはそれを何なく受け止めると、手から衝撃波を放って二人を吹き飛ばした。
「んー……もちょっと……あえ?」
与一の背後に何かを感じて、振り返るとそこには何人かのエイデンの部下が子供達の首元に杖や爪を当てている姿が目に入った。
「その子らは関係ないやろ?」
「喋るとあら、ほら、爪が食い込んで血が流れましたねぇ?」
部下の一人がプルプルと震えて与一に向かって助けの目線を送っていた子供の首元に、爪を食い込ませた。
「……助けて」
与一の着ていた鎧が金色から一気に赤色へと変化して熱を放出し始めた。
「ぐっ!?」
「死ねボケェ!」
与一は先ほどまでとは打って変わってスピードが上がると、熱がっている悪魔を薙ぎ裂いた。
「ガーデン!」
エイデンバルドが驚きの声を上げる中、与一のスピードはさらに上がった。
一秒間間隔で人質を取っていた悪魔達の手をもぎ取って、エイデンバルドの方に向かって投げた。
「………っ!」
「……関係ないの巻き込んだんはそっちやからな?」
「……いいだろう……相手をしてやる」
「「………」」
二人の間の空間に亀裂が入ったかのように見えた時、先に動いたのはと言うよりも先に先手を打ったのはエイデンだった。
「止まった時間の中にいるのは私以外には部下だけだ……こちらからけしかけたとはいえ、私の子供達に手を上げたのは万死に値する……死ね」
エイデンバルドは与一の周りに超弩級の魔法を幾つも設置すると、時間の停止を解除した。
動き出した魔法は与一に一直線に飛んでいったが、与一は体を回転させて熱と光でそれを消し去った。
周りの雪は徐々に溶け出し、地面に染み込む前に蒸発し空に今は見えないが雲の子供を作っていた。
そんな熱を発し続ける与一だったが、ふと妙な気配がして背後を振り返ると、そこには口から血を吐きながら与一を刺すセツの姿があった。
「……ごめん」
そう言って倒れ込むセツを与一は、そっと受け止めるとしばらく黙り込んだあと、赤色が白色へと変化した、
その瞬間与一を中心として白色の世界が広がり始めた。
「ええやろ、んじゃあ……あー、何言うてもカッコ悪いなぁこれは……取り敢えず許さんど?エイデン」
「な、何の話だ?」
「は、は、は、エイデンバルド様、あの小娘に術を掛けました、あの男は致命傷、あの小娘は呪いで時期に死ぬでしょう」
「………!!」
エイデンバルドは驚いた様に自分の部下を見ると、続けて憎しみのこもった目で自身を見つめる俊明を見た。
「……撤退だ、予想よりも被害が大きすぎる」
「落とし物は?」
「今回はくれてやろうじゃあ無いか、それに、最後に全て掻っ攫えばいいだけの話だ」
「流石はエイデンバルド様……」
そして彼らは白色の世界が自分達に到達する前に瞬間移動しようとしたのだろうが、突然世界が広がる速さが速くなり、エイデン達を飲み込んだ。
そして、その世界の中心に立っていたのは与一ではなく、楽しそうに嬉しそうに、笑う一人の女であった。
「あら、あら、反転したの?」
そう言って女は読んでいる本を閉じると、音楽を聴いている様にステップを取り始めた。
「『カカニ』………?」
「は?」
俊明がその姿を見た瞬間口に出したのは意味のわからない言葉の羅列だった。
「だ、誰だそれは?」
「……にーちゃんがちっちゃい頃に一緒によく遊んだって言う……女の子の名前……」
「それがなぜ……?」
「俺が聞きたいわ」
俊明は目の前で踊る様にステップを取る女から目を離す事が出来ずに、さらに動く事も出来ずにいた。
「……あらあら、弟君?与一がいつもお世話になってるね?」
「……いつから彼女なん?」
「んー……」
そう言って考え込む姿はどこか与一の面影があった。
だが、女がそう言って考えているうちにエイデンの部下の一人が女に触れた。
「触らないでくれる?」
部下は音もなく消し飛ぶと女は触られた所をぱんぱんと払った。
「でも、与一とは会えないのね……んー……遊びたい様な遊びたくない様な……深いねぇ……」
そう言っている女だったが、腕時計を見ると残念そうに、しかしどこか嬉し懐かしそうに笑った。
「それじゃあさよならの前に一つ、アドバイスを」
女はふわふわとした動きをしながら、ワールド達の方を向いた。
「与一を頼りにしてあげて?」
そして、そこにいた全員は女の本を取り出す様な仕草を見た瞬間、気がつけば与一が触手をくねらせながら体からビリビリと電気放っている姿があった。
「は?な?」
「な、何が?」
「おこったんだ?」
ワールドや俊明は混乱を隠さずにいたが、そんな事を他所に与一はエイデンと正面切って対峙していた。
「こんだけされたら、キレんのも普通よな?」
「……こちらは撤退する、それで良いではないか?」
「んー、二度と顔見せへんって言わんやろ?」
「やるのか?勝つのは私だぞ?」
「どーだか」
二人の間の地面に亀裂が入った。
「祝福しよう!道なき道を進み到達点へと至った者!」
どこからともなく現れたシルヴィは嬉しそうに笑いながら、そう言って与一の方を向いた。
「さ、お手並み拝見だよ?」
与一はゆっくりと手を前に出して触手を大剣に変えるとゆっくりと構えて、エイデンの懐に飛び込んだ。
「なぜ動かんのや?舐めプか?え?」
「くっ!」
与一は下から切り上げる形でエイデンを斬った。
「いっ!?」
ギリギリで躱したエイデンは手に負った傷を見ながら、溜息を吐いた。
「なぜ動かなかったかと?その答えは動かなかったからだ」
与一は自分の胸に空いた大きな空洞を見ると、頬をかいた。
「いったいなぁ、これ、どないすん?」
「……流石に死なないか……うむ、ここまでだな、撤収だ」
そう言うと、エイデンバルドは部下を引き連れて光の向こうに消えてしまった。
「……グフゥ」
その瞬間、与一は口から血を吹き出して地面に倒れ込んだ。
「馬鹿野郎!強がりなんかするから!」
「あー………いったぁ……それよりもセツを助けたってくれ」
「おま………クッソ!」
ロキはそう言ってキレながらもセツの方に駆け寄って行った。
与一は胸に空いた穴を腕を通して確かめていた。
「確かに空いとんなぁ」
溜息をついて与一はその場に座り込んだ。
「バカ、何で殺さんかったん」
「バカやからやよー」
「………バーカバーカ!」
俊明は明らかに何かしらの考えがあってそうしたと分かっているのに、その内容を言おうとしない与一にそう言うと拗ねた様にどこかへ行ってしまった。
「……」
与一はアタフタと動き始めたギルドの人達を置いて列車の方へ歩き出した。
その背中は何とも言えない物悲しげな雰囲気が漂っていた。
与一は重たそうに体を起き上がらせると、敏明を担ぎあげて気怠そうに周りを見渡した。
「………や?」
遥か先に見える与一たちが出発して来た基地から工房からの煙以外の煙が上がっているのを見ると、気だるそうにため息をついて服の一部を変形させて望遠鏡を作って基地を覗き込んだ。
「あーららぁ……おい起きろボケ」
与一は俊明を叩き起こすと、箱を変形させて空を飛ぶバイクの様なものに変形させた。
「もうちょい寝かせろよ……」
「アホか、こないところで寝とったら風邪ひくわ」
「大丈夫!アホやから風邪引かんもん!」
「バカは風邪引かんけどアホは風邪引くんじゃバカ!」
「はいはい……で?」
俊明は与一から望遠鏡を引ったくって基地を覗き込んだ。
「あーちゃぱー、なーにしとんあれ?」
「負けたんでしょうよ、もしくは負けかけ、早よ乗れ飛ばすぞ」
「事故んなよ」
「あいよ」
二人は乗り物に乗ると空に飛び上がって基地に向かって飛び出した。
その頃基地では、
「ふむ、神とはいえこの程度か」
「くっそ……!」
ロキがボロボロになりながらも列車の周りに集まる人々を守っていた。
「すまぬ……ロキ」
「しゃべらないで!傷口が開くから!」
ユウラビ達が倒れるワールドとビートの手当てをして、回復の魔法を絶えず当て続けていた。
「流石は我が主様、神以上の力をお持ちになるとは、やはり人は貴方様の前に皆跪くべきであるのです」
「そ、そうだな……」
何故だか乗り気でない骸骨頭の魔法使いはそんな返事を部下に返しながら周りを見渡した。
「ふぅむ……」
すると、上空から一人のバカが落ちてきた。
「おんどらぁぁぁぁ!!」
魔法使いはそれを何なく避けると、バカは地面に着地して魔法使いを見上げた。
「おいなぁ、さっきから聞ぃとったら好き勝手いいよってからによぉ?俺の恩人らに対してなんちゅー事してくれたんじゃ、えぇ?」
「……お前は?」
「人の名前を尋ねる時は先に自分から名乗るんが礼儀とちゃいますん?」
「貴様……!」
「よせ……そうだな、失礼した、私の名前はエイデン、彼ら十二人衆を統べ、いずれ全ての大地を制覇するものである」
「……ふーん……なぁ、話し合いは出来る?」
「エイデン様!このゴミは私が排除します!」
その瞬間エイデンと名乗った骸骨の隣に侍っていた眼鏡を掛けた悪魔が与一めがけて目にまとまらぬ速さで突っ込んだ。
「あら?」
与一に悪魔の手が届きそうになった瞬間、悪魔はきりもみ回転しながらエイデンの目の前まで飛んでいくと、エイデンは自分の部下をしっかりと受け止めた。
「大丈夫か?」
「は、はい……申し訳ありません」
「構わん……ふむ」
与一の前には足から煙を吹き上げる俊明が、エイデンの事を睨みあげ、ふっと息を漏らして見下げ果てたかの様に、
「クソ雑魚………なにすん!?」
与一が俊明の口を押さえると、俊明に耳打ちした。
「任しとけ……どないかする」
「……無理そうやったら吹っ飛ばすからな?」
与一は膝の土を払うと、切符を切って変身するとふわふわとエイデンと同じ目線まで浮かび上がった。
「それが『落とし物』か」
「そうみたいっすわ……んで、なしてまたコイツらを狙ったんで?」
「それは私達が世界を征服する為だ」
「なして世界征服を?征服した後は?」
「それは……」
「それは勿論貴様ら下等生物等を飼育する為以外に無いのですよ」
すると、エイデンの話を遮ってまた別の女の部下にらしき者がそう言い切った。
「エイデンさん?」
「………その通りだ」
エイデンは暫くの沈黙の後頷いて与一に向かって手を伸ばした。
「ちょまちょまちょま!もうちょっと話し合い出来ん?」
「私たちに利益があるのならばな」
「………多分貴方達って誰かから落とし物の事聞いたんじゃあ無いっすか?」
「……ガーザ」
「はい、とある老人がこのコンパスを」
「んんんんん?じゃあ何や?さっきの剣士はお仲間?」
「剣士?誰の事だ?」
「………しまった、さっきのアイツに詳しい事聞いとけばよかったなぁ……でも………おん、せやな」
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「あ、んじゃあ話聞いてくれますか?損はないと思いますが?」
「………いいだろう」
与一は嬉しそうに笑うと空中を歩く様な仕草でエイデンの周りを回る様に飛び始めた。
「まず、俺が考えたシナリオっていうか……まぁシナリオだな、は幾つかあってねぇ、一つは最悪のパターンやけどホンマに単純に落とし物を誰にも何も言われずに探しに来ただけ、やけどこれは話の内容的に無しやからよかったわぁ、んで二つ目、貴方達が誰かの手先って話、まぁ、これも可能性は低そうやけどね?って事は一番可能性が高いのはここに落とし物を探す様に誘導された、これが俺ん中ではしっくり来てんのよね?と言うかそれしかない様な気ぃするわ」
早口でそう捲し立てると満足そうに白い息を吐き出した。
「ど?そんな気ぃせん?」
「……そうだな……ガーザその老人はその後どうした?」
「はい、私達の居場所を知った故に処分致しました」
「………………そうか」
エイデンは長い間沈黙すると仕方が無いと言った様にため息をついた。
「と言うわけだ、こちらとしてはその何かを企んでいた老人が死んだ今落とし物を頂戴する事を妨げる理由は無いわけだな」
「現状そうなりまんなぁ……」
与一も仕方なしと言う風に明らかに目に見えてガッカリと肩を落とした。
「あんまり、しばきあいしたく無いんやけど?」
「それはそちらの理由だろう」
エイデンは与一に向かって手を伸ばした。
「与一!」
「心配なさんな!」
与一は体から蒸気を吹き出して周りに煙を充満させるとエイデンから距離を取った。
「しゃーない、死なへん程度にやりまっか」
「虫ケラ、死ぬのは貴様だ」
いつの間にか背後に回っていた殺意剥き出しのエイデンの部下の悪魔が与一に向かって腕を突き出したが、その腕はクルクルと血飛沫を上げながら遠くに飛んで行った。
「なっ!?」
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「あ、そっか」
「ホンマに……行くで!」
「チケットお切りになってどうぞ?」
与一は俊明に向かってチケットを切ると、俊明の足と胴体に金色の鎧が装着された。
「便利やなーそれ」
「殺さん程度にやっつけるで」
「あいよ」
そう言うと、二人はエイデンに向かって一直線に向かった。
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「喋るとあら、ほら、爪が食い込んで血が流れましたねぇ?」
部下の一人がプルプルと震えて与一に向かって助けの目線を送っていた子供の首元に、爪を食い込ませた。
「……助けて」
与一の着ていた鎧が金色から一気に赤色へと変化して熱を放出し始めた。
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「ガーデン!」
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一秒間間隔で人質を取っていた悪魔達の手をもぎ取って、エイデンバルドの方に向かって投げた。
「………っ!」
「……関係ないの巻き込んだんはそっちやからな?」
「……いいだろう……相手をしてやる」
「「………」」
二人の間の空間に亀裂が入ったかのように見えた時、先に動いたのはと言うよりも先に先手を打ったのはエイデンだった。
「止まった時間の中にいるのは私以外には部下だけだ……こちらからけしかけたとはいえ、私の子供達に手を上げたのは万死に値する……死ね」
エイデンバルドは与一の周りに超弩級の魔法を幾つも設置すると、時間の停止を解除した。
動き出した魔法は与一に一直線に飛んでいったが、与一は体を回転させて熱と光でそれを消し去った。
周りの雪は徐々に溶け出し、地面に染み込む前に蒸発し空に今は見えないが雲の子供を作っていた。
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「……ごめん」
そう言って倒れ込むセツを与一は、そっと受け止めるとしばらく黙り込んだあと、赤色が白色へと変化した、
その瞬間与一を中心として白色の世界が広がり始めた。
「ええやろ、んじゃあ……あー、何言うてもカッコ悪いなぁこれは……取り敢えず許さんど?エイデン」
「な、何の話だ?」
「は、は、は、エイデンバルド様、あの小娘に術を掛けました、あの男は致命傷、あの小娘は呪いで時期に死ぬでしょう」
「………!!」
エイデンバルドは驚いた様に自分の部下を見ると、続けて憎しみのこもった目で自身を見つめる俊明を見た。
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「落とし物は?」
「今回はくれてやろうじゃあ無いか、それに、最後に全て掻っ攫えばいいだけの話だ」
「流石はエイデンバルド様……」
そして彼らは白色の世界が自分達に到達する前に瞬間移動しようとしたのだろうが、突然世界が広がる速さが速くなり、エイデン達を飲み込んだ。
そして、その世界の中心に立っていたのは与一ではなく、楽しそうに嬉しそうに、笑う一人の女であった。
「あら、あら、反転したの?」
そう言って女は読んでいる本を閉じると、音楽を聴いている様にステップを取り始めた。
「『カカニ』………?」
「は?」
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「だ、誰だそれは?」
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「それがなぜ……?」
「俺が聞きたいわ」
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「……あらあら、弟君?与一がいつもお世話になってるね?」
「……いつから彼女なん?」
「んー……」
そう言って考え込む姿はどこか与一の面影があった。
だが、女がそう言って考えているうちにエイデンの部下の一人が女に触れた。
「触らないでくれる?」
部下は音もなく消し飛ぶと女は触られた所をぱんぱんと払った。
「でも、与一とは会えないのね……んー……遊びたい様な遊びたくない様な……深いねぇ……」
そう言っている女だったが、腕時計を見ると残念そうに、しかしどこか嬉し懐かしそうに笑った。
「それじゃあさよならの前に一つ、アドバイスを」
女はふわふわとした動きをしながら、ワールド達の方を向いた。
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「は?な?」
「な、何が?」
「おこったんだ?」
ワールドや俊明は混乱を隠さずにいたが、そんな事を他所に与一はエイデンと正面切って対峙していた。
「こんだけされたら、キレんのも普通よな?」
「……こちらは撤退する、それで良いではないか?」
「んー、二度と顔見せへんって言わんやろ?」
「やるのか?勝つのは私だぞ?」
「どーだか」
二人の間の地面に亀裂が入った。
「祝福しよう!道なき道を進み到達点へと至った者!」
どこからともなく現れたシルヴィは嬉しそうに笑いながら、そう言って与一の方を向いた。
「さ、お手並み拝見だよ?」
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「なぜ動かんのや?舐めプか?え?」
「くっ!」
与一は下から切り上げる形でエイデンを斬った。
「いっ!?」
ギリギリで躱したエイデンは手に負った傷を見ながら、溜息を吐いた。
「なぜ動かなかったかと?その答えは動かなかったからだ」
与一は自分の胸に空いた大きな空洞を見ると、頬をかいた。
「いったいなぁ、これ、どないすん?」
「……流石に死なないか……うむ、ここまでだな、撤収だ」
そう言うと、エイデンバルドは部下を引き連れて光の向こうに消えてしまった。
「……グフゥ」
その瞬間、与一は口から血を吹き出して地面に倒れ込んだ。
「馬鹿野郎!強がりなんかするから!」
「あー………いったぁ……それよりもセツを助けたってくれ」
「おま………クッソ!」
ロキはそう言ってキレながらもセツの方に駆け寄って行った。
与一は胸に空いた穴を腕を通して確かめていた。
「確かに空いとんなぁ」
溜息をついて与一はその場に座り込んだ。
「バカ、何で殺さんかったん」
「バカやからやよー」
「………バーカバーカ!」
俊明は明らかに何かしらの考えがあってそうしたと分かっているのに、その内容を言おうとしない与一にそう言うと拗ねた様にどこかへ行ってしまった。
「……」
与一はアタフタと動き始めたギルドの人達を置いて列車の方へ歩き出した。
その背中は何とも言えない物悲しげな雰囲気が漂っていた。
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「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
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