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地球侵略計画(中編)
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男……名前がないと不便なので、宇宙人の頭文字Uをとってユウと名づけた彼と、土曜日はずっと部屋にいた。
まずは言葉を理解してもらうためにどうしようかと考えた。「文字は読めるのか」と訊くと「変換できる」と言ったので、押し入れから分厚くて重い辞書を引っ張り出して渡したのだ。
宇宙人に知識を与えてもいいものか、最初は悩んだが、一切の情報を遮断して閉じこめるわけにもいかない。ここにいる以上、規則を知り、見聞を深めることは必要である。
辞書を受け取ったユウは、ページをめくって、恐ろしい集中力で見ていた。
宇宙人だというユウは食事をとらない。水分も不要らしく、体はなんでできているのか訊くと、またもや…………という物質だと、聞き取れない言葉を発した。
なんでも、見た目は人間に作ったが、中はまるで違うらしい。そう、ユウは作られたと言っていた。
食事も水分も必要ないが、稼働できる時間は十二時間が限度らしく、電池が切れたように目を閉じる。いきなり倒れたときは相当驚いた。
睡眠なのか休息なのかわからないが、目を閉じている間は十二時間で、一日の半分をそうして過ごした。
動くためのエネルギーはどうやって作るのかと訊けば、空気に含まれる窒素となんとかという物質を取りこんでどうこう言っていて、高輝にはよくわからない。
あとはテレビを見せた。主に子供向けの番組やニュースなど、ためになりそうなものを片っ端から流した。
ユウの性格は一言でいえば純真。疑うことを知らず、また訊かれたことは何でも答え、子供のように無邪気に振舞う。他の星からやってきて、地球を侵略しようとする宇宙人にはとてもではないが見えない。最初犯されたときは恐怖しか感じなかったが、一日一緒にいて、任務とか言い出さない限り人畜無害な存在だと知った。
構えていた共同生活も、ユウが純粋な性格もあって、聞き分けがよく、高輝が注意したことはちゃんと覚えてくれるので、問題ない。また食べない飲まない体は、必要以上に気を使う必要もなく、稼働時間も少ないせいで高輝と暮らしていく分には悪くないように思えた。
そして、日曜日、体験学習として外に連れ出したのだ。
「コウキ、あれはなんだ?」
ユウは、わからないものはなんでも指をさして訊ねる。
眩しさに手で光を遮って空を見上げると、米粒ほどの光る小さなものがゆっくりと右へと移動しているのが見えた。
「あれは飛行機だ。俺たちは遠い場所へ行くために、飛行機に乗って上空を移動する。めっちゃ目がいいな」
「俺の目はどこまでも見える。飛行機……なるほど、地球を一周すると約四万キロ。地球人の歩く速度は遅い。走っても遅い。自動車もこの程度だ」
通り過ぎる車を見て、ユウがふらふらと後を追いそうになるのを、高輝が腕を掴んで止める。表情がわかりづらいので一見落ち着いているようにも見えるが、大きな目はさらに大きく開かれてキラキラしている。興奮しているのだ。見るものすべてがはじめての赤ん坊の状態だから仕方ないが「絶対に側を離れるな」と「俺が言ったら従うこと」この二点だけは必ず守るように言いつけたつもりだ。
掴まれたことにはじめて気づいて、ユウは足を止めた。
「約束……破った」
声が心なしか落ちこんでいる。
「いいよ。次からは気をつけよう」
「気をつける」
そう言いつつも、ユウはきょろきょろと忙しなく首を動かして至る所に目を向けている。目を離した隙にどこかに行ってしまいそうなので、高輝はユウの手を握り締めた。
「これは?」
ユウは握られた手を持ち上げる。
「こうしたら、遠くに行けない」
無言で握られた手を前に後ろに動かして、ユウは子供のような真似をする。
その様子を高輝だけでなく、通り過ぎる人たちがちらちらと見ている。主に女性たちは一度目を逸らした後、ユウの容姿に驚いたように二度見してくる。ひそひそと囁かれる言葉が耳に入り、高輝はユウの手を引いて足早に歩き出した。
「食事はしなくてもいいって聞いたけど、食べたり飲んだりすること自体はできない?」
「わからない。したことがない」
「歯も舌もあるんだよな」
「ある」
産まれたばかりの赤ん坊でも、自ずと母乳を飲むことを知っている。だからできないことはないかもしれないが、何かを食べたり飲んだりして苦痛に感じたら対処できない。
外に出たのだから、店に入って飲み物を頼んだり食べたりする経験もさせてあげたいと思ったが、確証を持ってからのほうがいいだろう。無理にはできない。
それならまずは服だ。今は高輝の服を着せているが、Tシャツもハーフパンツも体に合っていない。
ファストファッション店を何店舗か回り、ユウの下着と服、靴を買った。何を着ても無難に着こなせてしまうのだから、カラーやデザインにこだわらず、シンプルで着やすそうなものだけを買った。あとは、高輝の食料品を買いにスーパーとドラッグストアに行ってアパートに戻る。
慣れないユウを連れての買い物は、興味津々の子供を連れて歩くようなもので疲れたが、いい経験にはなったようだ。
電車の乗りかたや、店に入って服や食料品の買うまでの流れは理解したと思う。人間がどうやって生活して、どのような行動をするのか、全てではないが一通り見せた。
ユウは利口で一度説明を聞くと、ちゃんと理解する。わからない言葉があれば、その場ですぐに質問するなど、行動はともかく頭の部分では模範となる学生そのものだ。
アパートに帰ると、腹が空いていたので買ってきた惣菜を食べてビールを飲む。その様子をユウはただ眺めていた。
「地球人は、常に飲んで食べないといけない?」
膝に辞書を広げ、テレビを見ながら、ユウが訊ねる。テレビには芸人が飲食店に入って美味しそうに料理を頬張っている姿が映っている。
「そうでもないんだよ。栄養を摂るために食べたり飲む必要はあるけど、ただ単に味を楽しんだり、食べることが好きな場合もある」
「ふうん? 味とはなんだ?」
「味……味なあ。説明しづらいな」
砂糖を知らない子供に味は説明できない。それと一緒だ。
「ユウ、舌を出せ」
高輝が言うと、ユウは大人しく舌を出す。人間と変わらない色と形。醤油を一滴垂らした指をユウの舌に触れる。
「食べてみて」
ユウは口を閉じて動かしていたが、よくわかっていない様子だ。
「どう?」
「変な気がする」
「唾液はあるよな?」
「ある」
「口に含んだら変な味がするだろう?」
「これは味?」
「そう」
無表情無言で口の中をくちゅくちゅしていたユウは、やはり理解できないようだ。そのうち、塩や砂糖を摘まんでは、口の中に入れて「うーん」と言いながら味を探りだした。
「そういえば、コウキの舌。なんとなくよかった」
「俺の舌?」
「ぬるぬるしていて、ふわっとする」
何を言っているのかと思ったら、ユウとはじめて出会ったときにキスをされた。そのことを言っているのだ。
ユウは急に高輝ににじり寄ってきた。
「コウキの味をちゃんと知りたい」
好奇心があるときは、躊躇いもなく口にして行動に移す。ユウは高輝の唇に触れようとした。寸前のところで手で遮る。
「止まれ。言い忘れたことがある」
「なんだ?」
ユウが高輝の手を掴み、口から退かす。
「唇と唇が触れる行為をキスとか口づけとか言うんだけど、親しい人や恋人としかしない」
「恋人……それは、愛し合うと関係ある?」
「ある」
「俺はコウキと愛し合うになっている途中だ」
与り知らないところで関係性が一気に飛躍した。ユウの中では高輝とすでに関係がはじまっているらしい。
「したい」
ユウは自分に忠実だ。
どうやってかわそうか悩んでいたが、あまりにもじっと見つめるので、口づけぐらいいいかと渋々「ほら」と言って舌を出す。
ユウは、餌にかぶりつく犬のようにすぐに吸いついてきた。舌を絡めて、高輝の味を確かめるように口を動かしている。
「ちょ……ちょっと待て。一旦やめろ」
唾液がしたたり落ちて、慌てて体を引いた。手で顎を拭い、混じり合った唾液を飲みこんで大きく息を吐く。
頭がぼうっとして心なしか体温が高くなったような気がする。暑いのだ。あと、口の中が異様にねばねばしている。ユウの唾液は無味ではあったが、人とは違い粘度が高い。何度飲みこんでも喉にはりつくような感覚が残る。
醤油を口に入れたときと同じようにもごもごと口を動かしていたユウに、高輝は自分の舌に触れて言った。
「ユウの唾液、何か違う」
「成分が違う」
「え? 俺、飲んじゃったけど大丈夫?」
「問題ない。ただ発情するだけだ」
問題ないと言いながらも、一番問題がある発言をさらりと言う。
「発情……?」
「前もそうだった」
ぼやけそうになる頭を振りながら、高輝ははじめて抱かれたときを思い出した。抵抗もできずにただ犯された。
徐々に頭が前に後ろに傾く。やばい。酔っているかのように体に力が入らなくなる。
ずるずると体が後ろに崩れて床に平行になった高輝をユウが覗きこんだ。
「お前……わかってて飲ませたな……」
恨みがましげに呟けば、ユウは少し目を細めて口角をあげた。
「コウキの味が知りたかっただけだ。結果的に飲んだのは……手違い? のようなものだ。故意ではない」
高輝の体のラインを服の上から撫でたユウは「強姦はだめ。嫌われる」と自戒するように言った。ユウは自分のしていることを自覚している。少しだけほっとしたが辿る指は高輝の下半身に向かっている。
「そうだ。強姦は嫌われるんだぞ」
言い聞かせるように告げると、やっと指が離れる。ガラスの目を高輝に据えて、ユウは訴えた。
「俺は子供を作らなければならない。コウキに協力してほしい」
真っ直ぐな物言いはいっそ清々しい。でも簡単に頷けるものではない。かといって突っぱねて他の人に目を向けるようになっても困る。
こういう駆け引きも楽しめるだけの経験も余裕もない高輝は、焦りつつ言った。
「子供を作るには性交以外にも愛が必要だと言っただろ」
「俺とコウキは愛の途中だ。愛は性交も必要だと知った」
睨むと、ユウも真似して高輝を睨みつけてくる。
「どこで知った?」
「テレビだ。地球人は触れ合うことで幸せになれる。幸せは愛につながると言っていた」
「一体なんの番組なんだよ」
ぶつぶつ愚痴を言いつつ、ため息を吐く。
「間違いなのか?」
「間違いじゃない。間違いじゃないけど……」
ここからどうやって拒否していけばいいのか悩む。ずっとは拒めないだろうし、ある程度は体を許さないといけないと理解していた。そうしなければ、怪しまれる可能性もある。
もし、男同士でいくら性交しても子供はできないと知ったら、ユウはどんな行動に出るだろう?
「コウキは優しい。俺に色々なことを教えてくれる。だから愛も教えてほしい」
感情がない青い目に、一瞬何かが過ったような気がした。それは欲望だったのかもしれないし、懇願だったのかもしれない。すぐに隠れてしまったのでわからないが、少なくとも色々な感情が芽生えているのは確かだ。
高輝は諦めて手を伸ばす。そして引き寄せるようにユウの体を抱きしめた。
まずは言葉を理解してもらうためにどうしようかと考えた。「文字は読めるのか」と訊くと「変換できる」と言ったので、押し入れから分厚くて重い辞書を引っ張り出して渡したのだ。
宇宙人に知識を与えてもいいものか、最初は悩んだが、一切の情報を遮断して閉じこめるわけにもいかない。ここにいる以上、規則を知り、見聞を深めることは必要である。
辞書を受け取ったユウは、ページをめくって、恐ろしい集中力で見ていた。
宇宙人だというユウは食事をとらない。水分も不要らしく、体はなんでできているのか訊くと、またもや…………という物質だと、聞き取れない言葉を発した。
なんでも、見た目は人間に作ったが、中はまるで違うらしい。そう、ユウは作られたと言っていた。
食事も水分も必要ないが、稼働できる時間は十二時間が限度らしく、電池が切れたように目を閉じる。いきなり倒れたときは相当驚いた。
睡眠なのか休息なのかわからないが、目を閉じている間は十二時間で、一日の半分をそうして過ごした。
動くためのエネルギーはどうやって作るのかと訊けば、空気に含まれる窒素となんとかという物質を取りこんでどうこう言っていて、高輝にはよくわからない。
あとはテレビを見せた。主に子供向けの番組やニュースなど、ためになりそうなものを片っ端から流した。
ユウの性格は一言でいえば純真。疑うことを知らず、また訊かれたことは何でも答え、子供のように無邪気に振舞う。他の星からやってきて、地球を侵略しようとする宇宙人にはとてもではないが見えない。最初犯されたときは恐怖しか感じなかったが、一日一緒にいて、任務とか言い出さない限り人畜無害な存在だと知った。
構えていた共同生活も、ユウが純粋な性格もあって、聞き分けがよく、高輝が注意したことはちゃんと覚えてくれるので、問題ない。また食べない飲まない体は、必要以上に気を使う必要もなく、稼働時間も少ないせいで高輝と暮らしていく分には悪くないように思えた。
そして、日曜日、体験学習として外に連れ出したのだ。
「コウキ、あれはなんだ?」
ユウは、わからないものはなんでも指をさして訊ねる。
眩しさに手で光を遮って空を見上げると、米粒ほどの光る小さなものがゆっくりと右へと移動しているのが見えた。
「あれは飛行機だ。俺たちは遠い場所へ行くために、飛行機に乗って上空を移動する。めっちゃ目がいいな」
「俺の目はどこまでも見える。飛行機……なるほど、地球を一周すると約四万キロ。地球人の歩く速度は遅い。走っても遅い。自動車もこの程度だ」
通り過ぎる車を見て、ユウがふらふらと後を追いそうになるのを、高輝が腕を掴んで止める。表情がわかりづらいので一見落ち着いているようにも見えるが、大きな目はさらに大きく開かれてキラキラしている。興奮しているのだ。見るものすべてがはじめての赤ん坊の状態だから仕方ないが「絶対に側を離れるな」と「俺が言ったら従うこと」この二点だけは必ず守るように言いつけたつもりだ。
掴まれたことにはじめて気づいて、ユウは足を止めた。
「約束……破った」
声が心なしか落ちこんでいる。
「いいよ。次からは気をつけよう」
「気をつける」
そう言いつつも、ユウはきょろきょろと忙しなく首を動かして至る所に目を向けている。目を離した隙にどこかに行ってしまいそうなので、高輝はユウの手を握り締めた。
「これは?」
ユウは握られた手を持ち上げる。
「こうしたら、遠くに行けない」
無言で握られた手を前に後ろに動かして、ユウは子供のような真似をする。
その様子を高輝だけでなく、通り過ぎる人たちがちらちらと見ている。主に女性たちは一度目を逸らした後、ユウの容姿に驚いたように二度見してくる。ひそひそと囁かれる言葉が耳に入り、高輝はユウの手を引いて足早に歩き出した。
「食事はしなくてもいいって聞いたけど、食べたり飲んだりすること自体はできない?」
「わからない。したことがない」
「歯も舌もあるんだよな」
「ある」
産まれたばかりの赤ん坊でも、自ずと母乳を飲むことを知っている。だからできないことはないかもしれないが、何かを食べたり飲んだりして苦痛に感じたら対処できない。
外に出たのだから、店に入って飲み物を頼んだり食べたりする経験もさせてあげたいと思ったが、確証を持ってからのほうがいいだろう。無理にはできない。
それならまずは服だ。今は高輝の服を着せているが、Tシャツもハーフパンツも体に合っていない。
ファストファッション店を何店舗か回り、ユウの下着と服、靴を買った。何を着ても無難に着こなせてしまうのだから、カラーやデザインにこだわらず、シンプルで着やすそうなものだけを買った。あとは、高輝の食料品を買いにスーパーとドラッグストアに行ってアパートに戻る。
慣れないユウを連れての買い物は、興味津々の子供を連れて歩くようなもので疲れたが、いい経験にはなったようだ。
電車の乗りかたや、店に入って服や食料品の買うまでの流れは理解したと思う。人間がどうやって生活して、どのような行動をするのか、全てではないが一通り見せた。
ユウは利口で一度説明を聞くと、ちゃんと理解する。わからない言葉があれば、その場ですぐに質問するなど、行動はともかく頭の部分では模範となる学生そのものだ。
アパートに帰ると、腹が空いていたので買ってきた惣菜を食べてビールを飲む。その様子をユウはただ眺めていた。
「地球人は、常に飲んで食べないといけない?」
膝に辞書を広げ、テレビを見ながら、ユウが訊ねる。テレビには芸人が飲食店に入って美味しそうに料理を頬張っている姿が映っている。
「そうでもないんだよ。栄養を摂るために食べたり飲む必要はあるけど、ただ単に味を楽しんだり、食べることが好きな場合もある」
「ふうん? 味とはなんだ?」
「味……味なあ。説明しづらいな」
砂糖を知らない子供に味は説明できない。それと一緒だ。
「ユウ、舌を出せ」
高輝が言うと、ユウは大人しく舌を出す。人間と変わらない色と形。醤油を一滴垂らした指をユウの舌に触れる。
「食べてみて」
ユウは口を閉じて動かしていたが、よくわかっていない様子だ。
「どう?」
「変な気がする」
「唾液はあるよな?」
「ある」
「口に含んだら変な味がするだろう?」
「これは味?」
「そう」
無表情無言で口の中をくちゅくちゅしていたユウは、やはり理解できないようだ。そのうち、塩や砂糖を摘まんでは、口の中に入れて「うーん」と言いながら味を探りだした。
「そういえば、コウキの舌。なんとなくよかった」
「俺の舌?」
「ぬるぬるしていて、ふわっとする」
何を言っているのかと思ったら、ユウとはじめて出会ったときにキスをされた。そのことを言っているのだ。
ユウは急に高輝ににじり寄ってきた。
「コウキの味をちゃんと知りたい」
好奇心があるときは、躊躇いもなく口にして行動に移す。ユウは高輝の唇に触れようとした。寸前のところで手で遮る。
「止まれ。言い忘れたことがある」
「なんだ?」
ユウが高輝の手を掴み、口から退かす。
「唇と唇が触れる行為をキスとか口づけとか言うんだけど、親しい人や恋人としかしない」
「恋人……それは、愛し合うと関係ある?」
「ある」
「俺はコウキと愛し合うになっている途中だ」
与り知らないところで関係性が一気に飛躍した。ユウの中では高輝とすでに関係がはじまっているらしい。
「したい」
ユウは自分に忠実だ。
どうやってかわそうか悩んでいたが、あまりにもじっと見つめるので、口づけぐらいいいかと渋々「ほら」と言って舌を出す。
ユウは、餌にかぶりつく犬のようにすぐに吸いついてきた。舌を絡めて、高輝の味を確かめるように口を動かしている。
「ちょ……ちょっと待て。一旦やめろ」
唾液がしたたり落ちて、慌てて体を引いた。手で顎を拭い、混じり合った唾液を飲みこんで大きく息を吐く。
頭がぼうっとして心なしか体温が高くなったような気がする。暑いのだ。あと、口の中が異様にねばねばしている。ユウの唾液は無味ではあったが、人とは違い粘度が高い。何度飲みこんでも喉にはりつくような感覚が残る。
醤油を口に入れたときと同じようにもごもごと口を動かしていたユウに、高輝は自分の舌に触れて言った。
「ユウの唾液、何か違う」
「成分が違う」
「え? 俺、飲んじゃったけど大丈夫?」
「問題ない。ただ発情するだけだ」
問題ないと言いながらも、一番問題がある発言をさらりと言う。
「発情……?」
「前もそうだった」
ぼやけそうになる頭を振りながら、高輝ははじめて抱かれたときを思い出した。抵抗もできずにただ犯された。
徐々に頭が前に後ろに傾く。やばい。酔っているかのように体に力が入らなくなる。
ずるずると体が後ろに崩れて床に平行になった高輝をユウが覗きこんだ。
「お前……わかってて飲ませたな……」
恨みがましげに呟けば、ユウは少し目を細めて口角をあげた。
「コウキの味が知りたかっただけだ。結果的に飲んだのは……手違い? のようなものだ。故意ではない」
高輝の体のラインを服の上から撫でたユウは「強姦はだめ。嫌われる」と自戒するように言った。ユウは自分のしていることを自覚している。少しだけほっとしたが辿る指は高輝の下半身に向かっている。
「そうだ。強姦は嫌われるんだぞ」
言い聞かせるように告げると、やっと指が離れる。ガラスの目を高輝に据えて、ユウは訴えた。
「俺は子供を作らなければならない。コウキに協力してほしい」
真っ直ぐな物言いはいっそ清々しい。でも簡単に頷けるものではない。かといって突っぱねて他の人に目を向けるようになっても困る。
こういう駆け引きも楽しめるだけの経験も余裕もない高輝は、焦りつつ言った。
「子供を作るには性交以外にも愛が必要だと言っただろ」
「俺とコウキは愛の途中だ。愛は性交も必要だと知った」
睨むと、ユウも真似して高輝を睨みつけてくる。
「どこで知った?」
「テレビだ。地球人は触れ合うことで幸せになれる。幸せは愛につながると言っていた」
「一体なんの番組なんだよ」
ぶつぶつ愚痴を言いつつ、ため息を吐く。
「間違いなのか?」
「間違いじゃない。間違いじゃないけど……」
ここからどうやって拒否していけばいいのか悩む。ずっとは拒めないだろうし、ある程度は体を許さないといけないと理解していた。そうしなければ、怪しまれる可能性もある。
もし、男同士でいくら性交しても子供はできないと知ったら、ユウはどんな行動に出るだろう?
「コウキは優しい。俺に色々なことを教えてくれる。だから愛も教えてほしい」
感情がない青い目に、一瞬何かが過ったような気がした。それは欲望だったのかもしれないし、懇願だったのかもしれない。すぐに隠れてしまったのでわからないが、少なくとも色々な感情が芽生えているのは確かだ。
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