ある日突然、知らないおじいちゃんから莫大な遺産を相続させられて、全裸の執事と地獄がもれなくセットでついてきた

橋元 宏平

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第57話 世界へ羽ばたけ、俺の黒歴史

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 今や、俺の生活は多忙たぼうきわめていた。
 ドラマ撮影にグラビア撮影、ライブショー、握手会。
 何故か、キャラクターソングまでうたわされた。

 分刻ふんきざみのスケジュールが、毎日びっしり詰まっている。
 俺は別に、有名人になりたかったワケじゃなかったのに。
 ただ、世界の平和と発展を願っていただけなのに。
 どうしてこうなった。

 多忙な俺のスケジュールは、秘書ひしょ桜庭さくらばが管理している。
 終始しゅうしニコニコと、次の予定を読み上げる。

「次は、ダンスと歌のレッスンのお時間です」
「ダンスと歌ぁ~……?」

 げんなりすると、桜庭が言い聞かせてくる。

「そんな顔しないで下さいよ。今が一番、売れに売れている時期なんですから、来る仕事はなんでもこなさないと。ちやほやされている内が、花ですよ」
「そんなこと言ったって、これ絶対黒歴史確定ぜったいくろれきしかくていだろぉ」

 俺は「シュブニグラス・エンターテインメント」の廊下の壁に貼られた、ポスターを指差ゆびさす。
 キャラクターのコスチュームを着た、俺と桜庭と蒼衣あおいさんとすずちゃんの4人がポーズを決めて並んでいる。
 それは、いいんだけど。

「なんで、俺がcenterセンターなんだよ?」
「主役だからそうなってるだけで、メインボーカルはいばら蒼衣あおいさんと宝龍ほうりゅうすずさんですよ。僕とご主人様は、コーラスしながら踊るだけです」
「あ、なんだ、良かった。俺らはあくまで、引き立て役なのか」

 その話を聞いて、ちょっとホッとした。
 しかし、前奏ぜんそうでブレイカータイガーの決めゼリフを叫び、ソロパートがあることをあとから知らされた。
 桜庭の嘘吐うそつき。

 ☆

「ブレイカータイガー」の新曲初披露しんきょくはつひろうイベントライブは、想像以上の客入りだった。
 屋内型の大型スタジアムは、超満席。
 入場チケットが、高額転売されていたという話もあった。

「「「「ご主人様、応援に来ましたよ」」」」

 舞台裏には、執事達も勢揃せいぞろいときたもんだ。
 わざわざ出向いてくれた手前悪いけど、俺は歌もダンスも自信がない。
 何が悲しくて、黒歴史製造の瞬間を大勢の前でさらさなきゃなんないんだ。

「お前ら、笑うなよ?」
「そんなっ! 笑うなんてとんでもございませんっ! この日を、どれだけ楽しみにしていたことかっ!」

 力説りきせつする桔梗ききょうの手には、ハンディビデオカメラがあった。
 俺はぽかんとして、その手に持ったものを指差す。

「なにそれ? カメラ?」
超高性能ちょうこうせいのうHDDカメラです。ご主人様のご勇姿ゆうしを、このカメラとぼくの目に焼き付けるつもりで購入しましたっ! もちろん、編集して永久保存版えいきゅうほぞんばんにしますっ!」
「あら、桔梗ちゃんもなの?」

 嬉しそうに椿つばきも、ハンディカメラを取り出して見せた。
 執事達の手には、それぞれカメラが握られていることに気付いた。
 たちばななんかは、早くもカメラを回し始めて、超ご機嫌だ。

「もちろん、私も持っています! ご主人様のご活躍かつやくを、くっきりはっきりばっちり撮影させて頂きますっ!」
「私はビデオじゃなくって、ただのカメラですけど」

 少し恥ずかしそうに、田中が年代物のカメラを見せてくれた。
 一眼レフカメラってとこが、ガチだ。

「やめろ~! 俺の黒歴史を永久保存えいきゅうほぞんするなっ! 今すぐ、そのカメラをしまえっ!」
「ご主人様、そろそろ出番ですから、ご準備下さい」

 恥ずかしくていたたまれない俺を、桜庭が苦笑交じりでなだめた。
 主人公のステージ衣装を着せられ、舞台に立たされる。
 もう逃げられない。

 無情むじょうにも開演時間を迎え、イベント開催とともに、スポットライトが俺らを照らし出す。
 コミカルな曲が流れ出すと、スタジアムが歓声かんせいいた。
 曲に合わせて、蒼衣さんと鈴ちゃんをセンターに、俺は右、桜庭は左で歌い踊る。

 コスプレしてダンスと歌を披露ひろうしなきゃいけないとか、どんな公開処刑こうかいしょけい
 歌唱力かしょうりょくの高い、蒼衣さんと鈴ちゃんは良いよな。
 俺のヘタクソな歌とダンスなんて、誰が得をするんだよ。

 新曲披露ライブ、トークショーに記念撮影。
 これといったトラブルもなく、スケジュール通り、とどこおりなく進んだ。
 のちに、このライブは、Blu-ray化されるそうだ。
 今すぐ、ディスク製造工場せいぞうこうじょうの生産ラインを止めてやりたい。
 そうは言っても、無理な話で。

 しかも、Blu-rayは世界中で販売予定らしい。
 畜生ちくしょう、もう泣きてぇ。
 こうして俺の黒歴史は、おおやけの場にさらされたのであった。
 世界へ羽ばたけ、俺の黒歴史。
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