僕が君ならどう生きる

竹野こきのこ

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第1話

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  今日、俺の初恋の人が死んだ。
  死因は自殺だった。


  社会人一年目を終えようとしていた頃、俺のLINEに同級生の宮田みやたからメッセージが入っていた。

  "なぁ、おまえきいたか?  牧村まきむら自殺したらしいぞ"

  俺の知っている牧村は牧村 由美まきむら ゆみ。そう、俺の初恋の人しか知らない。

  昔はよく同じグループで遊んでいた。今は仕事や引っ越しなんかで少しづつ会わなくなってから1年くらいだろうか……


──俺が牧村と初めて出会ったのは10年程前。中学一年の入学式の時だった。

   当時、ショートヘアの彼女は、笑うと少し八重歯の覗く大きな口が印象的だ。出会った当初は、"ちょっとかわいい子だな"  くらいに思っていた。

   そういえば、小学校から仲の良かった女子が牧村と仲良くなった事で、俺は同じグループで遊ぶ様になっていったんだっけな。

  あの頃はまだあまり彼女を意識してはなかったから、委員会や合唱コンクール、運動会など同じグループで学校でのイベントを一緒にしたなというくらいしか覚えていない。

  それから、2年、3年と色々なイベントを一緒に過ごす度に彼女を意識し出して、牧村の事がどんどん好きになっていったんだ。

  明るくていつも笑顔。その表現が一番ぴったりな彼女だった。



  『そんな牧村が自殺?』



  俺は宮田のLINEが信じられなかった。

  "おまえ、マジで悪い冗談はやめてくれ、流石にキレるぞ?"

  ピッ

  "いや、それがマジなんだって。なんか警察とかが、色々調べてからになるから葬儀は3日後だって。おまえいくだろ?"

  "マジかよ。ごめん今なんも考えられん。葬儀はいくけど。一応詳細がわかったらおしえてくれ"

  "了解、また連絡するわ"

  俺は何も考えられず、その場にたちつくした。
 あいつが自分から死のうとするなんてするとは思えない、なぜ?どうして?俺の頭の中は"はてな"でいっぱいになった。

  ピッ

  "気持ちはわかるが、頑張れよ"

  宮田は俺が牧村を好きだったのを知っている。メッセージは一言だったが、俺の事を気にしてくれているのがわかった。


──その日の仕事はほとんど覚えていない。
俺は家に帰るとなんとなくFacebookを開き、牧村のページを見た。

  俺の知っている人も多く、どこで聞いたのか色々な人からのコメントが沢山あった。

  牧村の投稿を遡ってみると、1週間程前に友達とご飯を食べに行っている投稿がある。

  この時に牧村は、すでに思い悩んでたのだろうか?

  色々と気になり、俺は牧村の過去のFacebook投稿を追う。そうして、俺は気づいたらいつの間にかそのまま寝ていた様だった。


  …………ん、俺の高校の中庭?

  (あ、宮田と佐々木ささき

  俺は高校の時の夢を見ているんだろうか?
  懐かしいな。この小さな中庭の椅子にいつものメンバー、昼休みはここで、4人で囲んで食べていたっけ。

  このメンバーだときっと牧村も来るんだろうな。そんな事を考えていると、誰かがこちらに走ってくるのがみえた。

  「圭介けいすけおまえ先に行ってたのかよ。」

  「弘樹ひろきがおせーからな」

  あれ?  俺?
  走ってきたのは高校時代の俺自身だった。そういえば、この頃の俺は宮田の事をまだ圭介って呼んでたな。

  「弘樹はまた、カレーパンにしたの?」
  牧村の声、無意識に俺の口から出たような気がした。

  (ちょっとまて!)
    俺はこの状況を理解し、焦って無意識に叫んでいた。

  「由美?  どうしたの?」
  佐々木が牧村の名前を呼び、おれに話しかけてきた。

  「うーん、いまなんか、声がした気がしたんだけど。」
  また俺はまた、無意識に自分が喋る感じがした。

  「気のせいじゃない? 」

  聞こえた様な反応が気になって、牧村に喋りかけてみる。

  (牧村、もしかして今の聞こえてる?)

  「弘樹?  あれっ??」

  「由美~どうしたの?」

  もしかして、俺は牧村の中にいるのか?
でも、牧村はそのままで……声は牧村にだけ届いている様だ。

  (牧村、声に出さないで聞いてほしい。なんでかよくわからないけど、話しかけられるみたいなんだ。)

  (あたしの声も聞こえる?)
  牧村の声がクリアに響いた。

  (うん、聞こえる)

  (あなたは誰?  もしかして宇宙人とか?)

  (俺は、7年後くらいの西村弘樹にしむらひろき、多分だけど俺がみている夢の中だと思う)

  (未来の弘樹?  それも夢って……)

  (訳あって、事情は言えないんだけど、寝たらここにきて牧村に話しかけられるようになってたんだ)

  (そっかぁ。それであなたは夢と思ってるわけね、未来の弘樹はわたしに何か用があったの?)

  (もっと後なら、用があったんだけどな。)

  (そうなの?  今は特にないんだね?)

  (そう、なるな……)

  「由美? さっきからぼーっとしてどうしたん?」
  佐々木がにやけながら言った。

  「うん?  ちょっと考え事してただけー」

  「由美が?」

  「どういう意味よ!  佐々木みのりにだけはいわれたくないわ!」

  高校の時のいつもの談笑、この"キラキラ"という言葉がしっくりくるような思い出の一部を俺は懐かしく、だけどこの頃の牧村を感じるほど寂しさと悲しさが入り混じってくる。

  これは多分、夢なんだろう。
 俺の牧村と話したいという気持ちが、記憶の過去へと運び、話させてくれてるのだと思う。

 だけど、夢から覚めたら牧村は居ない。俺はこのまま現実逃避したいと思った。

 ただ、夢だとしても俺は牧村と話したい。

  俺はこの夢は、自分の中の自浄作用なんだと思う事にして、彼女と沢山話そうときめた。


──昼休みが終わり授業がはじまる。
  俺は初恋の相手、高校生の牧村と意識の中で話せる様になっているようだった。

  昼過ぎの天気のいい教室で、風と鉛筆の音が聞こえる感覚が妙にリアルだった。
  俺は、黒板の内容を、ノートに書き写している牧村に話しかけてみた。

  (なぁ、牧村?)

  (あっ!  未来の弘樹? まだいたの?)

  (ひどいなおまえ、なんか話そうぜ、俺は暇なんだよ)

  (あんたは暇かも知れないけど、あたしは授業中なんですけど?)

  (それじゃあ、牧村が興味湧くように、未来の俺が今から起こる事、予言してやるよ。)

  (えっ予言?  なになに?)

  (そうだな……もうすぐ俺から謎のメールが来る!)

  (あはは、なにそれ?)


  ブーン。ブーン。


  (本当に来た! すごい、本当に未来人じゃん。)

  "昼休み宇宙とでも交信してたのか?"

  (いや、来たけどさ。メール意味不明なんですけど)

  (だからさぁ、謎だって言ったんだよ。まぁ、この頃の俺は、牧村へのアプローチに必死だったからな!)

  (なんでそんな事してたの?  弘樹が私の事好きみたいじゃん)

  高校生の俺がこっちをみて手を振ってる。
  嬉しそうな表情の俺は、牧村からはこんな感じで見えてたのか……。

  (あぁ、牧村の事好きだったけど?)

  (本当に? というかそれって未来的に言っちゃっていいわけ?)

  たしかに、俺は何を言ってるんだ? 
  当時は付き合えそうなくらい仲のいい時はあったけど、一度も告白はした事はなかった。

  それなのに、こっちに来て2時間足らずで告白してしまった。

  (まぁ、過去の俺には悪いけど、中学の2年くらいからかな? 俺が牧村を好きになったのは)

  (結構前からじゃん……さすが大人の弘樹というかあっさり言ったね。)

  (まぁ、俺の夢の中だし何でも言えるな!)

  (あたしは夢の中じゃないんですけど!  でも、本当に未来の弘樹って事は、今後のあたしたちの出来事も知ってるって事?)

  (もちろん。しってるよ)

  未来の事に反応している牧村に、約7年後、彼女が自殺すると知っている俺は胸が苦しくなった。

  (ふーん。で、弘樹はいつ振られたの?)

  (ひでぇな、振られる前提かよ。俺は告白してねーよ。)

  (なんでしてないの?  だって、"好きだった"って過去形だったってことは、告白して振られたか他に好きな人が出来て好きじゃなくなったって事でしょ?)

  (おまえ変なとこだけ察しいいよな、でも好きじゃなくなったわけじゃないぜ?  まぁ、諦めに近い大人の事情ってやつだな)

  (そうなの?  今でもまだ好きなら、夢から覚めたら告白しなよ?  あたしに彼氏とかダンナが居なかったら付き合ってあげる!)

  (マジ?  帰ったら、すぐに連絡して告るわ、7年後おまえ約束まもれよ?)

  これ程姿が見えない事が良かった事は無い。天の声ではなく、実体として、その場に存在していたら俺は泣いていただろう。 

  休み時間に入り、牧村は高校生の俺に話しかけた。

  「さっきのメールなんだったの?」

  「あー、なんか牧村どこかと交信してたみたいだったから」
  高校生の俺は照れながら言った。

  「あのさ、弘樹は好きな人いるの?」

  (ちょっとまてよ、何言っちゃってんの?)

  「えっ、なんで? い、居ないけど。」
  明らかにあたふたしてる俺。

  「そうなの? いても告白する勇気もないくせに」
  牧村はそっと呟いた。

  「え?  牧村? 今なんか言った?」

  (ちょっと、本当にやめてあげて。)

  (弘樹、何慌ててるの?  どうせあんた告白しないから大丈夫でしょ?)

  (まぁ、そうなんだろうけどさ。 牧村なんか怒ってる?)

  (別に……)
  俺は牧村がちょっと怒ってるみたいだったからしばらく黙っている事にした。

  昔の俺は見てると恥ずかしくなる。メールのタイミングや態度、話題が酷い。

 もうちょっとどうにかならんのかな。


──学校が終わり牧村は家に着いた。

  そういえば牧村には妹がいた。
 何回か会った事はあるが、あんまり似てなかったくらいにしか思っていなかった。

  家に帰り、牧村は家族に会う事なく部屋にそのまま入った。
  まぁ年頃の女の子だしな。俺は、牧村もまだまだ若いなーとほくそ笑んで居た。

  (弘樹?)

  (ん? どした?)

  (えっ、まだいたの?)

  (いたらだめなのかよ?)

  (あたし、これから着替えたり、お風呂入ったりするんだけど……)

  (そ、そうだな……頑張って意識して寝るわ)

  (寝れるなら寝てよね!)

  俺は頑張って意識をそらした。
  寝ようと思えば寝た様な感じにはなれるみたいだった。

  (弘樹?  弘樹?)
 
 少し意識が離れた中で牧村の声が聞こえた。

  (牧村?)

  (本当に寝てたの?  さっきからずっと呼んでたのに、返事がなかったから帰ったかと思った)

  (うーん、残念だけど寝れるみたいだな。まぁ、夢だからイメージ出来ないシーンは飛ばされちゃうのかもなぁ)

  (残念って……まぁ、弘樹はあたしの事好きだもんね!)

  (まぁなぁ、出来ることなら着替えもお風呂も見たい! でも結構しっかり話せて楽しいぞ?)

  (あはは、でもなんでこんな天の声みたいになっちゃってるんだろうね?)

  (俺にもよくわかんねぇな……)

  (でも、好きな人の近くに居れるのって幸せな事だよね!  いいなぁ弘樹は)

 たしかに夢でも牧村といつでも話せる感じが嬉しい。

  (えっ?  牧村好きな奴いるの?)

  (んー、ひみつ!)

  (すっごく気になるんですけど!   上手く行っても絶対邪魔してやる)

 (えー、やめてよ!)


  その後も、邪魔する方法を話したりしてもりあがり、牧村が寝ると同時に俺はのスイッチも切れた様になった。
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