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第二章 ナミディアの領主
2-10 テンション
しおりを挟む無事、赤ちゃんが生まれた次の日、ベネッタが朝食の支度を手伝いに来てくれた。リリナはまだ、ふらつきがあり、体力も戻っていないのでベッドに横になっている。
レヴィンの両親は妹の名前を既に決めていたようだ。
女の子ならリリスにしようと話合っていたらしい。
戸籍制度を採用しているアウステリア王国では、役所に出生届けを出さねばならない。この届けを出すと王国から鑑定士が派遣されてくるという事だ。
それで職業が判明すると、めでたく戸籍に登録されるという運びである。
グレンもレヴィンもリリスを抱っこさせてもらっていた。
特にグレンは終始ご機嫌で、ずっと締まりのない顔をしている。
初めて赤ちゃんを抱いた事でレヴィンの中に何か特別な感情と自覚が生まれていた。人間として一歩成長したのかも知れない。
あと、昨日はバタバタして見れなかったのだが、クライヴ・フォン・マッカーシー侯爵からお茶会への招待状が届いていたようだ。
上質な封筒に封蝋がされており、綺麗な字で宛名が書かれている。
ベーバーナイフなどという上等なものはなかったので、ダガーで開封した。
中からはこれまた、上質な紙に、きたる七月三十日にお茶会を開く旨が書かれていた。
グレンは息子が何をやらかしたのかと心配になり、レヴィンに根掘り葉掘り聞いてきたので、誘拐事件の時、一緒にさらわれた貴族の父ちゃんだとだけ伝えておいた。
実際、レヴィンも何故、自分が誘われるのか理解できなかったから、そんな説明になるのは仕方のない事であった。
学校に行く時間になり、レヴィンが家の外に出ると、アリシアが手をブンブカ振りながら駆け寄ってきた。
「レヴィン、おはよ~、あーんど、おめでと~!」
「ああ、ありがとう、アリシア」
二人は会話しながら歩き始めた。
「女の子だったんだって? なんて名前にしたの?」
「リリスだよ。可愛い女の子だ。こんなに小っちゃいんだぞ!」
レヴィンが身振り手振りで伝えようと必死だ。
その仕草が可笑しくて、アリシアは思わず笑ってしまう。
「小っちゃいのは知ってるよ~。これでレヴィンもお兄ちゃんだねッ!」
「ああ、大きな責任を感じるな。見本になるように頑張らねば」
「なんだか、レヴィンが変わった感じがするよッ!?」
「そうか? でももう適当に生きてちゃ駄目なんだよな……」
レヴィンが感慨深げに言う。
「レヴィンは元々適当じゃなかったと思うけど……。男子三日会わざればなんとか~ってヤツだね!」
「難しい言葉を知ってるな。まぁ三日も経ってないけど」
「ものの例えだよ~」
「わーってるよ!」
朝からキャッキャウフフしている二人なのであった。
そうこうしているうちに学校へと到着した。
二人は一旦別れを告げると、それぞれの教室へと入る。
レヴィンは席に座るや否や、後ろの席のロイドに話しかけた。
「おはよ!」
「おはよう。なんだか、レヴィン、今日はちょっと違うね?」
「えー解るー?」
若干イラっとくるロイド。
「実は昨日、妹が生まれたんだよ!」
「ああ、それでテンション高めなんだね。おめでとう」
「え? テンション高い? まいったなぁ。ありがとう、ロイド」
ここに来て、キャラ崩壊か?とロイドは心配する。
そして、名前など、当たり障りのない話題を出してレヴィンのテンションが下がるのを待つ。
「職業に恵まれればいいね。僕なんて地味な精霊術士だからね」
「いや、地味じゃないだろ。そう言うのはレアって言うんだぞ」
「あ、ありがとう。物は言いようだね……」
いきなり普通に戻られても怖いわ!とロイドは心の中で突っ込む。
それから他愛のない会話を楽しんでいると、ベネディクトが教室に入ってきた。
すると、それを見たレヴィンが立ち上がって彼の方へと近づいていく。
心配になったロイドも後を追う。
「ベネディクト、おはよう」
「ん? おはよう。どうしたんだい? 珍しいね……」
「実はねっ」
「待てい!」
そこでロイドが後ろからレヴィンの肩を掴んで言った。
「レヴィンちょっと落ち着こうか」
「ん? 俺は冷静だぞ? って言うかロイドの方こそなんだよ。待てい!って……キャラ崩壊してるよ(笑)」
「キャラ崩壊してるのは君の方だよッ!」
ロイドは思わず語気を荒げる。
それを聞いて教室の視線がロイドに集まった。
さすがにその視線を浴びて声を潜める。
後は、訳も解らぬベネディクト。
「一体何が起こっているんだ?」
「実はレヴィンに妹さんができたみたいなんだ」
「ああ、それで」
「何故、ロイドが先に言うんだ?」
ロイドは「君のテンションがおかしいからだよ!」と心の中で突っ込みつつ、レヴィンに白魔法の異常回復をかけてやりたい心境に陥る。無理だけど。
「察してくれ……」
「ん? まぁいっか。でさ、ベネディクトが言ってた招待状だけど昨日届いたよ」
「おお、届いたかい? 予定は大丈夫だった?」
「ああ、七月三十日は空けておくよ」
それだけ伝えると、レヴィンはさっさと自分の席に戻って行った。
なんだか納得いかない感じのロイドも同じく席へと戻る。
ロイドの気苦労は今日一日続いたのであった。
今日の授業もサクサク終わり、残すは古代史だけとなった。
いつもは特段変わった事もなく、淡々と講義が進んでいくだけなのだが、今日は違った。まず、教師が教室に入ってくるテンションからして違っていた。
「昨日、歴史的な大発見があった……。お主ら、聞いた者はおるか?」
教室が静まりかえる。
大発見があった事も知らないし、教師のテンションが何故高かったのかも知らない。いや、テンションが高いのは、その大発見のせいだろうと言うのは推測できたのだが。
「昨日、精霊の森の南で古代遺跡が発見された。儂も先程聞いたばかりのホットなニュースじゃ。まだ詳しくは解らんが、地層の表面では色々な生活雑貨が出土しているという。おそらく表層は比較的新しい層なのでどうという事はない。しかし、問題は土地が少し隆起して現れた下層の方なのじゃ……。そちらには神代の言語が描かれた碑のようなものや、地下への入り口のようなものまで発見されたという。ここの発掘と調査が進めば、神代の言語の解析や古代史の解明に大きな進展をもたらすじゃろう。まぁ地下への入り口と言っても、地下に埋まっておる訳じゃからな。本来ならば建物の高い階層部分が今回見つかったと言える。これから冒険者や考古学者は忙しくなるぞッ! 儂も直接乗り込んで、そこに泊まり込み、調査に加わりたいほどじゃ。いやもういっそ教師なんて止めてしまうか? いやしかし……もしかしたら魔物も住み着いておるやも知れぬ。あと、すぐに目当てのものが見つかるかも解らん。土に埋もれておるならば慎重に掘り進んでいかねばなるまい。うおおおおおおおお。そこで見つかるであろう地下回廊、機械式の罠の数々ッ! うおおおおおおおおお。み な ぎ っ て き た ぁ!」
早口過ぎて誰も何を言っているのか解らない。
なにやら一人で盛り上がっている教師をポカンとした目で見ながら生徒達は思った。
もう今日は授業にならねえ……。
そんな中、レヴィンは結構、テンションが上がっていた。
古代遺跡なら、もしかしたら魔導書などもあるかも知れない。
伝説の武器なんかも隠されていたりして……。
いかん涎が止まらん。
今のうちに魔導書などをゴッソリ頂いてしまって、後は言語の解読を待つのみに……。
最強への道が見えるッ!
うおおおおお。
二人の状態異常は授業終了の鐘が鳴るまで続いた。
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