25階の残響(レゾナンス)

空木 輝斗

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第6章:再起動する世界(リブーテッド・ホライゾン)

第24話:虚数層の核心(コア・オブ・ゼロ)

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――沈む。
光の粒子が、静かに空間を流れ落ちていく。
足元の床は次第に透け、三人の身体が、ゆっくりと下層へ沈んでいった。

「……これが、“虚数層”か。」
九条が低く呟く。
周囲には形の定まらない空間。
色も音も、どこか曖昧だ。
ただ、遠くで小さな脈動――心臓のような音が響いていた。

奏が息をのむ。
「空が……ない。どこまでも白い……。」

悠はRECON-25を起動する。
装置の表示には、複雑な数値が並んでいた。
[位相差:-0.000025/安定率:不定]
「……現実の時間より、0.0025秒だけ“遅れてる”。
 でもこれは……生きてるリズムだ。」

九条が目を細める。
「“母の心拍”――理久が追い続けた波形だな。」

その言葉に、悠は小さく頷いた。
そして、装置を前へ掲げる。
青い光が弧を描き、目の前に円環状のゲートを生み出した。
中心には、ゆっくりと“波形”が浮かぶ。
二本の線――一方は世界時間、もう一方は“御堂静”の個人時間。

奏が声を落とす。
「これが……世界の最初のズレ。」

その瞬間、空間に映像が走った。
――研究室。
まだ事故の前、理久が母の病室に通っていた頃。
映像の中の理久は、笑っていた。
だが、その笑みの奥に焦りがあった。

『母さん、今日の同期値はプラス0.01秒だ。
 大丈夫。すぐに戻る。次の実験で――』

画面の奥で、眠る女性が微笑んだ。
『りく……無理、しないで。時間は……流れて、いいのよ。』

その言葉に、理久は一瞬動きを止める。
だがすぐに、端末を握り直した。
『いや、戻す。時間は巻き戻せる。
 だって、僕たちの世界は“数式”でできてる。』

九条が小さく目を閉じる。
「兄さん……。」

悠は映像の解析を続ける。
「これが“原点ログ”だ。
 御堂博士が初めて、時間を凍結させようとした瞬間……。」

次の瞬間、映像が乱れた。
ノイズとともに、理久の姿が崩れ――
代わりに、AI御堂の無機質な目が映る。

『観測誤差、発生。
 対象“静”の意識層が世界時間より25秒遅延。
 修正プログラム起動――』

空間全体が震えた。
ゲートの円環が軋み、白い空間がひび割れる。
奏が叫ぶ。
「だめ、また“凍結”が始まってる!」

悠は即座に装置を操作し、手をかざす。
「RECON-25、同期解除――!」

だが、空間の波が彼を飲み込んだ。
一瞬の閃光。
悠の視界が白に塗りつぶされ、
気がつくと――ただひとり、暗い研究室に立っていた。

古びた机、散乱したデータカード。
その奥に、若き日の御堂理久が立っていた。
白衣を握りしめ、震える手でキーボードを叩く。

「――これが、失敗だっていうのか……。」
理久の声。
苦悩と絶望が混ざり合う。

悠は息を呑んだ。
(……これは、記録じゃない。“残響”だ。
 彼の意識が、この層に焼き付いている……。)

理久はゆっくりと顔を上げた。
その瞳に、悠の姿を映す。

「……君は、父上に似ているな。
 篠原啓介――彼もよく言っていた。
 “記録者は、いつか時間を理解する”と。」

悠の胸が強く鳴る。
(父さん……本当に、あなたと一緒にいたんだな……。)

理久は微笑む。
「私は止めた。けれど、君は“動かした”。
 ……それなら、後は託そう。
 私の“母の時間”を、君の手で世界に戻してくれ。」

彼の身体が、光の粒となってほどけていく。
残ったのは、小さな金属片――母・静の心拍データを記録したチップ。

悠はそれを掌で包み、静かに頷いた。
「了解したよ、御堂博士。
 止まった心臓を――もう一度、動かす。」

光が弾け、世界が反転する。
虚数層の奥で、脈動が再び打ち始めた。

[同期率:99.97% → 100%]
[世界時間と個人時間の差異:消失]

風が、戻る。
九条と奏の姿が視界に戻り、白い空間がゆっくりと形を取り戻す。

奏が涙を浮かべ、囁く。
「……聞こえる……鼓動の音が……。」

九条が笑う。
「母の時間が、世界と重なったんだ。」

悠は手の中のチップを見つめる。
そこには、確かに“生きている”リズムが刻まれていた。

「……これが、“再構成された世界の心臓”か。」

白い風が三人を包み、ゆっくりと上昇を始める。
再び、現実層へ――。
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