神様になりましたが願いを叶えてあげるかあげないかは"俺"次第

竹野こきのこ

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色々なおっさん

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 男の顔は悲壮感が漂い、ただ事ではないのだと見て分かる。その願いは、元友人を殺して欲しいと言うものだった。

 あまりの内容に、座り込んだままの俺にミイコが近寄ると尻尾で優しく叩く。

「青ざめた顔してどうしたんですにゃ?」
「あ、ああ……」

「ああ、じゃ分からないですにゃ? それで願いはなんだったんですにゃ?」
「し、知り合いを殺して欲しいって……」

「にゃ……」
 ミイコはそういうと、黙ってしまった。無理もない、願いを叶えると言うのはほとんどの場合がポジティブな内容が多い。殺すなんて依頼先は神様じゃ無くて本来なら殺し屋か悪魔にでも頼むべきなのだ。

「ついに来てしまいましたかにゃ……」
「なんだよそれ、そんな"良くある事"みたいな反応。どういう事だよ」

「神様、願いというのは人間の欲望なのですにゃ。もし神様が絶対に許せない事をされて、それを代わりに裁いてくれる物が無かったらどうしますにゃ?」

「絶対に許せない事? 諦めるしか無いんじゃないのか?」
「それは、神様が普通に過ごしてくる事が出来たからですにゃ」

「いやいや、俺だって色々大変な事は経験してるんだけど?」
「例えばなんですにゃ?」

 ミイコはやけに落ち着いた様に問いかけた。
 だけど、プライベートな内容でもある事をミイコに打ち明けるのはなんとなく嫌だ。

「そんな事、言わないといけないのか?」
「嫌ならいいですにゃ。まだ、わたしをそこまでは信用して無いと思いますし……」

 別にミイコを信用していない訳じゃ無い。だけどやっぱりイメージとかを考えると言いたく無い事が有るのも普通だと思う。

「いや……わ、わかったよ……失恋……とか……さ?」
「失恋は辛いですにゃね……」

 あれ? いつもの感じなら"たかが失恋程度で"とかいいそうだと思っていたんだけど、意外にもミイコは共感している様で驚いた。

「まぁ……中学生の時の話だけどね」
「そのくらいの時期は生活している場所が世界の全ての様に感じているはずですにゃ」

「まぁ、それもあって余計に記憶に残っているかもしれないなぁ」
「生きているというのは、何処かに希望を持っているのですにゃ。それが奪われる悲しみというのは"どんな物"というのは重要じゃないですにゃあよ?」

 俺はミイコの過去をほとんど知らない。極端な事を言えばミイコといつまで一緒に居れるかすら分からないのだ。

 でも、多分過去の神様や、巫女になった経緯はあるのだろう。それまで普通の猫だったとしたら、自分には分からない色々な世界を違う目線で見てきたのだろう。

「それで……彼の願いはどうするのですにゃ?」

ミイコの目が少し怖く思えた。
何かを試されている様な、それでいて期待されている様な……。

「俺は……」

 判断の重圧を感じ言葉に詰まる。だが、ミイコは何も言わずにただ俺の返事を待った。

「やっぱりこの力で殺すのは違うと思う」

 そう答えても、ミイコは何も言わずにいる。きっと、その続きを待っているのだろう。

「でも、自分に出来る事は無いか、あの人を追いかけてみるよ……」

 正解か不正解なのかはよくわからないけれど、ミイコは小さく

「神様の指示に従いますにゃ……」

 と言って頷く仕草を見せた。
 心なしかそう言ったミイコの姿は何処か寂しそうに見えた気がした。

 部屋に戻り、早速"神の眼"を使い過去を覗く。
 "神の眼"は初めの頃から使っている能力で、だいぶ出来ることがわかって来た事もあり自分で名付けた。

 見えるのは、過去から現在までの見ようと思った場面。言うなればどこでも音声付きの監視カメラみたいな物だ。

 DVDを再生する様に彼の歴史を見せてもらう事にした。

 彼は大手企業の会社員の父と母の元に生まれ、ある程度不自由しない環境で育った。

 働き詰めの父を見て来たからなのだろう、彼は将来起業したいと考えるようになっていた。

 だが、学生の時に親から企業に入る様に勧められた。彼自身、起業するためにも、その事には納得していた様で大手企業に入社する。

 営業マンとして、試行錯誤を繰り返し好成績を残し課長にまで出世し、家族を持った。

 だけど、小さい頃から見ていた起業する夢の為に多くの貯蓄をしていた彼はその夢を諦める事は出来なかった。

 30代の半ばに差し掛かると、子供が小学生になったのを機に妻に夢を打ち明けた。

 少し反対はされたものの、卒業までの貯蓄を残しても起業出来る事を説明し、説得を行いリサイクルショップを始める。

 元々、大企業にいた事もあった為か、失敗しながらも確実に事業を軌道にのせる事が出来、やっとの思いで2店舗目を運営し始めた矢先にトラブルが起きた……。

「なるほど、まるで一つの映画でも見ている様な生涯だな……」

 少し息をついて、お茶を入れに台所に向かう。まるで休日の過ごし方だ。そんな事を考え、外を見ると雨上がりの湿っぽい空気が夜の神社を漂っていた。

「えっと……お茶お茶っと……」

 お茶の缶を探していると、三毛猫が1匹台所の隅に座っているのが見える。

「あっれぇ、ミイコの友達かな? 三毛猫ちゃんも喋れるのかなぁ?」

 そう言って軽く話しかけてみる。あまり俺には興味がない様子に、普通の猫かとも思った。あまり気にせずお茶の葉を見つけポットのスイッチを入れた。

 すると、どこからかしゃがれた"おっさん"の様な声がした。

「あー、三毛猫ちゃんってワシの事かい?」
「え? おっさん? っていうかオスなのか?」

「なんや兄ちゃん、オスやったらあかんのかいな?」
「ダメじゃないですけど……」

 その三毛猫はアクセントの強い関西弁で、猫のくせにまるでヤクザの様な迫力をかもしだしている。

「オスの三毛猫って居ないんじゃ」
「おるわ! 失礼な兄ちゃんやなぁ」

「す、スイマセン……」

 そう言うと、カチッとポットのスイッチが切れる音がする。

「それでおじさんは」
「サブローや。ほんま、ええ加減にせえよ? 人の事メスやおもたり、おっさん呼ばわりしたり……」

「すみません」
「そこは人やのうて猫やがな言うとこやろ!」
「ね、猫やが」
「おそいわ!」

 この猫、面倒臭いタイプだ……。
「それでサブローさんは何しに来たんです?」
「ああ、ミイコの奴が呼びよってなぁ、来てみたはええけど、誰もおらへんから待っとったんや」

「なるほど、台所もあれなんで居間の方で待ちますか?」

 するとサブローは、目を細めニッコリ笑うと「ええか?」と言った。
「それじゃ、ちょっと案内しますね」

 そう言って、案内しようとすると
「ああ、お茶入れてからでかまへんよ?」
「あ、サブローさんも要ります?」

 と一応聞いてみると、「おおきに、でも水越しで頼むわ。ワシ猫舌やねん」と陽気に返してくる。さっきの事もあるので、小声で「猫やから?」と聞くと

「声小さいわ!」と、面倒臭い返事を返してくれた。
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