俺の幸せの為に、中二病こじらせた自称天使を堕天させたい。

橋元 宏平

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第6話 中二病と堕天を企む者

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 ディスティニーランドデートの翌日。
 俺と黄葉きばくんが独身寮へ帰って来ると、奇妙な格好をした少年が立っていた。

 黒マント、白シャツ、黒ネクタイ、黒スラックス、黒革の編み上げブーツ。
 なんだアレ? コスプレか?
 俺たちに気付くと、少年は嬉しそうな笑顔で手を振ってくる。

「あ、黄葉ちゃ~んっ!」
「あれ? 紫牟田しむたくんっ!」

 黄葉くんが俺と繋いでいた手を離して、少年に向かって駆けて行く。
 嬉しそうに名前を呼び合い、ギュッとハグをした。
 ギャルか。

「紫牟田くん、久しぶり~。会いに来てくれたんだ?」
「うん。黄葉ちゃんが地上降臨ちじょうこうりんしたって神様から聞いたから、会いに来ちゃった」
「そっか、いつも心配掛けちゃってごめんね。でも来てくれて、めっちゃ嬉しい」
「ボクも、黄葉ちゃんと会えて嬉しいよ」
「天界のみんなたちは、どうしてる?」
「みんなたちも、黄葉ちゃんを心配してるに決まってんじゃん」
「だよね~。『心配掛けてごめん』って、言っといて」

 どうやら、ふたりは友達らしい。 
 ふたりは両手を握り合って、楽しそうに話している。
 やたら仲が良いふたりに思わず嫉妬して、問い掛ける。

「黄葉くん、誰? ソイツ」

 黄葉くんと距離が近い少年にムカついて、低い声が出てしまった。
 中学生相手に大人げないな、自分。
 黄葉くんは明るい笑顔で、教えてくれる。

大天使アークエンジェルの紫牟田くんだよ!」
「どうも初めまして、大天使の紫牟田です。あなたが、藍染あいぜんさんですね? 熾天使セラフィムの黄葉ちゃんを拾って下さって、ありがとうございました」

 大天使とか熾天使ってのは、中二病グループでのふたか?

 そんなことより、コイツはいったい何者だ?
 何も話していないのに、俺が黄葉くんを拾ったことを知っていた。
 しかも、俺ん家の前で待ち伏せまでしていた。
 もしかして、黄葉くんを連れ戻しに来たのか?
 俺は警戒して黄葉くんの肩を抱き寄せ、紫牟田とやらをにらみつける。

「何故、俺のことを知っている? 会ったのは、今日が初めてだよな?」
「はい。藍染さんのことは、つくもさんから教えていただきました」

 あの野郎……っ! 
 やっぱり、会わせるんじゃなかった。
 口止くちどめしとかなかった俺も、悪かったかもしれない。
 それでも、「訳アリです」みたいな感じの雰囲気を出しといただろうが!
 なんで、人の個人情報を赤の他人にペラペラ話してんだよっ!

 こうなったら今後一切こんごいっさい、誰とも会わさん。
 本格的に、黄葉くんを監禁してやる。
 静かな怒りを燃やす俺を、紫牟田がじっと見つめている。

「なんだ?」
「あの、失礼ですが、男性ですよね?」 
「ああ、男だが?」

 俺がうなづくと、紫牟田は安心したようにホッとした顔で笑う。

「名前だけじゃ、男性か女性か分からなかったもので。確認しておきたかったんです」
「女性だと、何か不都合ふつごうでもあるのか?」
「女性だったら、禁を犯してしまう可能性がありますから」
「禁を犯す?」
「ボクたち天使は人間の女性とまじわると、天界から追放されてしまうのです」
 
 それは、因習村いんしゅうむらおきてか何かか?
 なんとなく気になったので、話をうながす。
 
「その話、もうちょっと詳しく聞かせてもらっていいか?」
「良いですよ」

 紫牟田は笑顔で、話し始める。

 かつて天界には、天使階級中級第一位に位置づけられる主天使ドミニオンAzazelアザゼルという天使がいた。
 人間を監視する立場のはずの天使が、人間の女に欲情してめとる禁を犯した。
 禁を犯したアザゼルは、天界から追放された。
 天界から追放されることを、堕天だてんという。
 自由意志じゆういしによって堕天する天使は、わりと多いらしい。

 話を聞く限り、キリスト教の影響をモロに受けた因習村のようだ。
 自分たちのことを、天使と思い込んでいるくらいだし。
 そんな教えが根付いている因習村で育ったら、黄葉くんもこうなるわな。
 
「堕天した天使は、どうなるんだ?」
ちた天使は人間に、またさらに深く堕ちると堕天使だてんしと呼ばれる悪魔になります」
「ほう? なるほど。それは良い話を聞いた」

 甘いな、紫牟田。
 相手が男であっても、人間と交われるってことを知らんようだな。
 人間の男が欲情して、天使が娶られる可能性もあるんだよ。

「それでは藍染さん、黄葉ちゃんをよろしくお願いしますね」
「ああ、分かった」

 紫牟田は、黄葉くんを連れ戻しに来た訳ではないらしい。
 いなくなった黄葉くんを心配して、様子を見に来ただけだそうだ。

「じゃあね~、紫牟田くん、バイバ~イッ!」
「バイバ~イ! 黄葉ちゃん、またね~っ!」

 黄葉くんはニコニコ笑って、紫牟田に向かって大きく手を振った。
 紫牟田も手を振り返しながら、笑顔で帰っていった。
「黄葉くんが連れ戻されるかもしれない」と気を張っていたから、気疲きづかれしてしまった。

 今まで「黄葉くんは、まだガキだから」と、胸に秘めていた想い。
 禁忌きんき逆手さかてに取って、堕としてやろうじゃないか。

 ꒰ঌ♥໒꒱‬꒰ঌ♡໒꒱

 人間界の偵察ていさつを終えた大天使アークエンジェルの紫牟田が、天界へ戻って来た。

「ただいま」
「おかえり! 人間界は、どうだった?」

 権天使プリンシパリティーの橙木《とうぼく》が、興味津々とばかりに声を掛ける。
 それを見て、他の天使たちも集まってきた。  
 大天使の紫牟田は、渋い顔で答える。

「正直言って、悪いね。地上は、混迷こんめいを極めていたよ。黄葉ちゃんがいなくなった影響は、かなりデカい」
「あ~……、黄葉くんがいないとやっぱそうなるよね~」

 力天使ヴァーチュー桃嵜ももざきは、呆れたようにため息を吐いた。
 それを聞いた能天使パワー紺箭こんやが、やれやれと重い腰を上げる。

「さて、黄葉ちゃんの代わりに、僕がひと肌脱ぎましょうかねぇ」

 能天使のうてんしは神の命により、天にそむいた悪魔たちを滅ぼす役目を持つ。
 悪魔と直接接触する為、悪魔の誘惑ゆうわくさらされる機会が多く、最も堕天しやすい天使といわれる。

「お? 紺箭ニキ、出番ですか?」
「紺箭くんが行くなら、オレも行くよっ!」

 主天使ドミニオン赤艸あかくさと権天使の橙木も、身を乗り出す。
 主天使しゅてんしは、政治や社会において正しい判断を下せるように、人々を導く役割を持つ。
 権天使ごんてんしは、神の名において正義か悪かを徹底的に区別し、地上の国家及びその指導者層を悪霊から守護する役目を持つ。

 今にも飛び出して行きそうな3人を、座天使ソロネ緑谷みどりたにが慌てて引きめる。

「ちょっとみんな、気が早くないっ? 黄葉くんがいなくなって、まだそんなってないよっ!」 
「そういや、黄葉はどうだった?」

 話を変えるように智天使ケルビム水卜みうらが問うと、大天使の紫牟田の表情はますますけわしくなる。

「黄葉ちゃんを拾った藍染とかいう人間、ちょっとヤバいかも……」
「ヤバいって、どうヤバいんだよ?」
「黄葉ちゃん、堕天させられちゃうかも……」
「そんなっ! 黄葉に限ってそんなこと、ある訳ねぇだろっ!」
「だってアイツ、黄葉ちゃんを見る目が明らかにヤバかったんだってっ!」
 
 懸命に訴える大天使の紫牟田を見て、能天使の紺箭と権天使の橙木の顔から笑みが消える。

「僕の大切な黄葉ちゃんに、手を出すとは……」
「黄葉くんをそそのかす悪魔は、殺さねぇと」

 殺意をあらわにするふたりを、座天使の緑谷がいましめる。

「待て待て。その人間が本当に悪かどうかは、まだ分かんないだろ? ちゃんとその人間を、しっかり見極みきわめてからの方が絶対良いって。紫牟田くんだって、1回しか会ってないんでしょ? 勘違いで何の罪もない人間を殺しちゃったら、神様に怒られるよ?」

 座天使の緑谷にしかられて、能天使の紺箭と権天使の橙木は冷静を取り戻す。

「まぁ、しばらく様子見ですかね~」
「う~ん、それもそうだな」

 天使たちは話し合い、藍染がどんな人間かをしばらく観察することにした。
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