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神は俺を気に入っているらしい、なんで?

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その日は本当に暑かった。地球温暖化の促進で夏場は地獄と化していた。正直学校とか行きたくない、リモートにしてほしい。でも俺は単位ピンチのサボり魔なのでもう休めないのだ。過去の俺を今すぐに殺してやりたい。
 とりあえず学校は行くだけ行こう、授業は全部寝る。専門学校のAO入試も終わったし後は卒業するだけだ。そして家に帰ったら………………



「ハルトォォオオ、ヒナタァア!!!モフらせてくれヨォ」

 我が家のアイドル猫、ハルトとヒナタ。ハルトがオスでヒナタがメス。姉弟揃って美形、いや、猫様は全員美形だこの世の至宝と言ってもいい。
 そんな猫様に、俺はキスをせんばかりに顔面を近づけもふもふしていた。二匹は特に嫌がらない、というか無関心。あーまたかコイツみたいな顔してる。

「はぁ、疲れた。まじでリモートにしてくれないかな授業」

 俺はいわゆる器用貧乏という奴だ。小中高と勉強はまぁまぁできる。模試の成績も悪くない、運動だって結構できる方だ。
それでも俺はサボり魔で、とくにやりたいこともない。そんなふうになぁなぁで生きてきた。そんな俺の唯一の趣味、というか生きがいが………………

「俺の癒やしぃいいい、ああぁ、気もちぃもふもふ」

 うちのアイドルを愛でることだ、来年俺は家を出て専門学校の寮に入る。そうなればそう簡単にコイツらに会えなくなる、だから今のうちにたっぷりと癒して愛でているのだ。
 昔、少しイジメに会っていた経験から、人に対して多少の警戒心を持って接するようになった俺にとって猫含めて動物に触れたり見たりする行為はもう精神安定剤に他ならない。

「あー動物大国作りてぇ、エデンだろもはや、動物と自然に囲まれてたアダムとイヴいいなぁ」

 小学生の頃イジメに遭って、人の汚い部分を知った。人は醜く欲深く嫉妬深い、それでいて意地汚い。もちろん俺も例外じゃない、俺だって俺の好きなように生きている。学校だるいなと思えばサボるし先生に反発するし、いざとなれば暴力も振るうだろう。
 だからこそ、家にいる時のこの時間はたまらなく幸せだ。人間関係のドロドロにうんざりさせられることもないし、喧嘩になることもない。今だけは、世の中のしがらみから解放されているようなそんな気持ちになれる。

「ありがとう2人とも、明日も学校行けるわー」



 その日が、2匹、いや2人の暖かさに包まれた最後の日



 多分、その事故はニュースになったと思う。それぐらいの大事故だった、少なくとも俺の体感では。
 いつものように自転車で登校していた。そう、いつも通りに、何も変わらない通学路をただフラフラと漕いでいた。
 それは本当に一瞬だった。角を曲がった瞬間、俺の視界は光で埋め尽くされて………………


 俺は宙を舞っていた。


 それはもうグルグルと、高く高く舞い上がって、落ちた。
 グシャって音がして、身体が急に冷たくなって、視界がボヤけてきて、その時俺は自分の終わりを悟ったのだ。
 別に未練のようなものは無い、つまらない人生だった。取り柄もなく夢もなく、本当につまらない…………あぁ、でも1つだけ

「は……はる……っひ…………な……た……ぁ」


 あ、終わった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 目を覚ますと、よくわからない空間にいた。そこはまるで星空に包まれたかのような空間で、奥行きも分からなくて足も浮いているから身動きも取れない。でも別に怖く無い、なんだか暖かくて、そう、動物に囲まれているような安心する暖かさ。

「あったけぇ、きもちぃ、なんだここスゲェ」
「そうだろう?君が好きそうな空間をイメージしてみたんだ、お気に召したかな?」

 誰だこの気持ちいい空間に水を指すKY君は、今すぐ出てけ。尚俺の空間では無い模様。とりあえず声がした方に振り返って文句の一つでも言ってやろう。

「おや、随分落ち着いているねぇ。流石にもっと慌てたり警戒するものだと思ったのだけど」
「誰?お前、イケメン君はお呼びじゃ無いんだ消えな」

 そりゃもう美少年、大体中学生ぐらいだろう。白髪に切長の目、長いまつ毛に細い体躯、うーん嫌いだ。消えろ。あと大体この手のよくわからんヤツに関わるとろくな事にならない。多くのアニメやラノベではお決まりである。

「随分と冷静、威圧的でマイペース。うん、やっぱ僕は君が好きだ」
「うるせぇ、お前は誰だって聞いてんだろ答えろイケショタ」
「僕はここの管理を任されてる者だよ、君たちが言うところの神様って奴だね。ほら、崇め奉っていいよ」

 コイツ、いきなり出てきたかと思えば神だと名乗った上に崇め奉れだと、変人の極みだろ。

「で、その神様が俺に何の用?俺は死んだんだろ、て事は天国か地獄に行くわけ?」
「……そうだね、普通はそうだ。でも君は神に目をつけられた。普通の末路は辿れないよ」
「ほう、じゃあどうなる?」
「君の死に様はあまりに不憫、それも最後に残した未練が親や友人ではなくペットのこととはね。そこで、僕が君の唯一の望みを叶えてあげる」

 俺の望み?俺何か望んだか?なにか………あ、あれか。

「「動物大国」」

 俺が望んだことと言えば、これくらいだろう。それをコイツが叶えてくれる?なぜ?神に目をつけられた?俺が?なんで?

「何でって顔してるね、理由は簡単。僕が君を気に入ったからだよ、だからまだまだ君を見ていたい。だから君を転生させる」
「どこに?」
「君の夢が叶えられる場所に」

 どうやら、俺は転生するらしい。そこなら俺の望みが叶えられる。そしてその光景をこの神は見てみたいと言っている。なら俺にそれを拒む理由はない。常に監視されてると思うと気持ちは良くないが、この手のやつは干渉してこないだろうしすぐ忘れるだろう。
 ぶっちゃけ少しワクワクしてる。そこなら作れるのだ、俺の理想郷が。ハルトとヒナタがいてくれないのは残念だが、俺と死んでくれなんてそれこそ死んでも言えないからな。

「俺、ちょっと頑張るよ。ハルト、ヒナタ。俺は俺の理想を実現する」
「いいねぇ、貪欲で最早殺気立った目だ。君の本来の人間性を少し垣間見た気がするよ。あっちではもっと、見られるのかな?君の夢のために、僕も力を少しあげる。期待してるよ」

 そう言って神は俺に手を翳かざし、俺はあの時見た光よりも温かな光に包まれた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ここは、森?だよな、うん、すんごい森だ」

 見渡す限りめっちゃ森、多分街とかからも遠いガチ森林だ。見る限り人の気配もないし、昼っぽいけど木が高すぎて暗い。

「どこ?ここ、てかもうちょい人里っぽいとこに降ろしてくれても良かったじゃないの?俺がここで死んだらアイツどーすんの?あんなベラベラ喋っといてさぁ」

 ていうか俺服着てるじゃん。アイツそこは融通利かせてくれたのかぁ、じゃあなんで場所の融通は利かせてくれないのかなぁ???

「まさかアイツの言ってた力ってこれ?そうだったら普通にもっかい死んでぶっ飛ばしに行くけど?」

 その時、一気に空に黒い影が舞い上がった。あれはカラス?いや、もっと大きい、なんだ?見たことないぞあんな動物。
 黒い鳥に見惚れている俺には、前方から迫ってくる遥かに大きいヤツに最初気が付かなかった。そして気がついた時、そいつは俺の目の前にいた。

「はあ?デカすぎだろ、お前」
「ガルルルル………」

 狼だ、とてつもなく大きい。それになんか背中から鉱石?みたいなものが生えている。動物というよりゲームに出てくる魔獣のような、圧倒的な存在感。
 え?これやばい?マジでここで死ぬ??

「ち、ちょっと待って!まじ!?マジで!??」
「ガルルアァア!!!!」
「あ、しんd」

ーこのモンスターは使役可能ランク内です。テイムしますかー

 その文面に俺は反射的に

「YES」

 地面から青い鎖が飛び出て、今まさに俺を噛み砕かんとした魔獣を絡みとった。それから魔獣は暫く暴れていたが、段々と落ち着いてきて、鎖も砕け散った。そして砕け散った途端に




「うわっ、ちょっやめろベタベタするやめてぇ」
「ワヴワヴ、グルルルル」



 俺は3mはあろうかという怪物に舐められていた。それはもうベロベロと。もうね、ベタベタですよ。ハイ…………

「多分これがアイツの言ってた力、だよな。使役可能な魔獣?をテイムする能力、確かに動物大国作るなら持ってこいだけど……というかコイツテイム可能レベルな訳?マジで言ってる?」
「ガルルルル………」

 どう見ても高位モンスターの風格ですけど?でももしこれが大したことないレベルなら高位の奴とかもう怪物中の怪物なんじゃないの?大丈夫?
 てかどうすればいいんコイツ、テイムしたって事は俺に従順な筈だけど………………

「よし、とりあえずお前に名前でもつけるか」
「ワヴ」
「じゃあ………そうだな、オレニスでいいか?」
「ワヴ!」
「ヨシ、よろしくなオレニス」

 狼の学名カニス・ルパスと、鉱石を英語にするとoreになるというところから鉱石と狼の両方の意味を込めた名前にした。なぜ俺が狼の学名を知ってたかって?動物とか虫とかの学名って厨二感半端なくてカッコいいから色々調べたからである。わかるでしょ?とりあえず、気に入ってもらえたようで安心だ。
 さて、これからどうしたものか。とりあえずは人がいそうな場所を目指すのが最善か?コイツを見せても大丈夫なんだろうか?

ーテイムした対象のステータスを確認しますか?ー

 また俺の目の前に文章が現れた。俺は迷わずYESと口にした。もう何となく察していたが、此処は俺が生きていた世界で言うところのファンタジーの世界で、ゲームのようにステータスとかも見れるし、多分この感じだと魔法とかスキルとかそこら辺もあるんだろう。
 そして開かれたオレニスのステータス画面がこれである。


 個体名[コクセキロウ]
 名称[オレニス]
 ~固有スキル~
 無し
 ユニークスキル
 無し
 ~保有耐性~
 打撃耐性[C]刺突耐性[D]斬撃耐性[D]魔術耐性[B]
 ~保有スキル~
 「咆哮」「奮起」「加速」「硬化」「気配遮断A」
 ~基礎能力~
 筋力[C]俊敏[B]知性[D]魔力[C]耐久[B]体力[B]


 こんな感じだが、強いのか弱いのか分からん。この世界の下限も上限も分からないので当然だ。せめてこの世界の格能力の平均が知りたい、あとスキルの詳細もだ。こういう画面の場合、スキルをタップすれば詳細が見れるってのがベタだが。
 気になるスキルをタップすると、案の定スキルの詳細が出てきた。


「気配遮断A」
他者から限りなく知覚されにくくなるが、任意の相手に知覚させることが可能。


 との事だ。任意の相手に知覚させる事が出来るのは強いのではないだろうか?ゲームがゲームなら無双できそうな能力だ。他のスキルも気になるが、とりあえずは良いだろう。この気配遮断を使えば、人里に降りても何とかなりそうだ。

「てか俺の能力も見れるんかな。どーやって?」

 とりあえず俺は頭の中で自分のステータス画面を開くイメージをしてみた。オレニスのステータス画面のような物をできるだけ具体的に、そうするとまた文章が現れた。

ーステータスを確認しますか?ー

「YES」


 個体名[人間]
 名称[伊吹静夜いぶきせいや]
 ~固有スキル~
 「天性の資質・魔」
 ~ユニークスキル~
 無し
 ~保有耐性~
 魔術耐性[A]呪術耐性[A]
 ~保有スキル~
 「捕獲A」「使役者」
 ~基礎能力~
 筋力[C]俊敏[D]知性[B]魔力[EX]耐久[C]体力[D]
 ~装備~
 魔獣皮の軽装

 まず気になるのは固有スキル、これはオレニスには無かった。固有ということはその個体のみが持つ能力という事か?とりあえずタップして詳細を見る。

「天性の資質・魔」
魔の圧倒的才能と比較的高い知性を持つ。魔術と呪術に対する高い耐性を持つ。

 ほう、これはかなり……いや相当に強力なんじゃないだろうか。基礎能力で魔力が飛び抜けているのはこのスキルのためだろう、そして恐らくはEXが基礎能力の最大値。知性が比較的高いのも説明がつく、そしてもう1つ気になるのがこのスキル2つ
 俺はスキルもタップしてみる。

「捕獲A」
非常に高い捕獲能力。魔王種、神種、精霊種、悪魔種以外の捕獲を可能とする。
「使役者」
捕獲スキル保持者が使用可能。捕獲した対象を使役する事が出来る。名称を呼ぶ事でどこからでも召喚する事が出来る。

 2つとも、テイマーの必須スキルのような物らしい。捕獲スキルAは結構高い部類だろう。固有スキルとこの2つのスキルが、あのイケショタ神が言っていた力って事だ。俺が動物大国、いや、魔獣大国を作るためのな。
 随分と優遇されている………と思う。あの神がなぜ俺にそこまで目を掛けるのか未だによくわからない。単なる興味か、それとももっと別の大きな思惑があるのか、正直考えるのも面倒くさい。
 とりあえず今は、俺の夢の為にそれなりに頑張るだけだ。

「今日はとりあえず野宿だな、オレニスが居れば心配ないだろ。何たって俺は魔力はあっても攻撃手段はないからな!頼むぜオレニス?」
「ワヴワヴワヴ!!」
「おーよーしよしよし、ウリウリィ~」

 まずは人がいる場所に行く、それでこの世界の事をもうちょい調べて………やる事は山積みだし、やりたい事も山積みだ。でもゆっくりやってけばいい。



 俺は異世界で俺の理想郷を作る。
 さぁ始めようか、俺のセカンドライフを

 
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