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一話 名前
しおりを挟む『うちは民間だからなんでもやるの。頼まれたら断れないみたいでね。まあ金になればだけど?』
そう説明するのは口に生クリームをつけながら口いっぱいにいちごのショートケーキを頬張る
福来八穢であることに間違いない。
その証拠に179センチの身長と類い稀なスタイル。そして今にも消え入りそうな幻想的な顔立ちがそこに存在している。
生まれつきの桃色がかった白髪は黒く染め後ろ編み込まれている。見え隠れする紅いインナーカラーがトレードマークのように見えるが本人はあまり執着がないようだ。
女は椅子に座る少年にいちごのショートケーキとアールグレイの紅茶を嗜みながら淡々と説明を続けた。
『でね。民間警備なんていうから警備会社だと思うじゃん?違うのよ。軍事会社とか傭兵派遣とかそっち系の仕事が主なのよ。だから、ここに死んでもいいですよーってサインしてね』
そう言って福来八穢は少年に紙を渡した。
少年は面倒臭そうにペンを持った。
ペンを持ったは良いが一向にサインをする気配がない。
少年の指はプルプル震えていた。
皇鳴民間警備は常に死と隣り合わせだ。
入社直前になってやっぱり無理ですと叫びながら逃げる者も少なくない。少年は14歳から16歳程の見た目であるし資格がなくても就職できるとは言え命を棄てるに等しい仕事を喜んでやるとは考えられない。
よほどな事情があってここに就職してきたのだろう。福来八穢はそう考察したが少年が呟いた一言でその考えは消えた。
一瞬にして頭が真っ白になった。
『俺、名前ないから書けねえ』
時計の針の音だけが暫く部屋に鳴り響き福来八穢は最後の一口を飲み込んで少年を見据えた。
ガチャリと音がして一人の長身の男が現れた。『おっ、いたか!クソが…じゃなくて少年!おはよう』
お気楽な挨拶をしたのは皇鳴民間警備所属の丘野清美。
目元が隠れるほどまで伸びた髪を掻き分けながら少年の横の椅子に座った。
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