あなたを飼い殺しにしたい

橋元 宏平

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罰ゲーム

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 新年早々、僕ん家に後輩が遊びに来た。
 コイツ、なんで休みの日まで僕と遊びたがるんだ?
 親戚とか友達とかいねぇのかな? コイツ。 

「先輩先輩」
「うん?」
「このゲームでどっちかが負けたら、罰ゲームしません?」
「罰ゲーム?」
「よくあるでしょ? ほら、『負けたら今日一日、勝者の言うことになんでも従う』ってやつです」
「ほほぅ? 面白い」

 コイツの思考回路なんて、お見通しよ。
 コイツがやらせたいことなんて、だいたい分かるもんね。
「飯おごって下さい」ぐらいが、関の山だ。
 でもわざわざ、「罰ゲーム」っつってくるぐらいだからな。

 だけどもしかしたら、高いものを要求されるかも。
 財布、いくら入ってたかな?
 いやいや、いかん!
 何負けることを前提に、考えてんだ僕。 
 何事も気の持ちようが、大事なんだよ。

 松■修造も、言っていたじゃないか。
「ガンバレガンバレ! 負けるな負けるなっ! なんで、そこで諦めるんだっ? 君はもっと、ガンバれるはずだっ! お米食べろっ!」
 そう、負けない気持ちが大事なんだよね。

 僕は、勝つ!
 僕はやるぜ、松■修造っ!
 幸い、今日のゲームは僕が選んだ僕の得意なゲームだしさ。
 しかも、バッチリ練習済みなんだよね。
 こりゃ余裕で、勝確(かちかく=勝ちは確定)だね。

 ここで僕が後輩をボッコボコに負かしたら、僕の言いなりってことか。
 さて、勝ったら何してもらおうかな?
 新しいゲームを、買わせてもいいし。
 せっかくだし、寿司とか焼肉おごらせるってのもアリだよなぁ。
 僕は勝った後の算段を思い浮かべて、ニヤリと笑った。

「よし、良いだろう! 僕が勝ったら、僕の言うことなんでも聞くんだぞっ?」
「はいはい、分かってますって。先輩が負けたら、俺の言うことなんでも聞いて下さいね?」
「男に、二言はない! 今日は、僕が勝つって決まってるんだからなっ!」
「あはははっ。じゃあ、やりましょうか」

 🎮

 気の持ちようだけじゃダメだったよ、松■修造。
 結果、僕のボロ負け。
 僕はムッとして、後輩を睨んだ。

「なんでっ? なんで、お前が勝つのっ? 僕、これ得意なのにっ! 絶対、なんかハメ技使ったでしょ! だって、ズルいもんっ! ズルくないっ? 今のっ?」
「いやいや、ズルくないですよ。ホントにハメなんて、使ってないですってばっ」

 後輩は「カカカカカッ」と笑いながら、何かを取り出す。

「じゃあ、罰ゲームですね。これ、着けて下さい」
「なにこれ?」

 手渡されたのは、犬用の首輪だった。
 首輪には、ご丁寧にもリードまで繋がっていた。
 ポカンとしている僕を見て、後輩は楽しげに笑う。

「あははははっ、その顔! ああ、それ、自分じゃ、着けられませんよね? 僕が着けてあげますよ」
「え~……着けなきゃ、ダメなの?」
「『負けたら今日一日、勝者の言うことになんでも従う』って、言ったでしょ?」
「もぉ~、分かったよ。着けてくんない?」
「はいはい」

 むくれて頬を膨らませると、後輩は僕の後ろに回って首輪を着けた。
 首に何かが巻き付いてるって、なんだかスゴく変な気持ちだわ。
 チョーカーっていう、人間用の首輪のアクセサリもあるけどさ。
 こういうの、僕、あんま着けたことないんだよね。
 しかもこれ、明らかに犬用だって分かるし。
 首輪を着け終わると、後輩は僕の正面に戻ってきて満足げに笑って手を叩く。

「おおっ、似合いますよ、先輩!」
「こんなの、似合ったって、嬉しくねぇ~……」

 首に着けられた首輪のせいで、なんだか息苦しい気がする。
 常に、首絞められてるみたい。
 犬猫も首輪着けられたら、こんな気持ちなのかな。
 猫にも、首輪着ける飼い主さんがいるけどさ。
 猫もいい迷惑してると思うよ。
 僕の考えなんて露知らず、後輩はご機嫌で僕の頭を撫でる。

「俺、ずっと『犬飼いたいなぁ~』って思ってて。今日一日、先輩が俺の犬になって下さいよ」
「はぁ? 何言ってんのっ?」
「別に、『何かしろ』とは、言いません。ただ、俺の横にいるだけで良いんです」
「それって、いつもと同じじゃん」
「『いつもと同じ』が良いんです」
「じゃあ、首輪着けた意味ないじゃん」
「首輪を着けてる先輩が見たかったんですよ、俺が」
「何それ? どんな趣味?」

 後輩はこんなもの買っちゃうぐらい、犬が飼いたいのか。
 後輩はニコニコ笑って、犬にするように僕の頭を撫で続ける。
 頭を撫でられてると、なんだか「良い子良い子」って褒められているみたい。
 なんか嬉しくなっちゃって、思わずニンマリしてしまう。

 そういえば子供の頃は、殴られるばっかりであまり頭を撫でられたことはなかった気がする。
 僕の家は昔、とても貧乏だった。
 年中汚い恰好してたし、一週間に一度しか銭湯へ行けなかった。
 そんな汚い子どもの頭を、誰が撫でてくれるんだよ。

 貧乏を理由にいじめられて、先生からも面と向かって「嫌い」って言われた。
 大人はみんなは無条件で「偉い」って信じてたから、逆らえなかったしさ。
 特技もなかったし頭も悪かったし、世渡り上手でもなかったしなぁ。
 そう思うと、黒歴史ばっかりの人生だなぁ。

 太宰治の「人間失格」みたいだ。
 主人公の大庭おおば葉蔵ようぞうは、大金持ちの末息子でさ。
 本当の自分を誰にも出すことが出来なくて、他人の前では面白おかしくおどけてみせるピエロなんだ。
 まともに人と会話も出来ないコミュ障で、つけ込まれやすい不器用な男なんだ。
 まるで、僕みたいでしょ。

「うんうん! その気持ち分かるぞ、葉蔵っ!」って、共感しながら読んだものさ。
 僕と違うのは、葉蔵が女にモテまくるイケメンってところだね。
 全くモテなかったおかげで、葉蔵みたいにドロッドロの女性関係に巻き込まれずに済んだんだ。

 欝々と深く考えに沈んでいると、後輩が僕の顔を覗き込んで優しく笑い掛けてきた。

「また、フラッシュバックしたんですか?」
「……うん」
「そうですか」

 後輩は哀しげに頷いて、今度は僕の背中をさすりだした。
 後輩が僕の背中を撫でる時は、僕をなぐさめようとしてくれている。
 後輩は心配性で過保護なぐらい優しくて、いつも落ち込んだ僕をなぐさめてくれる。
 こんな狂人みたいな僕を見捨てないで、唯一無二の親友だと、言ってくれる。
 どんな時でも、後輩はいつも僕の側で笑ってくれた。
 こんな親友、他にいるか? いないぞ。
 後輩が、僕にコントローラーを差し出してくる。

「ゲームやりましょ」
「犬は、ゲーム出来ないだろ」
「先輩は先輩でしょ」
「うん」
 コントローラーを受け取って、スタートボタンを押した。 
 僕はいつでも、後輩に救われているんだ。

 🎮

 ゲームの合間も、後輩は僕にちょっかいを出してくる。
 僕を抱きかかえて「よ~しよしよしっ」って、むちゃくちゃお腹を撫でられたり、首輪に繋がったリードを引っ張られたり。
 完全に犬扱いされているのがムカつくけど、そんなじゃれあいが面白かった。
 犬と飼い主ごっこをして遊んで、ふたりでゲラゲラ笑い合う。
 後輩の犬なら、なってもいいかな。
 そこにいるだけしか出来ない、駄犬だけどね。

 笑いすぎて、お腹が空いてきた。
 飼い主に懐く犬みたいに、後輩に擦り寄っておねだりする。

「あのさ」
「なんです?」
「肉じゃが、作ってくんない?」
「肉じゃがは、難易度高いから無理です」
「じゃあ、みそ汁でいいから」
「具は、何入れます?」
「芋がいいな」
「どうあっても、芋が食べたいんですね。分かりました、芋のみそ汁を作りましょう」

 後輩はもう一度僕の頭を撫でて、立ち上がった。
 正直言って、後輩は料理が下手だ。
 レシピ通りに作ればいいのに、どっか妙なオリジナル要素をぶっ込んでくる。
 そんで、出来上がったのが、ベッチャベチャの炒飯だったり、おかしな味の肉野菜炒めだったりすんの。
 でも、君の作るものなら、別にどんなにマズくても、僕は食べるよ。

「いやぁ~、マズいマズい。これはないわぁ~」って、バカにしながらね。
 そしたら後輩も「もぉ~……、そんな『マズいマズい』言わないで下さいよ! でも、文句言いながらも全部食べてくれるんですね」って、嬉しそうに声を立てて笑うのさ。
 願わくば、もうちょっと料理が上手くなってくれたらなぁ。

 🐕

 遊び疲れてウトウトしてると、後輩が母親のように背中をポンポンと叩いてくれる。
 気持ち良くて、ますます睡魔に引き寄せられていく。
 あと一歩で夢に足を踏み入れるという時、低い後輩の呟きが聞こえたような気がした。
 僕の夢が生み出した幻聴だと、信じたい。

「本当に先輩を俺の犬にして、飼い殺しに出来たらいいのに……」
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