悪役令嬢、ゾンビに救われる?

風待 結

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悪役令嬢、ゾンビに救われる?

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王太子殿下、シリウス様は壇上から高らかに宣言した。

「エメラルド・ライヒハート! そなたの数々の悪行、もはや見過ごすことはできぬ! ソフィア嬢への陰湿な虐め、不正な手段での財産独占、そしてわたくしへの不敬! よって、そなたを婚約破棄とし、ライヒハート家は没落、そしてそなたは国外追放とする!」

冤罪だ。そもそも彼女とはさして話をしたことすらない。浮気を正当化させようとしているだけだ。
予想通りの展開。けれど、エメラルドは微塵も動揺しなかった。

「……承知いたしましたわ」

形式的な返事を返し、エメラルドは静かに頭を下げた。ざわめきが広がる会場。憐れみ、嘲笑、そして優越感。様々な感情が、彼女に突き刺さる。

(どうせ、こうなることはわかっていたことだわ)

そもそも、シリウスとの婚約は政略結婚。愛など欠片もない。それどころか、シリウスは清廉潔白を絵に描いたようなソフィアという令嬢に夢中で、エメラルドのことなど眼中にないのだ。ありもしない罪をなすりつけるような女が清廉潔白でなどあるはずもないのだが。

(むしろ、せいせいするわ)

国外追放も、彼女にとっては好都合だった。この国には未練などない。

しかし、次の瞬間。

「きゃああああ!」

悲鳴が響き渡った。何事かとエメラルドが顔を上げると、会場の入り口付近が騒然としている。騎士たちが剣を構え、何かと戦っているようだ。

「一体、何が……?」

ざわつく会場内。

状況がわからないシリウスが苛立ちを露わにした。

「騒がしい! 何事だ!」

騎士の一人が駆け寄り、血相を変えて報告する。

「殿下! 正門を、正門を化物どもが!」

「化物? 一体……」

シリウスが言い終わる前に、その「化物」は姿を現した。

それは、生ける屍。腐臭を撒き散らし、血に染まった服をまとい、虚ろな目で人を求めて彷徨う、まさしくゾンビだった。

「う、うわああああ!」

悲鳴が連鎖する。会場はパニックに陥った。貴族たちは我先にと逃げ出し、騎士たちはゾンビに応戦するも、その数はあまりにも多すぎた。

「な、なんだこれは……!」

シリウスもさすがに動揺を隠せない。ソフィアを見捨て、後退していく。

エメラルドは、ただ呆然と立ち尽くしていた。

(ゾンビ……? 一体、どこから……?)

信じられない光景が目の前で繰り広げられている。まさか、こんな展開になるとは、夢にも思わなかった。

その時、一匹のゾンビがエメラルドに向かってきた。よだれを垂らし、腐った手を伸ばしてくる。

(まずいわ!)

反射的に身を引こうとしたが、足がすくんで動けない。絶体絶命――

その時、一人の騎士がゾンビを斬り捨てた。

「お嬢様! お怪我はありませんか!」

それは、エメラルドの護衛騎士である、レオナルドだった。

「レオナルド……! あなた…」

「お嬢様をお守りするのが、私の使命です!」

レオナルドは真剣な眼差しでエメラルドを見つめた。

「ですが、今はそんなことを言っている場合ではありません! お嬢様、すぐにここから逃げましょう!」

レオナルドに促され、エメラルドは我に返った。

「ええ、そうね!」

状況は一変した。婚約破棄どころではない。今は、生き残ることだけを考えなければならない。

レオナルドは剣を振るい、ゾンビを次々と倒していく。エメラルドを庇いながら、出口を目指した。

会場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。逃げ惑う人々、ゾンビに噛みつかれる人々、そして勇敢に戦う騎士たち。

(信じられない……)

エメラルドは、ただひたすらにレオナルドの後ろをついていくしかなかった。

ようやく、会場の出口にたどり着いた。しかし、外も安全とは言えない。ゾンビがうろつき、人々を襲っていた。

「お嬢様、馬車を用意しました! 急いで!」

レオナルドはエメラルドを馬車に押し込み、自らも乗り込んだ。御者に指示を出し、馬車は走り出した。

「一体、何が起こっているの……?」

馬車の中で、エメラルドは呟いた。

「詳しいことはまだわかりません。ですが、街全体が襲われているようです」

レオナルドは深刻な表情で答えた。

「このまま王都を脱出し、安全な場所を目指しましょう」

「どこへ……?」

「ライヒハート家の領地です。あそこなら、まだ安全かもしれません」

ライヒハート家の領地。そこは、エメラルドが生まれ育った場所だった。

(まさか、こんな形で帰ることになるとは……)

エメラルドは、複雑な思いを抱えながら、窓の外を眺めた。ゾンビが徘徊する、変わり果てた王都の風景が、目に焼き付いた。

その夜、ライヒハート家の領地に到着した。領主である父、リヒャルトは、エメラルドの姿を見て驚愕した。

「エメラルド! 一体、何があったのだ!」

「お父様……」

エメラルドは、王都で起こった出来事をすべて話した。婚約破棄のこと、そしてゾンビの襲来のこと。

リヒャルトは、信じられないといった表情で聞いていた。

「ゾンビ……? そんな馬鹿な……」

「本当なのです、お父様! 王都はもう、滅茶苦茶です!」

エメラルドの言葉に、リヒャルトはようやく事の重大さに気づいた。

「わかった。すぐに領内の警備を強化する! エメラルド、お前は部屋で休んでいろ」

「お父様、私も何かできることはありませんか?」

「お前は安全な場所にいるのが一番だ。今は、何もするな」

リヒャルトはそう言い残し、慌ただしく部屋を出て行った。

エメラルドは、一人部屋に残された。

(私は、一体何をすればいいのだろう……?)

無力感に苛まれながら、エメラルドはベッドに倒れ込んだ。

その時、部屋のドアがノックされた。

「誰?」

「私です、エメラルド様。レオナルドです」

「レオナルド……どうぞ」

レオナルドが部屋に入ってきた。

「エメラルド様、少しお話してもよろしいでしょうか?」

「ええ、構わないわ」

レオナルドは、エメラルドの前に椅子を運び、腰を下ろした。

「エメラルド様、今回のことで、何かお気づきのことはありませんか?」

「気づいたこと……ですか?」

エメラルドは、今回の出来事を振り返った。婚約破棄、ゾンビの襲来、そして王都からの脱出。

(一体、何が……?)

その時、ふと一つの疑問が浮かんだ。

「そういえば……なぜ、ゾンビは突然現れたのかしら? 何か、原因があるはずです」

レオナルドは、頷いた。

「私もそう思います。今回の事態は、偶然ではないはずです」

「では、一体誰が……?」

「それはまだわかりません。ですが、必ず何か裏があるはずです」

エメラルドは、レオナルドの言葉に勇気づけられた。

「私にも、何かできることがあるはずです。ただ、部屋に閉じこもっているだけでは、何も始まりません」

「エメラルド様……」

レオナルドは、静かに微笑んだ。

「わかりました。私も、エメラルド様のお手伝いをさせていただきます」

「ありがとう、レオナルド!」

エメラルドは、レオナルドの言葉に感謝した。

こうして、エメラルドとレオナルドは、ゾンビの襲来の真相を突き止めるため、行動を開始した。

まずは、領内の情報収集から始めた。領民たちに話を聞き、ゾンビに関する情報を集めた。

その結果、いくつかの共通点が見つかった。

・ゾンビは、特定の場所から発生している。
・ゾンビは、夜になると活発になる。
・ゾンビは、特定の音に反応する。

これらの情報を元に、エメラルドとレオナルドは、ゾンビ発生源の特定を試みた。

そして、数日後。

ついに、ゾンビ発生源を突き止めた。

それは、隣の領内にある古い鉱山だった。

「ここが、ゾンビの発生源……?」

エメラルドは、鉱山の入り口で呟いた。

「間違いありません。この中から、ゾンビの気配がします」

レオナルドは、剣を構え、警戒した。

「中に入るわ。レオナルド、護衛をお願い」

「承知いたしました、エメラルド様」

エメラルドとレオナルドは、鉱山の中へと足を踏み入れた。

鉱山の中は、じめじめとしていて、腐臭が漂っていた。足元には、鉱石や工具が散乱している。

「うっ……臭い……」

エメラルドは、鼻を覆った。

「何かいる!」

レオナルドが叫んだ。

前方から、複数のゾンビが現れた。

「来るわよ!」

エメラルドは、レオナルドと共に剣を構えた。

ゾンビとの戦闘が始まった。レオナルドは、見事な剣技でゾンビを次々と倒していく。エメラルドも、持てる力を振り絞り、ゾンビに応戦した。

しかし、ゾンビの数はあまりにも多かった。

「まずいわ……!数が多すぎる⋯!」

エメラルドは、焦り始めた。

その時、鉱山の奥から、不気味な音が聞こえてきた。

「何だ、この音……?」

レオナルドが、音のする方向を見た。

「エメラルド様、あれを見てください!」

レオナルドが指差した先には、巨大な魔法陣が描かれていた。そして、魔法陣の中央には、黒いローブを纏った人物が立っていた。

「あれは……!」

エメラルドは、その人物に見覚えがあった。

それは、王都で有名な魔法使い、ザカリーだった。

「ザカリー……! なぜ、あなたがここに……!」

ザカリーは、フードを外し、不気味な笑みを浮かべた。

「おやおや、エメラルド様、お久しぶりです。まさか、こんなところでお会いするとは、思いませんでした」

「あなたが、ゾンビを操っているの……!?」

「その通りです。私が、この国を滅ぼすのです!」

ザカリーは、狂ったように笑った。

「なぜ、そんなことをするの……!」

「この国は、腐っているからです。貴族たちは贅沢三昧で、民衆は苦しんでいる。こんな国は、滅んでしまえばいいのです!」

ザカリーは、魔法陣に魔力を注ぎ込んだ。すると、魔法陣から大量のゾンビが現れた。

「さあ、エメラルド様。あなたも、ゾンビになって、私に協力してください!」

ザカリーは、エメラルドに襲い掛かってきた。

「させるものか!」

レオナルドは、ザカリーを斬りつけた。しかし、ザカリーは魔法で攻撃を防いだ。

「邪魔をするな、下郎!」

ザカリーは、レオナルドを吹き飛ばした。

「レオナルド!」

エメラルドは、倒れたレオナルドに駆け寄った。

「エメラルド様……お逃げください……!」

レオナルドは、血を吐きながら言った。

「嫌よ! あなたを置いて、逃げるわけにはいかないわ!」

エメラルドは、ザカリーを睨みつけた。

「覚悟しなさい、ザカリー! 私は、あなたを絶対に許さない!民衆を苦しめているのはあなたも同じよ!」

エメラルドは、魔法の杖を取り出し、ザカリーに魔法を放った。

しかし、ザカリーは、いとも簡単に魔法を防いだ。

「ははははは!無駄です、エメラルド様。あなたの魔法など、私には通用しません」

ザカリーは、エメラルドに近づいてきた。

「さあ、観念してください」

ザカリーが、エメラルドに手を伸ばした、その時。

背後から迫る腐臭。ザカリーの背後に一体のゾンビが忍び寄っていた。

「な、何……!?」

背後からの異様な気配にザカリーが振り返るよりも早く、ゾンビはザカリーに噛み付いた。

「ぎゃああああああ!」

悲鳴を上げながら、ザカリーはゾンビを引き剥がそうとするが、一度噛み付いたゾンビは離れない。

「お、おのれ……!」

ザカリーは、ゾンビを魔法で吹き飛ばそうとした。しかし、ゾンビに噛みつかれたことで魔力が乱れ、上手く魔法を発動できない。

その隙をついて、エメラルドはザカリーに魔法を放った。今度は、ザカリーは魔法を防ぐことができなかった。

魔法は命中し、ザカリーは倒れた。

「ば、馬鹿な……」

ザカリーは、最後の力を振り絞り、魔法陣を破壊しようとした。しかし、ゾンビに邪魔され、それも叶わなかった。

ザカリーは、そのままゾンビに囲まれ、喰い尽くされていった。

エメラルドは、呆然と立ち尽くしていた。

(終わった……?)

全てが終わったのか、まだわからない。けれど、目の前の光景は、彼女に安堵感を与えた。

「エメラルド様! ご無事ですか!」

レオナルドが、駆け寄ってきた。

「レオナルド……! 大丈夫なの……?」

「ええ、なんとか。それよりも、エメラルド様こそ……」

「私も、大丈夫よ」

エメラルドは、レオナルドの顔を見て、微笑んだ。

その後、エメラルドとレオナルドは、鉱山を後にした。領地に戻り、事の顛末をリヒャルトに報告した。

リヒャルトは、ザカリーの所業に激怒し、すぐに王都に報告した。しかし、王都はすでにゾンビに制圧されており、連絡を取ることはできなかった。

エメラルドは、ライヒハート家の領地を拠点に、ゾンビと戦い、人々を救うことを決意した。そして、いつか王都を奪還し、この国を立て直すことを誓った。

皮肉なことに、彼女を陥れようとした断罪の舞台は、ゾンビの出現によって中断され、結果的に彼女は、国を救う英雄となる道を歩み始めたのだった。
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