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第三章 死霊都市レムレース
3-23 城塞都市
しおりを挟むレヴィンとダライアスはレムレースの街に到着していた。
このレムレースと言う街は、インペリア王国のアルセーヌ・ド・ジャルベール伯爵領である。北にヴァール帝國と領土を隣接する重要な土地であり、近年大規模な改修工事がなされ、今ではかなりの規模の要塞都市として知られていた。
レヴィン達が今いるのは、レムレースの冒険者ギルドの会議室である。
ギルドマスターのデボラを筆頭に冒険者パーティが八組と事件関係者が集まっていた。議題はもちろん、今、レムレースを恐怖のどん底に陥れているアンデッドの大量発生の件である。
六月頃から事件が起こり始め、今や毎日のようにアンデッドが街を闊歩している状況であった。七月から冒険者が集められ事件の解決のために奮闘しているのだが、一向に解決に向かう気配はなく事態はより深刻化していた。今では、この八組以外の冒険者は街の外へ逃げ出してしまっている。
「また、状況説明の会議かッ!」
不機嫌な声を上げたのはインペリア王国の冒険者、エミールであった。
事件解決のため、と同盟国のアウステリア王国から派遣されてきた冒険者パーティは五組目である。
派遣されてくる度に一から説明する会議が行われているのだから最初から事件に当たっている、インペリア王国の冒険者達は堪ったものではない。
もちろん、進展がないのは自分達のせいでもあるのだが、それは横に置いておく都合の良さであった。
「じゃあ、説明するよ」
ギルドマスターのデボラがそう切り出した。
デボラは黒髪をボブカットにして白銀の鎧をまとった、中年の女性だ。
結構な重装備をしている。騎士なのだろう。
「事件が起こり始めたのは、だいたい六月頃。最初は数体のアンデッドが発見され討伐された程度だったんだが、それが毎日のように続き、とうとう討伐が追いつかない程にアンデッドの数が膨れ上がっちまった。おかげで街は昼間っからひっそりとして、往来にはアンデッドが我が物顔で歩き回ってる。生きた人間は、誰も屋外に出ないで震えてるって寸法さ」
そうなのだ。何を隠そうレヴィンとダライアスもアンデッドと戦闘しつつ、指示された建物――冒険者ギルドだが――に入ってきたのである。
どの冒険者も腕組みをして下を向いて座っている。
レヴィンは、この雰囲気の悪い会議室の中でじっとデボラの話を聞いていた。
状況説明の後は、各冒険者の自己紹介が行われた。
ここにいるのは、アウステリア王国から派遣された冒険者五組と、インペリア王国の冒険者三組である。
レヴィンが知っている冒険者やパーティはいなかった。
「それで、事件発生から現在までどういう対策が行われているんでしょうか?」
「対策も何も、アンデッドが勝手にわいてくるんだ。片っ端から討伐する以外に方法があるのか?」
そう言ったのはインペリア王国の冒険者、マチューである。
「いや、ですから何でアンデッドがわいてくるのか?と言った調査はされていないんですか?」
マチューが上から目線で言ってくるものだから、ついつい強めの声になってしまうレヴィンであった。
「一応、アンデッドの出現ポイントは可視化して、その周辺に何か変わった事はなかったか聞き込みなんかはしたよ」
デボラが顔をしかめながらそう言った。機嫌が悪そうだ。
彼女は、この若い冒険者に馬鹿にされたと思ったのかも知れない。
レヴィンは声を荒げた事を反省して、一旦落ち着こうと大きく深呼吸をした。
見ると、テーブルに広げてある街の地図らしきものにはいくつも赤いピンが刺されている。これが出現ポイントなのだろう。
「聞き込みですか……何か重要な証言はあったんですか?」
「いや、ないね」
デボラが断言した事に絶望を覚えつつ、色々考え始めたその時、エミールが口を挟んでくる。
「しかし、アンデッドが自然にわいてくる以外に何か原因があるのか?」
は? 耳を疑うレヴィン。
「そこは皆さんの方が冒険者歴が長いでしょうから、何か心当たりとかないんですか? アンデッドを呼び出すアイテムがあるとか」
「アイテム? 何だそれは。そんな話聞いた事もないぞ!?」
「過去の文献なんかの調査もしていないんですか? 似たような事件があったりするかも知れませんよ?」
「そんな事あるはずがないッ! あれば歴史に名を残しているはずだ」
「一般的な歴史だけでなく、古代までさかのぼって調べるべきだと思います」
無能かこいつらと一瞬思いかけたが、思い直す。
常識や固定観念を覆すのは難しい。
レヴィンも転生者の立場でなかったら、そんな発想には至らなかったかも知れないのだ。
「王国中の文献を洗い直すなど、どれだけ時間がかかると思っているのだッ!?」
「死霊術についての専門家に聞いてみるのはどうですか?」
「死霊術? 何だそれは?」
(そこからかぁ……)
レヴィンは頭を抱えた。この世界には死霊術の概念自体がないのだ。
しかし死霊術士と言う職業があるのは確かである。
犯人は死霊術士ではないかとレヴィン自身は思っている。
「アンデッドの専門家のようなものです」
「それなら儂がそうじゃな」
老人の男性――コランタンという――が名乗り出る。
「アンデッドが発生する原因は何か解明されているんでしょうか?」
「解っている事と言えば、不浄な土地に死体があると自然発生するという事か。他にはアンデッドが多くなると暗黒子の密度が濃くなり、無からアンデッドが生まれるという事くらいかの」
「という事は、神聖魔法で土地を浄化する作業は終わっているという事ですか?」
「発生初期に神官総出で浄化は終わっている」
デボラが代わりに回答する。
解決を図るためには、片っ端から町人の職業を鑑定するという方法がある。
これで死霊術士がいれば解るはずだ。まぁ隠れている可能性もあるのだが。
しかし問題がある。
死霊術という概念がない人々に死霊術士という職業を教える事はレヴィンにとって危険な事なのだ。
レヴィンという存在が何者であるかを追求される事は避けたい。
最悪、異端者扱いされて殺されるかも知れないのだ。
後は、鑑定士の手配が面倒臭そうというくらいだろうか?
どう説明しようか悩むレヴィンであった。
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