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「だ、誰かいませんかー?」
クロードは定期的に大きな声を出しては肘や足で扉を開けようと試みた。しかし扉はびくともしない……
助走がつけられない狭い空間で、なおかつ外では掃除用具が突っ張り棒のような役割をしてしまっているのだろう……クロードは想像した。
上手く力が出ない……
あまり手荒な事をして任務外でのトラブルでここの備品を壊すことも避けたかった。クロードはため息を突くと下腹部を刺激している尿意を忘れる為に別のことを考えることにした。
今後貴族の女性と結婚することになる……
クロードはまさか自分が貴族の女性と結婚することになるとは思ってもおらず内心動揺した。自分は口下手だしあまり(全く)女性に慣れていないし、自分で相手を探すとなれば貴族女性は絶対に自分を相手にしないだろうと思った。それに彼女は元々は兄の婚約者だ。
兄とはどのような頻度で会っていたんだろうか……
なんとなくそんな事を思った。
どんな女性なのだろう。
いつから兄の婚約者なのだろう。
この結婚……世継ぎのためにとにかく子を作らなければならないのだから……何度か交われば俺ならすぐ子ができるのではないだろうか?
そうしたら相手が別々に住みたいのなら別に住めばいいし、まあ俺の存在を気にしないのならそのまま住んでもいいし……とにかく子は一人でいいのではないか?
あまり兄弟が多いのも考えものだ。
クロードは自分の子どもの頃を思い返すとそう思った。
特に貴族の女性は冷たい女性が多そうだ。
やはり子は一人でいい。
自分と同じような思いをする子どもはいない方が良いのだ。
しかし、向こうも俺なんかと性行為できるのだろうか……
とにかく早く子を作ってしまって……お互い最低限の接触に努めよう……
クロードは今は放尿という生理的欲求をせき止める為に奮闘している股間に目を落とした。
クロードには猛烈なコンプレックスがあって女性と関係を持つのに抵抗があったのだ。入隊してすぐのとき入浴の際に先輩方から陰囊がでかいと指をさされて笑われ、みんなの前で陰囊を見せろと囃し立てられた。
先輩たちはちょっとした戯れだったのだろうが当時まだ学園を卒業したばかりで女性経験もなければ口下手ゆえに女性と話したこともないクロードにはかなりショックだった。
(俺の陰囊は変なのか!)
ちらりと横目で見た先輩の陰囊と自分の陰囊を見比べてそんなに笑われる程でかいだろうか……と顔が熱くなった。
「こんな奴に犯されたらすぐ子ができるぞ!」
先輩方はドッと笑った。
クロードは何だか恥ずかしくて俯いた。
すぐ子ができてしまうのか……俺は……
成人するとまだ童貞のクロードを先輩方が心配して娼館まで引きずって行った。
「なんでお前は男前なのに女を知らないんだ」
酔っぱらい上機嫌になった先輩方はこちらの気も知らずそう言って笑う。「娼婦を抱いて慣れろ!な?一度女を知れば慣れるぞ!お前ならどんな女でも食えるだろうさ!」先輩方が口々にそう言って笑った。
クロードはがっくりと肩を落とした。
先輩の奢りで入室した明るい室内の娼館ではズボンを脱ぐこともできなかった。相手の女性の顔はよく覚えていない……しかしこのような職業の女性に陰囊のサイズを笑われてはさすがにもう立ち直ることはできないとクロードは思い、その気にさせようと一生懸命努力している女性に謝りながら「そんな気分にはなれなくて……」と俯き続けた。実際に緊張からかクロードの男性器はフニャフニャだった……
「どうだった!クロード!」
クロードが出てくるのを待っていた先輩たちは娼館前のバーで酒を酌み交わしバーへトボトボとやってきたクロードにご機嫌そうに聞いた。
クロードは親指を立てると「最高でした」と嘘をついた。
クロードはクロードとあの娼館の女性だけが知っている未だ童貞だという事実にも悩んでいた。
上手くできるだろうか……
夫婦生活が不安でたまらない……
貴族の女性ならば恐らくあちらも処女だ。
俺の陰囊の大きさなど気にならないのでは?
クロードは時々波に襲われる尿意に足踏みをした。
しかしどうだ……先輩が笑いながら言っていたが今の貴族は処女は守るが性には奔放だとも言う……そうだとしたら俺の陰囊を笑われてしまうのでは?笑われるだけならまだしも嫌がられたらどうする?
子を作らなければならないのに。
クロードはなかなか収まらない尿意の波に思考が疎らになった。
このまま下着にぶちまける位なら足元にあるバケツに放尿してしまおう。そう思った。救助された後に捨てよう……
クロードが陰茎を出し、バケツを手前に寄せるとその奥から大量のデカい蜘蛛が湧き出てきた。
「――――――――――っ」
その時、クロードは声が出ないほどの驚いた。
実際、出したはずの悲鳴はただ吐息のような音にしかならなかった。
クロードがこの世で一番苦手な生物……それは蜘蛛だった。
逃げも隠れもできないこの密室の中でたくさんの蜘蛛に囲まれクロードは普通の精神状態でいることはできなかった。
蜘蛛も自分の命の危機に慌てふためいているのかカサコソとクロードの周りを這い回る。クロードは尿を勢いよくバケツに放ちながらせめて耳の穴を塞いだ。
耳の穴から侵入されるのはごめんだったし、何よりも蜘蛛の徘徊音を聞きたくなくて……目を瞑り、数字を数え続ける。
そうしてただただ救助が来ることを待つ時間はまるで無限に続く地獄ようだ。
その無限の時間を越えて救出されてからもクロードは声の出し方を忘れたままだった。
クロードは定期的に大きな声を出しては肘や足で扉を開けようと試みた。しかし扉はびくともしない……
助走がつけられない狭い空間で、なおかつ外では掃除用具が突っ張り棒のような役割をしてしまっているのだろう……クロードは想像した。
上手く力が出ない……
あまり手荒な事をして任務外でのトラブルでここの備品を壊すことも避けたかった。クロードはため息を突くと下腹部を刺激している尿意を忘れる為に別のことを考えることにした。
今後貴族の女性と結婚することになる……
クロードはまさか自分が貴族の女性と結婚することになるとは思ってもおらず内心動揺した。自分は口下手だしあまり(全く)女性に慣れていないし、自分で相手を探すとなれば貴族女性は絶対に自分を相手にしないだろうと思った。それに彼女は元々は兄の婚約者だ。
兄とはどのような頻度で会っていたんだろうか……
なんとなくそんな事を思った。
どんな女性なのだろう。
いつから兄の婚約者なのだろう。
この結婚……世継ぎのためにとにかく子を作らなければならないのだから……何度か交われば俺ならすぐ子ができるのではないだろうか?
そうしたら相手が別々に住みたいのなら別に住めばいいし、まあ俺の存在を気にしないのならそのまま住んでもいいし……とにかく子は一人でいいのではないか?
あまり兄弟が多いのも考えものだ。
クロードは自分の子どもの頃を思い返すとそう思った。
特に貴族の女性は冷たい女性が多そうだ。
やはり子は一人でいい。
自分と同じような思いをする子どもはいない方が良いのだ。
しかし、向こうも俺なんかと性行為できるのだろうか……
とにかく早く子を作ってしまって……お互い最低限の接触に努めよう……
クロードは今は放尿という生理的欲求をせき止める為に奮闘している股間に目を落とした。
クロードには猛烈なコンプレックスがあって女性と関係を持つのに抵抗があったのだ。入隊してすぐのとき入浴の際に先輩方から陰囊がでかいと指をさされて笑われ、みんなの前で陰囊を見せろと囃し立てられた。
先輩たちはちょっとした戯れだったのだろうが当時まだ学園を卒業したばかりで女性経験もなければ口下手ゆえに女性と話したこともないクロードにはかなりショックだった。
(俺の陰囊は変なのか!)
ちらりと横目で見た先輩の陰囊と自分の陰囊を見比べてそんなに笑われる程でかいだろうか……と顔が熱くなった。
「こんな奴に犯されたらすぐ子ができるぞ!」
先輩方はドッと笑った。
クロードは何だか恥ずかしくて俯いた。
すぐ子ができてしまうのか……俺は……
成人するとまだ童貞のクロードを先輩方が心配して娼館まで引きずって行った。
「なんでお前は男前なのに女を知らないんだ」
酔っぱらい上機嫌になった先輩方はこちらの気も知らずそう言って笑う。「娼婦を抱いて慣れろ!な?一度女を知れば慣れるぞ!お前ならどんな女でも食えるだろうさ!」先輩方が口々にそう言って笑った。
クロードはがっくりと肩を落とした。
先輩の奢りで入室した明るい室内の娼館ではズボンを脱ぐこともできなかった。相手の女性の顔はよく覚えていない……しかしこのような職業の女性に陰囊のサイズを笑われてはさすがにもう立ち直ることはできないとクロードは思い、その気にさせようと一生懸命努力している女性に謝りながら「そんな気分にはなれなくて……」と俯き続けた。実際に緊張からかクロードの男性器はフニャフニャだった……
「どうだった!クロード!」
クロードが出てくるのを待っていた先輩たちは娼館前のバーで酒を酌み交わしバーへトボトボとやってきたクロードにご機嫌そうに聞いた。
クロードは親指を立てると「最高でした」と嘘をついた。
クロードはクロードとあの娼館の女性だけが知っている未だ童貞だという事実にも悩んでいた。
上手くできるだろうか……
夫婦生活が不安でたまらない……
貴族の女性ならば恐らくあちらも処女だ。
俺の陰囊の大きさなど気にならないのでは?
クロードは時々波に襲われる尿意に足踏みをした。
しかしどうだ……先輩が笑いながら言っていたが今の貴族は処女は守るが性には奔放だとも言う……そうだとしたら俺の陰囊を笑われてしまうのでは?笑われるだけならまだしも嫌がられたらどうする?
子を作らなければならないのに。
クロードはなかなか収まらない尿意の波に思考が疎らになった。
このまま下着にぶちまける位なら足元にあるバケツに放尿してしまおう。そう思った。救助された後に捨てよう……
クロードが陰茎を出し、バケツを手前に寄せるとその奥から大量のデカい蜘蛛が湧き出てきた。
「――――――――――っ」
その時、クロードは声が出ないほどの驚いた。
実際、出したはずの悲鳴はただ吐息のような音にしかならなかった。
クロードがこの世で一番苦手な生物……それは蜘蛛だった。
逃げも隠れもできないこの密室の中でたくさんの蜘蛛に囲まれクロードは普通の精神状態でいることはできなかった。
蜘蛛も自分の命の危機に慌てふためいているのかカサコソとクロードの周りを這い回る。クロードは尿を勢いよくバケツに放ちながらせめて耳の穴を塞いだ。
耳の穴から侵入されるのはごめんだったし、何よりも蜘蛛の徘徊音を聞きたくなくて……目を瞑り、数字を数え続ける。
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その無限の時間を越えて救出されてからもクロードは声の出し方を忘れたままだった。
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