エロとホラーは相性がイイ(仮題)

橋元 宏平

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第1話 笑う殺人鬼

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「あ」

 何の前触れもなく、目の前が真っ暗になった。
 どうやら、停電したらしい。
 待てば回復するかもしれないと、しばらく待ってみる。
 だけど、いくら待っても電気はかない。
 窓の外を見てみると、街の明かりは点いていた。
 どうやら、この療養所サナトリウムだけ停電しているようだ。

 原因を調べる為、勇気を出して管理人室を訪ねることにした。
 真っ暗な中を歩き回るのは怖いけど、ずっと停電しっぱなしってのも困るし。
 スマホのライトを点けて、恐る恐る自分の部屋を出ると廊下も真っ暗だ。

 1階の管理人室の前に着くと、声を掛けながらドアをノックする。

「あのぉ、もしも~し。管理人さ~ん、いらっしゃいますか~?」

 待っても、何の返答もない。
 どうやら、管理人さんは留守みたい。
 ドアノブを掴んで回してみたら、カギが開いていた。

「あれ?」

 カギも掛けずに出掛けるなんて、不用心だなぁ。
 悪いと思いつつも、扉を開けてみる。
 扉を開けた途端、気持ち悪くなるような生臭い空気が鼻を突く。
 思わず、袖口そでぐちで鼻をおおう。
 そのくらいでは、気休きやすめにしかならないけど。
 これは、何の臭いなんだろう?

「すみませ~ん、誰かいませんか~?」

 室内を照らしてみると、赤黒い液体がぶちまけられていた。
 それを見た直後、足が固まったように止まる。

「え?」

 部屋の至るところが、液体で濡れている。
 液体はまだ乾いておらず、滴り落ちている。
 ぬらぬらとした液体が、光を反射していた。

 なんだ、これは?
 頭が考えることを拒絶していた。
 それが何か分かっているのに、頭が理解しようとしない。
 思考回路が止まっていた。

 部屋の奥には、ふたりの人間がいた。
 ひとりは、壁に寄り掛かった管理人さん。
 部屋を汚す液体は、管理人さんの体から噴き出した血だった。
 ひとりの男がこちらに背を向けて、管理人さんを見下ろしていた。

「ひ……っ!」

 思わず、引きつった声を漏らしてしまった。
 慌てて自分の口をふさぐも、もう遅い。

 声で僕に気付き、男が振り返る。
 猫背の男はボロボロの服を着ていて、返り血を浴びていた。
 顔は、腐った死体のように醜い。
 目は死んだ魚のように生気がなく、鼻は腐り落ちていた。
 口はだらしなくあんぐりと開き、ヨダレを垂らしている。
 あきらかに異常者だと分かる、気持ち悪い男。

 明るかったら、よりハッキリと殺人鬼の姿が見えただろう。
 停電してて、助かった。
 いや、安心している場合じゃない。
 このゾンビみたいな男が、管理人さんを殺したんだ。
 男は僕を見るや、何が面白いのか、高らかに笑い出す。

「あははははははははははははははははっ!」 

 狂気じみた笑い声に、僕は恐れおののいた。
 殺人鬼は不気味な動きで、ゆっくりとこっちへ歩いてくる。
 コイツ、ヤバい。
 逃げなきゃ、殺される。
 殺人鬼に背中を向け、それこそ死ぬ気で逃げる。

 管理人室を飛び出して、廊下を駆け抜け、階段を駆け上がる。
 走って走って、とにかく走り続けた。
 後ろから楽しそうな笑い声が、絶えまなく聞こえてくる。
 いつまでも続く笑い声が、恐怖心をあおった。
 何がそんなにおかしいんだっ?
 快楽殺人者かっ!

 いやだいやだ、死にたくないっ!
 誰かの部屋へ逃げ込もうにも、どの部屋にもカギがかかっていて開かない。
 逃げ回りながら、手当たり次第にドアを叩きまくって助けを求める。

「誰か助けて! 殺人鬼に追われてるんだっ!」

 ドアを開けてくれる人は、ひとりもいない。
 なんで、誰も助けてくれないんだよ!
 どうして、助けてくれないのっ?
 アイツに捕まったら、僕、殺されちゃうのにっ!
 死にたくない! お願い、助けてっ!

 逃げても逃げても、笑い声が追い掛けてくる。
 走り続けて、足がパンパンに腫れて痛み出す。
 息が上がって苦しいし、脇腹が痛くなって、口の中に血の味が広がる。
 恐怖で、涙が止まらない。
 
「あっ!」

 走り疲れて足がもつれ、盛大に転んでしまった。
 起き上がろうにも、疲れ果てた体が重くて、なかなか起き上がれない。
 笑い声が迫って来る。

「動け! 動けよ、僕の体!」

 起き上がろうにも、体が言うことをきいてくれない。
 そうこうしているうちに、ついに殺人鬼の手が僕の頭を掴んだ。
 殺人鬼は嬉しそうな声を、張り上げる。

「あはははははははははははははっ!」
「いやぁあぁあぁあぁぁ~っ!」

 あまりの恐ろしさに、気絶してしまった。

 ◇◆◇

 ピンコンッと、軽快なRINEの着信音で目が覚めた。
 気が付くと、硬い廊下の床にうつ伏せで倒れていた。

「ん……あれ?」

 スマホのライトを点けて、周りを見渡す。
 え~っと……あの変なのに捕まって、どうなったんだっけ?
 なんで、廊下で寝てたんだ?

 そういえばさっき、RINEの着信音が聞こえたような。
 RINEアプリを開いてみると、由紀からメッセージが着ていた。

『エレベーター』
「エレベーター?」

 首を傾げながらも、エレベーターホールへ向かう。
 怖いぐらい、辺りは静まり返っている。
 聞こえるのは、僕の足音だけだ。

 そういえば、殺人鬼は一体なんだったんだろう?
 あれは、夢だったのだろうか?

 エレベーターホールに行くと、エレベーターのドアが開いていた。
 停電でエレベーターは、止まっている。
 閉じ込められた誰かが、無理矢理こじ開けて脱出したのかな。

 エレベーターの中を覗き込むと、ムッと鼻を突く嫌な臭い。
 管理人室で嗅いだのと、同じ臭い。

 見たくないのに、どうしても確認せずにはいられない。
 僕は確認しないと、いつまでもずっと気になり続けてしまう性格だから。
 僕の手が勝手に動いて、エレベーター内をスマホのライトで照らす。

 何かが、ある。
 それを確かめようと、近付いていく。
 エレベーター内の壁と床は、おびただしい真っ赤な血が飛び散っている。

 誰かが、壁に寄り掛かって座っている。
 暗くて、誰かは分からない。
 もう少し近付いてみる。
 見た瞬間、頭の中で何かが砕けた。

「ああああああああああああ……っ!」

 由紀は鋭い刃物と思われるもので、ズタズタにされて全身傷だらけだった。
 カッと見開かれた目は瞳孔どうこうが開き切り、どこも見ていない。
 どうして、こんなことに。

「あ゛ぁああぁぁあああ……っ!」

 喉から勝手に出てくる悲鳴が止まらない。
 体に力が入らない。
 後ろから、近付いてくる足音が聞こえる。
 廊下に響き渡る笑い声。

 振り返らなくても分かる。
 いや、分かっているから振り返れない。
 捕まったら、殺される。
 いやだ、あんな殺され方したくない。
 楽しそうに笑う殺人鬼から、必死に逃げた。

 またピンコンッと、RINEの着信音が鳴った。
 開いてみると、香織からメッセージが着ていた。

『談話室』

 さっきと同じように、場所を示しているだけ。
 香織なら、スタンプや絵文字を多用するのにそれがない。
 まさか、香織も……?

 確かめる為に、談話室へ向かった。
 香織は、ソファに座っていた。
 オフホワイトのソファは、赤に塗り替えられていた。
 由紀と同じように、体をズタズタに切り裂かれていた。

 また足音と笑い声が、近付いてくる。
 由紀と香織が、殺されてしまった。
 陽子は? 優は? ふたりは無事なのか?

 ピンコンッと、RINEの着信音が鳴った。
 震える手で確認すると、陽子からだった。

『多目的室』

 まただ。
 また、場所だけ。
 怖いけど、確認せずにはいられない。

 メッセージ通り、陽子は多目的室にいた。
 由紀と香織と同じように体を切り裂かれ、血をぶちまけて死んでいる。
 さらに腹を大きく切り開かれて、中身が出ていた。
 今まで見た中で、一番グロい死体だった。
 あまりのグロさとむせかえるような血生臭さに、気持ち悪くなって吐いてしまった。

 あとは、優だけだ。
 優まで殺されたら、僕はもう生きていけない。
 お願いだから、優だけは生きていて。
 祈りながら、優の部屋へと駆け込む。

「優っ!」

 しかし、優の姿はなかった。
 僕は半狂乱はんきょうらんになって、室内を探し回る。

「優! なんでっ? なんでいないのっ? ねぇ、どこなのっ? 優っ!」

 クローゼット、ベッドの下、机の下、ゴミ箱の中まで探した。
 人間はパニック状態になると、とんでもない行動を起こす。
 僕の呼び掛けに答えるように、スマホがピンコンッと着信音を発した。

「きゃあっ!」

 ビクッと、飛び上がる程ビックリした。
 普段ならなんでもない音にも、過剰反応かじょうはんのうしてしまう。 
 恐る恐る、RINEのメッセージを確認する。
 送信相手は、優だ。

『ランドリールーム』

 それが何を意味するか、瞬時に理解した。
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