41 / 44
第2章 花精霊族解放編
第41話 潜入
しおりを挟む
アスターゼはヤツマガ村の社に忍び込んでいた。
職業は忍者に転職している。
この世界にも忍者という職業があることには驚かされたが、転職してみると職業特性なのか隠密行動が可能になるようだ。
日中は、人間側の兵力を探るべく動いていたが、練兵所らしき広場で訓練?を行っていたのは、アスターゼの予想通りわずかな兵士であった。
その数およそ一○○。アスターゼは自分の予想と齟齬がないことが分かると確信した。転職させた花精霊族だけでなく、アスターゼ自身も戦いに加われば必ず勝てると。
戦い方も洗練されておらず、個々の技量に頼ったものだ。
兵士の中には、アスターゼに喧嘩を売ってきたサナトスの姿もあった。
訓練の様子を観察していたが、彼以上の実力を持つ者はいないように見受けられた。サナトスの相手はアスターゼがしなければいけないだろうが、その他の兵士ならば花精霊族でも十分戦えるはずである。
アスターゼが心配しているのは、武器の調達と、花精霊族の士気である。
武器はこれから武器庫や、村の鋳造場へ行って分捕ってこれば良い。
アスターゼは既に場所の目星はつけていた。
今夜中に武器を運び出すために、社の近くの雑木林に現在、花精霊族の男たちに身を隠してもらっている状況だ。
そして士気であるが、こればかりは戦いを始めてみないと分からない。
花精霊族は非好戦的な種族である。今まで戦いなど挑んだことがない上に、アスターゼが聞いた限りでは人を傷つける者など存在しないそうだ。
種族内ですら争いごとは皆無と言っても良いくらいだとトラットスから聞いている。腐っても兵士として他種族を殺すことも厭わない人間と相対した時、本当に傷つけることができるのか、そしてあの狂乱の中で正気を保てるのかは疑問であった。
訓練している時間はない。
アスターゼは恐らく明日にでもトラットスは選択を迫られることになると考えていた。花精霊族の女性は皆、見目麗しい者ばかりだ。花精霊族が再び、従属を呑めばヤツマガ村の支配者層はこぞって美女狩りを始めるだろう。
アスターゼはそんなことを考えつつ、社の構造を頭に入れていく。
花精霊族は必要最低限の物資しか与えられていない。
紙はヤツマガ村の人間にとっても貴重なものらしく、書類の類はほとんど見つけることができなかった。確か、アスターゼが最初に村の中を見て回った時も、文字は木簡のようなものに書かれていたような気がする。
武力蜂起をする訳なので、別に書簡など探し出す意味も特にない。
アスターゼはさっさと武器庫へ侵入するかと気を切り替えて外への移動を開始する。
しかし、ここでアスターゼはこの村に似つかわしくない立派な木箱を見つけた。
今いる場所は社の本殿のようなところである。
その木箱は、まるで神に捧げるが如く祭壇らしき場所に鎮座していた。
アスターゼは中身が気になった。
別に宝物や金目の物を盗りに入った訳ではないが、無性に気になったのである。
こればかりは仕様がない。
アスターゼは祭壇へ物音一つ立てずに近づくと、木箱を縛めていた太い紐を解いた。そして蓋を取ると、中には……書簡。
少し期待外れであったが、せっかくなので読んでみることにする。
法術で小さな光を創り出すと、通訳に転職して早速書簡に目を通した。
が。
「読めん……」
話は通訳の職業に就くことで何とかなったが、書簡は無理なようである。
しかしアスターゼは思い当たった。
口語が通訳なら、文語は翻訳ではないかと。
すぐに職業一覧から翻訳家を探すと、ビンゴであった。
再度、転職士の能力で翻訳家になったアスターゼは中身を読み始める。
「読める! 読めるぞぉ!」
小声でガッツポーズを取りながら読み進めていくと、どうやらメドラナ帝國からヤツマガ村への書簡のようである。
内容は、ヤツマガ村の存在を認め現在の所領を安堵すると言うものだ。
しかしただでと言う訳ではない。
貢物として奴隷や特産物を治める必要があるようだ。
「要は朝貢か……」
つまり、ヤツマガ村は独立国とは言えず、メドラナ帝國によってその存在を認められている朝貢国家に過ぎないのである。
「やっぱり狗やんけ」
アスターゼは吐き捨てるようにそう言うと、書簡を木箱に戻して封印した。
もうここにいる意味はない。
再び忍者に転職すると、武器庫に向かうアスターゼであった。
職業は忍者に転職している。
この世界にも忍者という職業があることには驚かされたが、転職してみると職業特性なのか隠密行動が可能になるようだ。
日中は、人間側の兵力を探るべく動いていたが、練兵所らしき広場で訓練?を行っていたのは、アスターゼの予想通りわずかな兵士であった。
その数およそ一○○。アスターゼは自分の予想と齟齬がないことが分かると確信した。転職させた花精霊族だけでなく、アスターゼ自身も戦いに加われば必ず勝てると。
戦い方も洗練されておらず、個々の技量に頼ったものだ。
兵士の中には、アスターゼに喧嘩を売ってきたサナトスの姿もあった。
訓練の様子を観察していたが、彼以上の実力を持つ者はいないように見受けられた。サナトスの相手はアスターゼがしなければいけないだろうが、その他の兵士ならば花精霊族でも十分戦えるはずである。
アスターゼが心配しているのは、武器の調達と、花精霊族の士気である。
武器はこれから武器庫や、村の鋳造場へ行って分捕ってこれば良い。
アスターゼは既に場所の目星はつけていた。
今夜中に武器を運び出すために、社の近くの雑木林に現在、花精霊族の男たちに身を隠してもらっている状況だ。
そして士気であるが、こればかりは戦いを始めてみないと分からない。
花精霊族は非好戦的な種族である。今まで戦いなど挑んだことがない上に、アスターゼが聞いた限りでは人を傷つける者など存在しないそうだ。
種族内ですら争いごとは皆無と言っても良いくらいだとトラットスから聞いている。腐っても兵士として他種族を殺すことも厭わない人間と相対した時、本当に傷つけることができるのか、そしてあの狂乱の中で正気を保てるのかは疑問であった。
訓練している時間はない。
アスターゼは恐らく明日にでもトラットスは選択を迫られることになると考えていた。花精霊族の女性は皆、見目麗しい者ばかりだ。花精霊族が再び、従属を呑めばヤツマガ村の支配者層はこぞって美女狩りを始めるだろう。
アスターゼはそんなことを考えつつ、社の構造を頭に入れていく。
花精霊族は必要最低限の物資しか与えられていない。
紙はヤツマガ村の人間にとっても貴重なものらしく、書類の類はほとんど見つけることができなかった。確か、アスターゼが最初に村の中を見て回った時も、文字は木簡のようなものに書かれていたような気がする。
武力蜂起をする訳なので、別に書簡など探し出す意味も特にない。
アスターゼはさっさと武器庫へ侵入するかと気を切り替えて外への移動を開始する。
しかし、ここでアスターゼはこの村に似つかわしくない立派な木箱を見つけた。
今いる場所は社の本殿のようなところである。
その木箱は、まるで神に捧げるが如く祭壇らしき場所に鎮座していた。
アスターゼは中身が気になった。
別に宝物や金目の物を盗りに入った訳ではないが、無性に気になったのである。
こればかりは仕様がない。
アスターゼは祭壇へ物音一つ立てずに近づくと、木箱を縛めていた太い紐を解いた。そして蓋を取ると、中には……書簡。
少し期待外れであったが、せっかくなので読んでみることにする。
法術で小さな光を創り出すと、通訳に転職して早速書簡に目を通した。
が。
「読めん……」
話は通訳の職業に就くことで何とかなったが、書簡は無理なようである。
しかしアスターゼは思い当たった。
口語が通訳なら、文語は翻訳ではないかと。
すぐに職業一覧から翻訳家を探すと、ビンゴであった。
再度、転職士の能力で翻訳家になったアスターゼは中身を読み始める。
「読める! 読めるぞぉ!」
小声でガッツポーズを取りながら読み進めていくと、どうやらメドラナ帝國からヤツマガ村への書簡のようである。
内容は、ヤツマガ村の存在を認め現在の所領を安堵すると言うものだ。
しかしただでと言う訳ではない。
貢物として奴隷や特産物を治める必要があるようだ。
「要は朝貢か……」
つまり、ヤツマガ村は独立国とは言えず、メドラナ帝國によってその存在を認められている朝貢国家に過ぎないのである。
「やっぱり狗やんけ」
アスターゼは吐き捨てるようにそう言うと、書簡を木箱に戻して封印した。
もうここにいる意味はない。
再び忍者に転職すると、武器庫に向かうアスターゼであった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
14
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる