学園ラブコメの恋愛フラグをことごとくへし折るニブチン主人公に恋焦がれるホモ兄弟の片想い地獄に巻き込まれてしまった……

橋元 宏平

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第3話 信頼が愛へ変わる前に ※直樹視点

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 弟の雅紀まさき誠人まことにひと目惚めぼれしてから、おれの環境は様変さまがわりした。
 自分の弟がデブ専ゲイだったなんて、ドン引きだよ。
 朝から晩まで、誠人のどこが良いかを延々えんえんと語ってきやがる。
 ウザくて、適当に聞き流していた。
「オタクメガネデブ野郎の、どこにひと目惚れする要素があるんだ」ってな。

 でもまぁ、誠人は悪いヤツじゃない。
 お人好しで、め上手。
 趣味も合うから、一緒にいると楽しいし。
 笑い方が本当に楽しそうで、ついつい釣られて笑っちまうし。
 意固地いこじ意地いじっぱりで頑固がんこ)で、面倒臭ぇ性格だけどな。

 友達としか見られなかったし、友達以外考えられなかった。
 ところが、ずっと弟の話を聞いているうちに、感化かんかされたんだろうな。

 あれは中三の進路面談があって、弟が来られなかった日のことだ。
「今日は、誠人ん家で遊ぶ」と言ったら、スゲェくやしがっていた。
 だから久しぶりに、おれと誠人と大介だいすけの三人で遊ぶことになった。
 ゲームのロード中、ふいに弟の言葉を思い出した。

『誠人さんってさわ心地ごこちが良くて、ずっとんでいたくなるんだよね』

 その言葉に突き動かされるように、誠人へ手が伸びる。
 危うく、豊満ほうまんな胸に手を出しそうになった。
 男同士なんだから、胸を触るくらい良いはずなんだけど。
 誠人の場合は「胸」じゃなく、「おっぱい」という言葉がしっくりくる。

 なんとなく、そこはダメな気がして手を下へずらす。
 おれの手がつかんだのは、おっぱいと同じくらいムチムチの腹。
 あったかくて、もにゅもにゅやわっこくて手触りがい。
 なるほど、これはずっと揉んでいたくなるわ。

「おぉっ? スゲェなっ、貴様きさまの腹! もっちもちじゃねぇかっ!」
「もぉ~っ、直樹なおきぃ~! 俺がデブだからって、揉むのやめろよなぁ~っ!」

 揉まれている本人は、ちょっと困り顔で笑っている。
 抵抗しないので、おれはそのまま揉み心地を楽しんだ。
 隣にいる大介も便乗びんじょうして、からかいながら脇腹わきばらを揉み始める。

「そらぁ、腹揉まれんのはデブの宿命しゅくめいだべ。受け入れろや。おお? マジで餅じゃん。すべすべもちもちで、手触り最高だわ」
「うひぃ~っ、そこはくすぐったいこちょばいから、やめろぉ~っ!」
「なんだ貴様、脇弱ぇのか。よし」

 脇腹が弱点と知り、おれと大介はニヤリと笑い合い、脇腹を狙ってくすぐるこちょぐる
 誠人はヒーヒー言いながら、床に寝転がって身をよじる。
 その反応が面白くて、おれらはさらに調子に乗る。

「ふはははっ、おらおらおらっ!」
「いやぁ~っ! ホント、そこダメだってば~っ! やめてやめて~っ!」
「あははははっ! 面白すぎんべっ!」

 くすぐりこちょばしまくって、誠人がゼーハー言い出したところで気が済んで、手を止めた。
 誠人は真っ赤に染まった情けない顔で、ハアハアと息を荒げている。
 暴れたせいでメガネはハズれ、シャツも乱れて胸元と腹がモロ見え。
 うっすらと汗ばんで、ほんのり赤く染まった肌がまぶしい。

 うわ、なんだこれ。
 エロい、エロすぎる。
 胸が高まり、喉が鳴って顔と股間に熱が集まっていく。
 そこでまた、弟の言葉がよみがえる。

『誠人さんって、首元のホクロがセクシーだよね』

 自然と目が、誠人の首元に吸い寄せられる。
 透けるような色白いろじろの肌に、小さなホクロが並んでいる。
 今まで意識してなかったけど、確かにエロいわ。
 良く見たら、結構可愛いんだな。

 ん? 可愛い?
 あれ? なんだ? この感情。
 一度意識したら、もうダメだった。
 弟の言葉が、心をじわじわと蝕《むしば》んでいく。

『笑顔が可愛い』
『声が可愛い』
『アホ可愛い』
『性格が可愛い』
『体付きがエロい』

 ボールが坂を転がり落ちるように、好きがどんどん加速していく。
 最後に「恋」と言う名の穴に、ストンとちた。
 今まで嫌いだった部分も全部可愛く見えて、何もかも許せる。
「あばたもえくぼ(恋をすると、欠点もよく見える)」とは、よく言ったもんだ。

 途端とたんに、誠人をおれのものにしたくなった。
 弟には、絶対にゆずれない。
 恋心を自覚した瞬間、弟はライバルとなった。

 最近、誠人が大介にやたらとベタベタしている。
 おれと弟は、それが面白くない。
 だって、好きなヤツが別の男にちょっかい出してんだぞ。
 嫉妬しっとするのは、当然だろ。

 ある日の放課後。
 おれと誠人と大介と弟は、いつものようにゲーム同好会でゲームをしていた。

「あ、もうねぇや。新しいの、買ってくるわ」

 空のペットボトルを捨て、大介は自販機へ飲み物を買いに行った。
 大介が出て行くなり、弟が誠人に問い掛ける。

「誠人先輩って、大介先輩のことが好きなんですか?」

 大介がいたら、聞きにくい質問。
 おれも、ずっと気になっていた。
 もし誠人もホモなら、ワンチャンあるかも。

「うん。俺、大介大好きだよ」

 誠人はにっこりと、明るい笑顔で答えた。
 分かっていたけど、誠人の口からハッキリ「好き」と言われるとショック。
 弟も動揺しつつ、質問を重ねる。

「どっ、どのぐらい好きなんですか?」
「どのぐらいって?」

 誠人は目をパチクリして、軽く首を傾げた。
 なんだそれ、あざと可愛い。
 その可愛さに弟もヤラれたのか、顔を赤くしている。
 弟は照れながら、言葉を選ぶ。

「それはその……、えっと、恋愛感情があるとか、ないとか?」
「恋愛感情? ないないないっ! だって、俺ら友達っしょっ!」

 清々しいぐらい、誠人は豪快に笑い飛ばした。
 あっけらかんとした反応に、おれと弟はホッとする。
 同時に、おれも同列の「友達」なのかと、ガッカリ。

 そこまで聞いても、弟は追求の手を緩めない。
 大介には負けたくないと、対抗意識を燃やしている。
 おれと同じで、負けず嫌いなんだよ。
 それに昔から、納得するまで突き詰めたがるクセがあるからな。

「大介先輩の、どんなところが好きなんですか?」
「好きなとこ? う~ん、そうだなぁ。頼りがいがあって、尊敬出来るとこかな」
「尊敬ですか?」
「大介ってさ、なんでも出来てなんでも知ってて、優しいじゃん」

 あ~……それは、分かる気がする。
 大介は、割となんでも器用にこなすし、博識はくしきだし信頼にる男だ。
 何のかんの文句言いつつも、おれの恋愛相談にも乗ってくれるし。

 誠人が大介に向ける感情は、「尊敬」と「信頼」
 恋愛感情とは、別物。
 しかし、ある日突然「愛」へ変わる可能性もあり得る。
 手遅れになる前に、なんとしても誠人を振り向かせたい。

 おれは大介のような、尊敬される男にはなれないけど。
 せめて、信頼される男になりたい。
 どうすれば、誠人の信頼を勝ち取ることが出来るんだろう?

「えっと……あのさ、誠人」
「何? 直樹」

 誠人は何を言われるのかと、不思議そうな顔でおれを見つめてくる。
 おれも誠人の可愛い顔を見つめ返すと、顔と胸が熱くなった。
 ガチガチに緊張しつつ、上擦うわずった声で懸命に伝える。

「お前の都合の良い日でいいんだけどさ、休みの日にふたりで出掛けね?」
「うん、いいよ」

 デートの誘いだとは思いもしない誠人は、ふたつ返事でうなづいた。
 おれは思わず「よっしゃっ!」と、喜びの声を上げた。
 弟はすぐに、デートだとさっしたらしい。
 後ろから誠人にしがみつくと、おれに向かって怒声どせいってくる。

「兄さん、抜け駆けしないでよ! ぼくも行くっ!」
「誠人はおれとふたりで行くって、約束したんだよっ!」

 自分を取り合いされているとは、気付きもしない鈍感バカは――

「だったらさ、雅紀くんも大介もみんなで行けばよくね?」

 と、ほがらかに笑うもんだから、釣られて笑っちまった。
 笑っちまったから、おれの負け。
 結局、四人で遊びに行くことになった。
 いつもと何も変わらず、デートも何もあったもんじゃない。
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