混沌なる異世界(カオス・ワールド)~様々な異世界国家が集まる異世界の坩堝~

波 七海

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第37話 ザルツ海海戦 ①

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 ――ユースティア・シルム空防基地

 政府からの命令は直ちに前線基地に伝えられた。

「これは厳しいことになってしまったな……」

 ホムスター空将はじっとりと背中に汗が流れるのを感じていた。
 国土を直接攻撃されるかも知れない中で、先制攻撃は禁じられた。
 その上、敵艦隊は空母を保有しており多数の航空機が来襲する可能性が濃厚であり爆撃されることも有り得る。

「魔導戦艦2隻、魔導巡洋艦2隻に通信。領海ぎりぎりまで前進し待機。射程に入ったら警告射撃を行え! Y-15戦闘機6機は対艦ミサイル各4発を装備。残りは対空ミサイルを積んでいつでも発進できるよう待機せよ!」

 魔導戦艦の魔導砲の射程は約35kmである。
 これはどうしても拡散・減衰してしまうため仕方ないと言える。
 ノーツ本島に配備されている最新鋭の魔導戦艦なら閉塞封鎖型魔導砲により射程は80km近くまで延伸する。これは魔導砲の周囲に磁場を利用した力場を発生させることにより砲の拡散・減衰を防ぐことができるためだ。

 敵艦隊に空母がある以上、間もなく制空型と爆撃型の戦闘機が差し向けられることは疑いようがない。
 こちらの魔導戦艦を押し出しておけば、艦隊決戦になる前に制空戦になる可能性が高い。本土攻撃よりも魔導艦の撃破を優先させるだろうと言う読みがホムスター空将にはあった。これで先制攻撃を受けたと言う状況を作り出すことができるはずである。

「本当なら一気呵成に飽和攻撃で決着をつけたいんだがな……」

 先程の偵察機の件から考えると敵戦闘機の武装では魔導艦に有効打撃を与えることはできないと思われるが、爆撃されるとなると油断はできない。
 それに攻撃が効かないとなると攻撃目標を変えてユースティア・ザルツ本島に向かう可能性も考えられる。

「報告します。第8護衛艦隊群が間もなくザルツ海海域に到着する模様です」

 その報告にホムスター空将は少しばかり安堵する。
 対空誘導弾や対艦誘導弾、魚雷などを搭載する護衛艦隊群が来援すれば優位に戦える。その威力を知る彼は頼もしい味方が来てくれることに緊張が和らぐのを感じていた。

「敵艦隊との距離50kmを切ります!」

「レーダーに感あり。敵戦闘機来ます。数200」

 本当はロングレンジから対空ミサイルを撃ちたいところだが先制攻撃ができない以上諦めざるを得ない。味方の魔導艦を巻き込む可能性があるため最悪、有視界戦闘になってしまう恐れすらある。パイロットたちの緊張も相当なものになるだろうことは想像に難くない。

「敵は魔導艦を狙ってくるぞ。攻撃を受けたら全砲門で撃ち落としてやれ!」

 基地内にホムスター空将の叱咤激励が飛んだ。



 ―――



 ――ガラベルム帝國・北伐艦隊

 空にドでかい空中艦が浮いている。
 その数4隻。

 そこへ空母から発艦した戦闘機『64式ガルマキラ』と『61式ガルベース』爆撃機が綺麗な編隊を見せて距離を詰めていく。

「何もしてこんな。何のつもりだ?」

 あちらにも戦闘機が見えているはずだ。
 まさかレーダーすらないのだろうか。そろそろ目視でも確認できると思うのだが。
 魔法文明国家は魔力レーダーと言うものを使うらしいが、それは魔力のないものは非常に探知しにくいらしい。

 その時、キラッと淡い緑色の光が煌めいたかと思うと戦艦〈ゼルビー〉から数km離れた場所に大きな水柱が上がる。

「何ッ!? 砲撃か!?」
「恐らく砲撃と思われます。あれが魔法文明の砲撃なのでしょう」

 グレイモスの疑問に副長が答える。

「意外と威力は高そうだな。だが射程は短いようだ……」
「とは言え空飛ぶ戦艦に砲が当たりますかな?」
「向こうの動きはどうだ?」

 空中の艦隊は動いていないように見える。
 魔法の印象からか高速だと言う可能性を考えていたのだが思ったより低速なのかも知れない

「敵、空中艦隊に動きはありません」

 レーダーに動きはないようだ。
 間もなく戦闘機が接敵する頃である。

「まぁ『64式ガルマキラ』と『61式ガルベース』が沈めるだろう」

 すぐに結果が分かる。
 艦船が浮くなどと言う馬鹿げた話を最初に聞いた時は信じられなかったものだが、実際見てみるとどんな原理で飛んでいるのか不思議に思う。

「空中艦隊に接敵します」

「さて、お手並み拝見といこうか。魔法文明よ」

 グレイモスは勝利を疑うこともなく不敵な笑みを浮かべるのだった。



 ―――



 ――ガラベルム帝國・北伐航空編隊

『我々は旧世界において無敵だった。我々に負けはない。だが敵は魔法を使うらしい。油断は禁物だ。全機、攻撃を開始せよ。繰り返す攻撃を開始せよ』

 北伐航空中隊長モスラーは無線で全機に攻撃命令を下した。
 本来なら敵の戦闘機が出てきてもおかしくないのだが一向にその気配がない。
 偵察機が敵機を確認したと言う話は聞いているので訝しげに思う。

「これなら爆装機を増やした方が良かったか……?」

 先頭を行く『64式ガルマキラ』の12.7mm機関銃が火を吹く。
 しかし無情にもカンカンと甲高い音と共に敵艦の装甲により跳ね返される。
 モスラーも攻撃するが効果はないようだ。

「流石に紙装甲ではないようだな。魔法で強化でもしているのか? となると爆撃機に期待するか。しかし敵艦からの反撃がないのは何故だ?」

 疑問に思いながらもモスラーは再度指示を出した。

『敵に動きはない! 急降下爆撃で確実に当てろ!』

 指示に従って『61式ガルベース』爆撃機が高空からの急降下爆撃の体制に入る。
 モスラーは一度離脱して様子を見ることにした。
 他の『64式ガルマキラ』も散開している。

 敵艦の真上から300kg爆弾を投下するべく急降下を始める。
 そこへゆっくりと側面砲と高射砲が上に向きを変えていく。
 淡い緑色の光が灯ったかと思うが速いか一斉に掃射された。
 凄まじい弾幕が次々と雨霰と放射され爆撃機が連鎖的に爆発していく。

「何ッ!? 装填が速い! 一体どんな原理だ?」

 モスラーはその速射性と命中度の高さに驚愕する。
 しかし全機は撃ち落とせなかったようで複数の300kg爆弾が敵艦に直撃する。
 煙が晴れると機体を旋回させて爆撃の効果を確認する。
 期待が失望に変わる。全くと言っていいほど船体に傷がついていなかったのだ。
 と同時に疑問が湧き起る。
 何故突然攻撃してきたのか。

『装甲は抜けない! 艦橋の構造物を破壊しろッ! 主砲、副砲、側面砲もだッ!』

 焦りがじんわりと広がる中、敵艦隊の主砲が淡い緑色に煌めく。
 主砲などが戦闘機に当たるはずがない。
 空中艦隊の側面を飛んでいたモスラーも側面砲に照準を合わせると機関銃のトリガーを引いた。

 瞬間――

 主砲から放たれた光が周囲一帯を薙ぎ払う。
 直線的にではなく横一線に。

 敵艦隊の前を飛んでいた『64式ガルマキラ』がその光の奔流に飲み込まれたかと思うと連鎖的に爆発し空に綺麗な華を咲かせた。
 モスラーは思わず目を剥いて叫んでいた。

「何が起きたぁぁぁ!!」

 拡散魔導砲。
 横一線に放射される魔導砲でその砲は直撃せずとも近づいたもの全てにダメージを与える。

 彼はその攻撃が何であるか分からない。
 栄えある帝國戦闘機の攻撃は効果がなく敵による攻撃は圧倒的だ。
 確かに強力な砲なのかも知れないがそれが我が国の大艦隊に通じるとは思えない。
 特に戦艦の装甲は抜けない。抜けるはずがない。

『こちらモスラー。敵空中艦隊に有効打は認められず。繰り返す。有効打は認められず』

 信じられないことが立て続けに起こり彼は返って冷静になっていた。
 既に50機以上は落とされているようだ。
 現状を報告するとすぐに無線が入る。

『空中艦隊は無視せよ。北から海上艦隊が接近中。そちらを攻撃されたし』

 了解の返事を送り進路を大陸の方向へ向ける。
 帝國航空隊のプライドはズタズタだ。
 必ず報復してやると意気込んだモスラーは空中艦隊を無視して少し高度を落とすと編隊を組み直す。

 すると大気を震わすほどの振動と共に轟音を響かせた何かが凄まじい速度で味方艦隊の方角へ消えていった。

 今、確かに何かが見えた。
 あれは何だ?
 混乱しつつ命令を遂行しようとモスラーは前を向いて操縦桿を強く握る。
 背後の大艦隊にひたひたと破壊の使者が近づいているとも知らずに。



 ―――



 ――ユースティア・シルム空防基地

「魔導戦艦〈テリウス〉から入電。我、攻撃を受けり。自衛権により反撃を開始す」
「よし殲滅しろ。被害確認」

 取り敢えず想定通り初撃は魔導戦艦に対するものであったことに安堵する。

「敵の攻撃は機銃によるものと思われる。損害を認めず」
「爆撃が来るぞ。注意しろ。戦闘機は出撃せよ。敵艦を沈めてやれ。それと本土に敵戦闘機が来るぞ! 対空誘導弾を積んだ戦闘機は上空を護れ! 地対空ミサイルの用意も忘れるな!」

 基地内部の地下戦闘指揮所にある大型モニターを見ながらホムスター空将はテキパキと指示を出していた。敵戦闘機の攻撃力が読めなかったので心配だったが、味方魔導艦隊に通じなかったことで高まっていた緊張が解けて皆一様に安堵した表情をしている。

「敵による急降下爆撃による損害は軽微。魔導戦艦〈テリウス〉が拡散魔導砲を使用するとのこと」

「敵戦闘機、密集しています」

 魔導電波レーダーをを注視していたオペレーターからも報告が上がる。
 魔導戦艦〈テリウス〉の艦長も好機と見たのだろう。
 この攻撃が決まれば密集した戦闘機なら連鎖的に爆発するのは間違いないように思えた。

「拡散魔導砲準備。チャージ開始……完了。発射カウントダウン……5、4、3、2、1、ファイア!」

「効果はどうだ?」

「魔導戦艦〈テリウス〉の前方にいた敵戦闘機の消滅を確認。約50機を撃墜」

 今回の敵は科学立国のようである。
 ホムスター空将はユースティアの魔導技術が敵の科学技術に通用するか心配していたが杞憂に終わりそうでホッとする。後は魔導砲が敵艦隊の装甲を抜けるかが見所だ。

「敵戦闘機、北へ針路をとりました。護衛艦隊群へ向かう模様」
「海防隊も察知しているだろう。護衛艦隊からの攻撃に巻き込まれないように高度を上げつつ敵艦隊の右側に回り込め。魔導砲により攻撃せよ」

 この戦いのデータは貴重になるなものになるだろう。
 もし列強国と呼ばれている国家と戦争になった場合大いに役立つはずである。

「取り敢えず、敵戦闘機が本土ではなく護衛艦隊の方へ向かってくれて助かったな……」

 少しは緊張が解けたとは言え、まだまだ状況は予断を許さない。
 敵艦隊の性能如何ではどう転ぶか分からないのだ。
 ホムスターはギュッと口を硬く結ぶと気合を入れ直すのであった。
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