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「イト」
イトが部屋でみかんの入った袋を抱えてうっとりしているとシュンスケが部屋まで呼びに来た。
「あ、どうしました?お茶を出しますか?」
「い、いや……そう言うわけでは……そろそろ出て来ないか?」
イトは慌てて立ち上がると自分がまだ外着だったことに気が付く。(汚れちゃう……)
「あ……あのー……着替えてからでもいいですか?」
「あ、ああ……居間で……」
「はい」
イトは慌てて帯を外すと着物を脱いだ。
後ろを振り返るとまだシュンスケがいたのでイトは驚いた。
「あ!す、すみません……まだいらっしゃったとは……」
肌襦袢からチラリと覗くイトの肌は真っ白だ。
シュンスケはそれに釘付けになった。
「……旦那様?」
イトが慌てて部屋着を羽織るとシュンスケはハッとしたような顔をして「いや、す、すまん……」と部屋を出て行った。
(……ちゃんと確認しなかったから……)
イトはシュンスケが出て行ったのを確認しなかったのを非常に後悔した。早く居間に行かなければという焦りと「着替えてから」といったので紳士的なシュンスケならすぐに外へ出てくれているはずだと思いこんでいたのだ。
廊下の灯りを背にしたシュンスケは影の掛かった顔の中、目だけをギラギラさせていて……それはまるであの日の男たちのようだった。
「イト…イト…」
「どうしたの?」
「しっ!…静かにして…」
私は夜中に現れた友人に揺り起こされて目を覚ます。
視界が霞んでいたので目をこすると月明かりに照らされた友人の顔が半分だけ見えた。
友人は少し焦っているようにも見えて私は不安を取り払うように小さく笑った。
「ふふ…どうしたの?」
「あ…イト…かくれんぼしようよ」
「えー?こんな時間から?」友人の唐突な申し出に私は少し面倒くさいなぁ、と思う。でも…こんなこと珍しい。
遊びたくなっちゃったのかな?
「うん、いいよ」
私がそう答えるとホッとしたように友人は息を吐いた。
立ち上がり鬼決めじゃんけんをしようと手を出すと、友人は首を振り「イトは私が決めた所に隠れて…お願い」と私の出した手を握った。
「えー?ふふ…それじゃ意味ないじゃん」私はなんだか友人がズルく感じて笑う。すぐ見つかるでしょ。それは
「違うのイト…鬼はオレじゃないの。お願い」
友人の少し鬼気迫る表情に私はそれを受け入れることにした。
友人は私の手を引いて空の食器棚まで連れてくると一番下段に私を押し込んだ。
「お願いイト…絶対声を出さないで…オレがこの戸を開けるまで…約束ね」私は差し出された小指に自分の小指を絡めて軽く振る。
「わかった。約束」
バタン…と戸が閉められた。
私は少し歪んでいるせいで隙間があいたその戸の合わせ目から土蔵の様子を眺めた。
月明かりに照らされたそこは青色に染まっていて幻想的だ。
暇だなー…どのくらい隠れていればいいんだろ。
私は暇つぶしに指をぐるぐると回す。
どこかから線香の匂いが漂ってきて、私は今日祭りであることを知る。
抱えた膝に膨らみ始めた胸が当たって痛い…
膨らんだって…意味ないのに。
月経だって面倒くさいだけだ。私は結婚なんてしないのだから。
子を宿すことも
ない。
しばらくそこに隠れているとぎぃぃぃと土蔵の入口が開いた。
私は友人との約束を守るために口を手でおさえる。
その向こうからはゾロゾロとかなり年上の男の人が入ってきて、私は狭い食器棚の中更に小さくなった。
怖い…
奉公先ではご高齢の方が多いので私はほぼ初めて見る年代の男性に心臓が縮んだ。
彼らはガハハハと下品な笑い声を響かせると私が寝ていた布団を乱暴にめくっている。「おい!いないぞ?」「なんだ?ここにいるはずなんだが…」「ちゃんと米は続いてたかー?酒を飲み過ぎたんじゃないか?」「馬鹿野郎!お前も見てただろうが!」ドッと笑い声が上がる。
……怖い…
「かくれんぼかぁ…?イトちゃーん…」不意に名前を呼ばれて肩が跳ねる。……私を探してる…?
「今出てきたら痛くしないよー」「ぷっ…嘘つけ…」「おい、やめろよ出てこなくなるだろう…ふ…はははは!おい!!」その時入口の側に置いてあった樽のような大型容器が激しい爆発音の後に私の隠れる食器棚の前に転がってきた。
恐らくあの中の誰かが蹴ったんだろう。
その音の激しさにそこはかとない苛立ちと怒りを感じる…
私の心臓はドクンドクンと激しく鳴った。
息が上手く吸えていない気がする…
見つかったらどうなるんだろう…
男の人たちは乱暴にそこらへんを捜索していて、いつここを開けられるのか、私は瞬きも忘れて隙間からその様子を見た。
神様…神様…
あれ?
神様…?
うちの神様は二番目の私を護ってはくれないんじゃあ…
私は背中がゾクゾクするのを感じる。
暑くないのに汗が額に滲む…
なぜ友人はここに隠れることを指定したんだろう…
私は誰を信じればいいの?
私は自分が一番信用ならないのよ…
ドクンドクン心臓がうるさくてこれが原因で見つかりやしないかと私はドンドン気持ちが焦り、ドンドン心臓の音が大きくなっていく…
男の人たちはいつまでも見つからない私に苛立ちを隠せないようで「おい!出てこい!このガキが!!」と言葉汚く私を罵っている。
「絶対声を出さないで…」
友人の顔を思い浮かべ私は目を閉じた。
約束…約束…!!
その時音が唐突に消えた。
次に目を開けると辺りは鎮まりかえっていてひょっこりと友人が顔を出した。「もう大丈夫だよ」と
「あー!怖かった!」と私が泣き言を言うと友人はニッコリ笑って「もう安心して」と言った。
しばらくして胸の動悸が治まった頃「なんで助けてくれたの?」と私が聞くと「イトが助けてくれたからだよ」と友人は言った。
イトが部屋でみかんの入った袋を抱えてうっとりしているとシュンスケが部屋まで呼びに来た。
「あ、どうしました?お茶を出しますか?」
「い、いや……そう言うわけでは……そろそろ出て来ないか?」
イトは慌てて立ち上がると自分がまだ外着だったことに気が付く。(汚れちゃう……)
「あ……あのー……着替えてからでもいいですか?」
「あ、ああ……居間で……」
「はい」
イトは慌てて帯を外すと着物を脱いだ。
後ろを振り返るとまだシュンスケがいたのでイトは驚いた。
「あ!す、すみません……まだいらっしゃったとは……」
肌襦袢からチラリと覗くイトの肌は真っ白だ。
シュンスケはそれに釘付けになった。
「……旦那様?」
イトが慌てて部屋着を羽織るとシュンスケはハッとしたような顔をして「いや、す、すまん……」と部屋を出て行った。
(……ちゃんと確認しなかったから……)
イトはシュンスケが出て行ったのを確認しなかったのを非常に後悔した。早く居間に行かなければという焦りと「着替えてから」といったので紳士的なシュンスケならすぐに外へ出てくれているはずだと思いこんでいたのだ。
廊下の灯りを背にしたシュンスケは影の掛かった顔の中、目だけをギラギラさせていて……それはまるであの日の男たちのようだった。
「イト…イト…」
「どうしたの?」
「しっ!…静かにして…」
私は夜中に現れた友人に揺り起こされて目を覚ます。
視界が霞んでいたので目をこすると月明かりに照らされた友人の顔が半分だけ見えた。
友人は少し焦っているようにも見えて私は不安を取り払うように小さく笑った。
「ふふ…どうしたの?」
「あ…イト…かくれんぼしようよ」
「えー?こんな時間から?」友人の唐突な申し出に私は少し面倒くさいなぁ、と思う。でも…こんなこと珍しい。
遊びたくなっちゃったのかな?
「うん、いいよ」
私がそう答えるとホッとしたように友人は息を吐いた。
立ち上がり鬼決めじゃんけんをしようと手を出すと、友人は首を振り「イトは私が決めた所に隠れて…お願い」と私の出した手を握った。
「えー?ふふ…それじゃ意味ないじゃん」私はなんだか友人がズルく感じて笑う。すぐ見つかるでしょ。それは
「違うのイト…鬼はオレじゃないの。お願い」
友人の少し鬼気迫る表情に私はそれを受け入れることにした。
友人は私の手を引いて空の食器棚まで連れてくると一番下段に私を押し込んだ。
「お願いイト…絶対声を出さないで…オレがこの戸を開けるまで…約束ね」私は差し出された小指に自分の小指を絡めて軽く振る。
「わかった。約束」
バタン…と戸が閉められた。
私は少し歪んでいるせいで隙間があいたその戸の合わせ目から土蔵の様子を眺めた。
月明かりに照らされたそこは青色に染まっていて幻想的だ。
暇だなー…どのくらい隠れていればいいんだろ。
私は暇つぶしに指をぐるぐると回す。
どこかから線香の匂いが漂ってきて、私は今日祭りであることを知る。
抱えた膝に膨らみ始めた胸が当たって痛い…
膨らんだって…意味ないのに。
月経だって面倒くさいだけだ。私は結婚なんてしないのだから。
子を宿すことも
ない。
しばらくそこに隠れているとぎぃぃぃと土蔵の入口が開いた。
私は友人との約束を守るために口を手でおさえる。
その向こうからはゾロゾロとかなり年上の男の人が入ってきて、私は狭い食器棚の中更に小さくなった。
怖い…
奉公先ではご高齢の方が多いので私はほぼ初めて見る年代の男性に心臓が縮んだ。
彼らはガハハハと下品な笑い声を響かせると私が寝ていた布団を乱暴にめくっている。「おい!いないぞ?」「なんだ?ここにいるはずなんだが…」「ちゃんと米は続いてたかー?酒を飲み過ぎたんじゃないか?」「馬鹿野郎!お前も見てただろうが!」ドッと笑い声が上がる。
……怖い…
「かくれんぼかぁ…?イトちゃーん…」不意に名前を呼ばれて肩が跳ねる。……私を探してる…?
「今出てきたら痛くしないよー」「ぷっ…嘘つけ…」「おい、やめろよ出てこなくなるだろう…ふ…はははは!おい!!」その時入口の側に置いてあった樽のような大型容器が激しい爆発音の後に私の隠れる食器棚の前に転がってきた。
恐らくあの中の誰かが蹴ったんだろう。
その音の激しさにそこはかとない苛立ちと怒りを感じる…
私の心臓はドクンドクンと激しく鳴った。
息が上手く吸えていない気がする…
見つかったらどうなるんだろう…
男の人たちは乱暴にそこらへんを捜索していて、いつここを開けられるのか、私は瞬きも忘れて隙間からその様子を見た。
神様…神様…
あれ?
神様…?
うちの神様は二番目の私を護ってはくれないんじゃあ…
私は背中がゾクゾクするのを感じる。
暑くないのに汗が額に滲む…
なぜ友人はここに隠れることを指定したんだろう…
私は誰を信じればいいの?
私は自分が一番信用ならないのよ…
ドクンドクン心臓がうるさくてこれが原因で見つかりやしないかと私はドンドン気持ちが焦り、ドンドン心臓の音が大きくなっていく…
男の人たちはいつまでも見つからない私に苛立ちを隠せないようで「おい!出てこい!このガキが!!」と言葉汚く私を罵っている。
「絶対声を出さないで…」
友人の顔を思い浮かべ私は目を閉じた。
約束…約束…!!
その時音が唐突に消えた。
次に目を開けると辺りは鎮まりかえっていてひょっこりと友人が顔を出した。「もう大丈夫だよ」と
「あー!怖かった!」と私が泣き言を言うと友人はニッコリ笑って「もう安心して」と言った。
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