上 下
110 / 378

殺意を覚える

しおりを挟む
「それとこっちはアップデートメモリー。ショップに追加したから僕の魔道具のテストをして欲しいんだ。僕だとほら、道具使うまでもないから使い心地とか分かんないし、人手も少ない。その点君はスライム手多いし役に立つやつもたまにはあるかもしれないよ」

「魔剣ベルゼビュート……なんて中二チックな物を」

 コアちゃんをアップデートして、ショップを見ると品物が大量に追加されていた。
 これ全部先輩が作ったのか。やっぱりただ者じゃない。

「それにしても、俺が体が2つ欲しいときにいいタイミングですね」

「偶然偶然。それじゃあねー」

 先輩は空間を裂いてそこに入っていった。
 なんだか今日は急いでたな。何かあったのだろうか?
 すると先輩が消えた所に再び裂け目ができた。

「先輩、何か忘れ物ですか?…………誰?」

 裂け目から出てきたのは美少女。
 ん?確かこの人は……先輩を囲ってる女子の一人?

「ねえ君!縁君を見かけた?」

「さっき帰っていきましたけど……」

「くっ、逃げられたわ。あの女の子について聞きたかったのに……君、教えてくれてありがとう!」

 彼女は踵を返して裂け目に戻っていった。
 先輩……やっぱりただ者じゃない。
 さてと、気を取り直してスクロールを使おう。
 俺はスクロールを破り、魔法を使った。

「分身」

 すると目の前にもう一人の俺が出現した。
 鏡で見る姿そのまま、分身だから当たり前か。

「俺だ」

「うん、俺だ」

 どうやら完全に自立思考してるようで、違和感を感じる。

「アイデンティティの崩壊ってやつだな」

「それな。今すぐお前を消し去ってしまいたいくらい殺意が湧いてくる。これを我慢できるなんて人間って素晴らしいな」

 自己のアイデンティティを保つために本能的に殺意が湧いてくるが、理性でそれを押さえつけた。

「これは早く別れたほうがいいな。このままだと共倒れだ」

「そうだな。俺のために死ぬなよ俺」

「わかったからさっさと行け俺」

 作り出した方の俺がオフィスから出ていった。

「分身して作業効率二倍とは行きそうにありませんね」

「ああ。いくら孔明でも人にあの殺意を押さえながらずっと一緒ってわけにはいかないだろうな」

 先輩なら普通にできそうだけどな。
 今度先輩に報告しとくか。
 しかし本当に危なかった。

 どうしてこいつは俺と同じ姿なんだ?どうしてこいつは俺と同じ声だ?どうしてこいつは俺と思ったことが同じだ?と次々と頭に浮かんで嫌な気持ちになる。

 分身と分かっていても目の前の奴は敵だ、殺せと思ってしまう。
 不思議で嫌な気持ちだった。
しおりを挟む

処理中です...