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6話 犬さんの家
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俺はなんと、今、犬の住処にやってきている。
「服が……」と項垂れていたら、近くの水場で水浴びをさせてくれた後、連れてきてくれたのだ。
大きな山の岩肌に、これまた大きな穴が空いている。
「こんな場所、よく見つけたな」
『我の爪研ぎ場所であったのだがな、100年も同じところで研いでいたらいい具合に穴ができたのだ』
へえ。
だがしかし、ちょっと感動には浸れない。
なぜなら。
水場でゴシゴシ洗って、服の汚れは確かに落ちた。だけど着替えは持ってねえのよ。
んで周りに人はいないことはわかっててもな、マッパでいられるほど神経太くねえの。
結果汚れの取れた服をまた着て、犬の背に乗って走ってきたわけだけど…………まさか新幹線よりも速く走れる生き物がいるとは思わねえだろ。
つまり何がいいたいかと言うと、無茶苦茶気持ち悪いっていうか……吐きそう。
『坊主、ここには森の中に入った人間が、我と会って慌てて逃げる時に落としていった物や、我に敗れて死んだ者の持っていた物があるのだ』
自慢げな顔で説明ワンワン犬さんである。
でも、自慢げな顔になるだけはある。
「すっげえ。光り物ばっかりじゃん!」
剣や防具がめっちゃきらびやかで、ひと目で高級品だとわかるものばかりだ。
『我は強いからな。挑んでくる者もそれなりなのだろう』
ほれほれ、なんでも好きな物を選べと鼻先でぐいぐいと押してくる犬さん、すげえドヤ顔してやんの。
俺、きらびやかな武器や防具よりも服が欲しいんだけどな。
だってな、濡れた服を着て高速で走る犬の背に乗り、小一時間経ったらどうなると思う?
答えは、歯がかみ合わなくなります!
夏ならよかったんだろうけどな!
今はまだ、春も遠い肌寒い冬!!
「カチカチ……コレ、ニ、シマス」
『ぬ?坊主、どうしたのだ』
『クゥ!クゥ!』
犬さん、俺の異変にようやく気づいてくれたようだ。クゥも心配そうにウロウロしだした。
慌てた犬さんが着替えや備蓄品などが入っている袋を鼻先で開けると、そこそこキレイな状態の服が入っていた。
もちろん、使用済みっぽい臭いを放っているものもあるにはあるが。
犬さんが鼻を押さえてうずくまった。
この臭いを封じておけるって、この袋すごくねえか?
それにしても、どの服も俺には大きいなー。
そりゃそうか。
犬さんに立ち向かう子供なんかいるわけねえもんな。
まあ、暖が取れれば服の大きさなんて些細なことだよな。
大人用の服を広げると、わさっと羽織り紐でしばった。それなりの挑戦者の置き土産だけあって、品物は装飾も豪華だねえ。
ひらひらしていて、冒険者向きじゃねえ物が多すぎるけど。
腰や足は上手くしばれたけれど、腕をどうするか。
指先よりも随分と袖が長えな……クルクルと巻いとけばいっか。
落ちてきてもまあ、仕方ねえ。
今は暖まることができればいいんだからな。
サンダルみたいな靴も紐を調節すれば履けるようになっている。
濡れた服も靴も全部脱ぎ捨てて、カチコチに凍った身体を騙かし騙かし着替えたところで、犬さんの身体にグルリと囲まれた。
クゥも俺の腕の中に入ってくる。
温た~い!生き返る~!
マジで死ぬかと思ったからな!
しばらくそうしていたら、犬さんの高めの体温で身体があたたまってきた。そうすると動く余裕も出てくるだろ?
そしたらさ、やっぱりやりたくなっちまうだろ?
いいかな。やっちゃおうかな、むふふ。
手をワキワキさせて、犬さんのお腹をもふもふした後は大きな顔の後ろ、耳のあたりももふもふしてやる。
『む、坊主、何をするのだ、くぅぅ』
「こうすると、温けぇんだもん」
ウソである。
うほっ。こんなにでかい犬さんなのに、和毛があるし、気持ちよい。
なんだか眠たくなってきた。
「なあ、犬さんってなんて名前なんだ?俺はサリスフィーナ、家族にはサフィって呼ばれてるんだよ」
使用人はサリス様と呼ぶけど、父さんや母さん、大事な家族は俺のことをサフィと呼ぶ。
アイツらには名前を呼ばれることなんかねえし、俺の中でサフィってのは結構大事な呼び名なんだ。
出会ってからこんなに僅かな時間であるのに、2匹は義母や弟よりも大切な存在になっていた。
彼らにはサフィと呼ばれたい。
アクビを噛み殺しながら言うと、犬さんが俺の首元に鼻を突っ込んだ。
『サフィよ、我に名はない。好きに呼ぶとよかろう』
へへへ、サフィだって。
それにしても犬さん、名前ねえのかよ。名前がないのは不便だよなー。
「う~ん。シフォンとかどうだろ」
柔らかくて気持ちいい。
優しくて甘い物、食べたい。
『それでいいぞ』
鼻がくすぐったい。
「シ~フォン」
耳の後ろをさわさわ。
ん~、しあわせだなあ。
『……我を怖がらぬ人間は初めてだな』
あ、シフォンに顔をペロペロされている。
クゥも俺の手をペロペロと舐めている。
ん~、気持ち、よい~、ん、だ、ぐぅ。
「服が……」と項垂れていたら、近くの水場で水浴びをさせてくれた後、連れてきてくれたのだ。
大きな山の岩肌に、これまた大きな穴が空いている。
「こんな場所、よく見つけたな」
『我の爪研ぎ場所であったのだがな、100年も同じところで研いでいたらいい具合に穴ができたのだ』
へえ。
だがしかし、ちょっと感動には浸れない。
なぜなら。
水場でゴシゴシ洗って、服の汚れは確かに落ちた。だけど着替えは持ってねえのよ。
んで周りに人はいないことはわかっててもな、マッパでいられるほど神経太くねえの。
結果汚れの取れた服をまた着て、犬の背に乗って走ってきたわけだけど…………まさか新幹線よりも速く走れる生き物がいるとは思わねえだろ。
つまり何がいいたいかと言うと、無茶苦茶気持ち悪いっていうか……吐きそう。
『坊主、ここには森の中に入った人間が、我と会って慌てて逃げる時に落としていった物や、我に敗れて死んだ者の持っていた物があるのだ』
自慢げな顔で説明ワンワン犬さんである。
でも、自慢げな顔になるだけはある。
「すっげえ。光り物ばっかりじゃん!」
剣や防具がめっちゃきらびやかで、ひと目で高級品だとわかるものばかりだ。
『我は強いからな。挑んでくる者もそれなりなのだろう』
ほれほれ、なんでも好きな物を選べと鼻先でぐいぐいと押してくる犬さん、すげえドヤ顔してやんの。
俺、きらびやかな武器や防具よりも服が欲しいんだけどな。
だってな、濡れた服を着て高速で走る犬の背に乗り、小一時間経ったらどうなると思う?
答えは、歯がかみ合わなくなります!
夏ならよかったんだろうけどな!
今はまだ、春も遠い肌寒い冬!!
「カチカチ……コレ、ニ、シマス」
『ぬ?坊主、どうしたのだ』
『クゥ!クゥ!』
犬さん、俺の異変にようやく気づいてくれたようだ。クゥも心配そうにウロウロしだした。
慌てた犬さんが着替えや備蓄品などが入っている袋を鼻先で開けると、そこそこキレイな状態の服が入っていた。
もちろん、使用済みっぽい臭いを放っているものもあるにはあるが。
犬さんが鼻を押さえてうずくまった。
この臭いを封じておけるって、この袋すごくねえか?
それにしても、どの服も俺には大きいなー。
そりゃそうか。
犬さんに立ち向かう子供なんかいるわけねえもんな。
まあ、暖が取れれば服の大きさなんて些細なことだよな。
大人用の服を広げると、わさっと羽織り紐でしばった。それなりの挑戦者の置き土産だけあって、品物は装飾も豪華だねえ。
ひらひらしていて、冒険者向きじゃねえ物が多すぎるけど。
腰や足は上手くしばれたけれど、腕をどうするか。
指先よりも随分と袖が長えな……クルクルと巻いとけばいっか。
落ちてきてもまあ、仕方ねえ。
今は暖まることができればいいんだからな。
サンダルみたいな靴も紐を調節すれば履けるようになっている。
濡れた服も靴も全部脱ぎ捨てて、カチコチに凍った身体を騙かし騙かし着替えたところで、犬さんの身体にグルリと囲まれた。
クゥも俺の腕の中に入ってくる。
温た~い!生き返る~!
マジで死ぬかと思ったからな!
しばらくそうしていたら、犬さんの高めの体温で身体があたたまってきた。そうすると動く余裕も出てくるだろ?
そしたらさ、やっぱりやりたくなっちまうだろ?
いいかな。やっちゃおうかな、むふふ。
手をワキワキさせて、犬さんのお腹をもふもふした後は大きな顔の後ろ、耳のあたりももふもふしてやる。
『む、坊主、何をするのだ、くぅぅ』
「こうすると、温けぇんだもん」
ウソである。
うほっ。こんなにでかい犬さんなのに、和毛があるし、気持ちよい。
なんだか眠たくなってきた。
「なあ、犬さんってなんて名前なんだ?俺はサリスフィーナ、家族にはサフィって呼ばれてるんだよ」
使用人はサリス様と呼ぶけど、父さんや母さん、大事な家族は俺のことをサフィと呼ぶ。
アイツらには名前を呼ばれることなんかねえし、俺の中でサフィってのは結構大事な呼び名なんだ。
出会ってからこんなに僅かな時間であるのに、2匹は義母や弟よりも大切な存在になっていた。
彼らにはサフィと呼ばれたい。
アクビを噛み殺しながら言うと、犬さんが俺の首元に鼻を突っ込んだ。
『サフィよ、我に名はない。好きに呼ぶとよかろう』
へへへ、サフィだって。
それにしても犬さん、名前ねえのかよ。名前がないのは不便だよなー。
「う~ん。シフォンとかどうだろ」
柔らかくて気持ちいい。
優しくて甘い物、食べたい。
『それでいいぞ』
鼻がくすぐったい。
「シ~フォン」
耳の後ろをさわさわ。
ん~、しあわせだなあ。
『……我を怖がらぬ人間は初めてだな』
あ、シフォンに顔をペロペロされている。
クゥも俺の手をペロペロと舐めている。
ん~、気持ち、よい~、ん、だ、ぐぅ。
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