脱獄は死者とともに

柚稀

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第一章

挨拶

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 なぜ私がここにいるのか。
 なぜ私が犯人となったのか。
 なぜ私はあの時、路地裏を見てしまったのか。
 自分の不運と警察の調査を恨んだ。

 「お前は今から囚人番号007番だ」
 「……はい」
 「ここでは、6時起床22時就寝で時間厳守だ」
 
 私は名前というものを呼ばれない環境で今から生活してしていくことへ絶望感を覚えた。
 ――まるで人権が失われたようだだったから……。

 沈む気持ちの中、出された食事をゆっくりと少しずつ食べる。手が進まない。これからの生活を考えると体が重くなった。
 
 「ねぇ、新入りさん名前はなんて言うの?」

 突然かけられた声に驚き体が固まった。
 声をかけたのは、左目が前髪でかくれているつり目の若い男だった。

 「……聞いてる?」
 「はいっ」
 「俺はアラン。よろしくね。で、君の名前は?」
 「……カーラ」
 「これから仲良くしようね」
 「……仲良くする気はない」
「そんなこと言わないでよ」

 誰が犯罪者と仲良くするか。犯罪者なんてただの異常者じゃないか。私は無実の罪でここにいるだけなのに……。

 「でも、愛想よくしといた方がいいよ。これから一緒に暮らしてくんだし。あっ!一緒に挨拶にでも行こっか」
 「ちょっと勝手に決めなでよ」

 なんだこの人は? 馴れ馴れしい。うるさい。自分勝手……だけど、アランの言うことは一理ある。なんにしてもここで暮らすことには変わらない。友好的な関係の方がいいに決まってる。一旦、頭を冷やそう。

 同じ食堂でテレビを見ていた女性にアランは声をかけた。その人は髪を一つ結びにした美しい人だった。
 
 「あなたが例の殺人鬼さん? 会いたかったー。私はシェイラ、困ったことがあったらなんでも聞いてね」
 「……私は殺人鬼じゃない」
 「あっそうなの? じゃあなんでここにいるのかな?」

 意地悪な質問に対して、ムッと顔をしかめる私を見てシェイラは微笑んだ。

 「ごめんごめん。ちょっとした冗談だよ」
 「シェイラの言ってることはだいたい3割が嘘だから気にしなくていいよ。カーラはからかわれたね」
 「アランってば人聞きの悪いこと言わないでよね」
 「本当のことだろ」
 
 なんでここにいるか? ただの冤罪だよ。
 警察が仕事をしているか疑うレベルの酷さだった。
 私が警察になったら、そんなことさせない。私のような思いは他の人にさせない。母さんのような悪い人を捕まえるカッコイイ警察官に……。
 
 「カーラ、次はリックのところに行くよ」
 「リック?」
 「うん。きっと図書室にいるよ」

 腕を引っ張られるがままに、アランについて行く。
 食堂を出て左にまっすぐ行ったら『図書室』と書いてあるプレートがある。図書室に入ると多種多様な本が置いてあった。本棚の隣に横長いテーブルと椅子が数個あった。そこには、うつ伏せになって寝息を立てている銀髪の老人がいた。

 「リック、リック起きて!新入りさんが来たよ」
 「ゔゔん、新入り?」
 「そうだよ!あの子、カーラっていうんだ」
 「おぉ、そうかい。悪いね老いぼれは少し動いただけで疲れてしまってね。わしはリックというものでね。よろしく頼むよ」
 「……はい」
 「ヨハンには会ったかい?君と歳が近いから気が合うんじゃないかな?」
 「いいえ、まだ」
 「ヨハンは独房にいると思うよ」
 「はぁ」

  『003』のプレートが貼ってある独房を探して歩いていると、ベットの上で本を読んでいる小柄な男性がいる。
 
 あれがヨハン? 声かけずらいな……。

 「……あの、私カーラ。君はヨハン?」
 「そうだけど?何か用?」
 「いや、挨拶に来ただけ」
 「そう。じゃあ、あっちに行って」

 リックは気が合うって言ってたけど、あんまり合いそうじゃないな。すぐ追い返されたし。
 
           *

 就寝時間でベットに横になったけど硬くてなかなか寝つけない。疲れてるはずなんだけどなぁ……寝坊なんて出来ないし早く寝ないと。
 何分経っても眠れない……寝苦しい……視線を感じる。
 
 目を開けてみると、私を見下ろしている影が見える。
 その影は赤い眼をした人だった。

 「初めて見る顔。新しい子……カーラ……可哀想に……なんでここに来ちゃったんだろうね」
 「誰?」
 「……僕が見えるの?」
 「あなたが話しかけたんでしょ」
 「僕が見える人はなかなかいないから……僕はエリック。ここで殺された“死者”だよ」

 死者? つまり、幽霊ってこと?

 改めてエリックの姿を見ると、足元にいくにつれてだんだん薄くなっていた。
 現実味の無かった話を本当なのだと認識した私は意識を無くしかけた。

 「カーラ! どうしたの?」
 「……こ……わ……くて」
 「僕が?」
 「うん」
 「どうして? 僕、すごく優しいと思うんだけど」
 「……でも、死んでるんでしょ」

 私が涙目になりながら震える声で言うとエリックは優しく微笑んだ。

 「ごめんね。怖がらせて」

 少し悲しそうな表情でエリックは独房を出ていった。

 
 


 
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