ある日突然、知らないおじいちゃんから莫大な遺産を相続させられて、全裸の執事と地獄がもれなくセットでついてきた

橋元 宏平

文字の大きさ
33 / 68

第33話 新年初出勤

しおりを挟む
 旧年中は色んなことがありすぎるぐらいありすぎたが、どうにか新しい年を迎えることが出来た。
 新年初出勤しんねんはつしゅっきんすると、職場の仲間達と新年の挨拶あいさつわす。

「明けましておめでとうございまーすっ!」
「A HAPPY NEW YEAR!」
「今年もよろしくーっ!」

 しばらくすると従業員じゅうぎょういんは一ヵ所に集められて、姿勢しせいを正《ただ》して整列せいれつする。
 事業部部長じぎょうぶぶちょうがみんなの前に立つと、新年の口上こうじょう型通かたどおりの挨拶)をべ始める。

「皆さん、新年明けましておめでとうございます。本年も、何とぞよろしくお願い申し上げます……――」

 相変わらず、部長の口上は長い。
 良くもまぁ、それだけ語る話があるもんだ。
 感心しつつも、うんざりしながら、俺は部長の話を聞き流した。

 長い口上が終わると、部長は俺の横へ来て、こそっと耳打みみうちする。

「川崎君、新年早々悪いんだけど、ちょっと来てくれる?」
「え? はい」

 呼ばれるまま、俺は部長に付いて行った。
 応接室おうせつしつに入ると、部長はいそいそとお茶の準備を始める。

「川崎君、どうぞ座って」
「え? あ、はい。座って良いんだったら、座りますけど」
「ちょっと待ってね。今、お茶を用意するから」

 俺はワケも分からず、うながされるまま、応接セットのソファに腰掛けた。
 いつもなら、立ったままでいさせるはずなのに。
 珍しいこともあるもんだ。

 俺が座っていると、来客用の湯飲み茶碗ぢゃわんが目の前に置かれた。
 部長も自分のカップを持ってくると、俺と向かい合って座ってにっこり笑う。

「はい。安物のお茶だけど、良かったら飲んで」

 今までとはあまりにも違う待遇たいぐうに、俺は目を白黒させた。

「ど、どうしたんですか? 部長」
「どうもこうも。だって川崎君は、我が社の大株主様おおかぶぬしさまだからね。丁重ていちょう(礼儀正しくていねいに)に、おもてなししなくっちゃ」
「は、はぁ……」

 そういうことか。
 金があるっていうだけで、人間はこれだけ目の色を変えるものなのか。
 以前は、めちゃくちゃ説教垂せっきょうたれる人で、しかめっ面しか見たことなかったぞ。

 なのに、今日の部長ときたら、超笑顔で、猫撫ねこなで声で話し掛けてくる。
 やたら愛想笑あいそわらいしてくる部長が、気持ち悪くてドン引き。

「お茶菓子ちゃがしも、あった方が良かったかな?」
「いえ、お茶だけで十分です。それで、俺を呼んだのは、何か用があったんじゃないんですか?」
「実はねぇ、川崎君の立場をどうしようかって話が出てるんだよ」
「立場?」

 ひとつうなづくと、部長は続ける。

「だって、我が社の大株主で最高経営責任者であった、ミッチェル氏のあといだんだから。今のままってワケには、いかないでしょ?」
「俺はこのまんまで、全然構わないんすけど」
「川崎君が良くても、こっちは良くないの」
「は、はぁ……」

 俺が、気のない返事をすると、部長はお茶を一口飲んで続ける。

「しばらくは今まで通り、お仕事してもらうけど。これから、検討会議けんとうかいぎがあるんだよ。川崎君の立場をどうすべきかを、話し合う予定になっている。決定次第、辞令じれいを出すから、よろしくね」
「分かりました」
「あ、そうそう。これは現時点げんじてんでは、秘密裏ひみつりでお願いね」

 口の前に人差し指を立てて、部長は小声で言った。

「はい」

 俺はお茶を飲み干すと、応接室を後にした。
 いや、部屋を出ようとしたら扉にゴンッと何かがブチ当たった。
 扉の向こうから、桜庭の痛そうな声がする。

「痛いです、ご主人様」
「あ、ごめん、桜庭」

 っつーか、お前、扉に聞き耳立ててたな?
 極秘情報ごくひじょうほう盗聴とうちょうするとか、犯罪だぞ。
 もういい加減、警察呼ばれるぞ、お前。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

泣き虫だったはずの幼なじみが再会したら僕を守るために完璧超人になっていた話。

ネギマ
BL
気弱で泣き虫な高校生、日比野千明は、昔からいじめられっ子体質だった。 高校生になればマシになるかと期待したが状況は変わらず、クラスメイトから雑用を押し付けられる毎日を送っていた。 そんなある日、いつものように雑用を押し付けられそうになっている千明を助けたのは、学校中が恐れる“完璧超人”の男子生徒、山吹史郎だった。 文武両道、眉目秀麗、近寄りがたい雰囲気を纏う一匹狼の生徒だったが、実は二人は、幼い頃に離れ離れになった幼なじみだった――。

無愛想な氷の貴公子は臆病な僕だけを逃さない~十年の片想いが溶かされるまで~

たら昆布
BL
執着ヤンデレ攻め×一途受け

処理中です...