アムネーシス 離れられない番

山吹レイ

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確信的な行為

 下駄箱で靴を履き替えようと屈んだ際、くらりと眩暈が襲った。俺は目を閉じてじっと動かずにおさまるのを待った。発情期の予兆だ。
 次いで、体の疼きと熱を覚え、落ち着かせるように大きく息を吸った。もう三か月経ったのかと思うと意外と早く感じる。
 眩暈がおさまったので、目を開けてゆっくりと上半身を起こした。
 下校する時でよかったと思う。朝なら授業に全く集中できなかった。フェロモンは漏れているだろうが、周囲のアルファを刺激しない分、落ち着いて対応ができる。番になって唯一よかったと思える点だ。
 この後、どうしようかと悩んで、靴を履き替えて学校を出る。
 平仁の元に行くのがいいのだろうが、俺はあの日から胸に蟠るもやもやを抱えていて、こんな状態で会いたくない。
 今日は初日だから多分耐えられる。でも明日以降、急にスイッチが入ったりしたら、また平仁の元に駆けこんで迷惑をかけてしまうのは目に見えていた。
 どうせ行くしかないのなら落ち着いているうちに行動するほうがいい。わかっているが、俺の足は重石をつけているかのように鈍く重い。
 自分の気持ちに整理もつけられない、行きたくない、となれば、足は自然と止まる。
 空を見上げて流れていく雲をぼんやり眺めていると急にひらめいた。
 あいつのところに行けば、何かあっても対応できるだろうし、平仁のマンションに行くよりはマシという結論にたどり着いて、踵を返して、いつもとは違う方向へと向かった。


 耳からイヤホンを抜き、立て付けの悪い引き戸を引いて中に入ると、消毒薬の匂いが鼻につく。
 衝立の向こうには患者がいるのか、生吹と誰かの話し声が聞こえる。俺は声をかけるのを憚った。
 出直した方がいいだろうかと思ったが、生吹が背伸びをして衝立の上から俺の姿を確認したので、もう少し留まっていようと携帯電話を弄る。ややして、衝立の向こうから柄の悪そうな男が足を引きずって出てきた。
 携帯電話を弄りながら、男が通り過ぎるのを待った。視線を感じながらも男が出て行きドアが閉められると、やっと携帯電話をしまい、顔を上げた。
「どうした?」
 生吹が目の前まで来ると、素早く俺の全身を見渡した。こういう所が元医者なんだろうなと思う。
 理由なく訪れる場所でも相手でもないのはわかっているので、俺はどう答えようかと考えを巡らせた。
「コーヒーでも飲む?」
 生吹はそれ以上問うことはなく、俺を衝立の向こうに招き入れた。大人しく椅子に座り、相変わらずの簡素なベッドやうさん臭い禁煙のポスターを見るとはなしに見て、渡された缶コーヒーを受け取る。
 ここは診療所の看板も何もない二階建てのビルの一室でしかない。二階は生吹の部屋があるらしいが、察してはいても奴の生活や生業を詳しく訊いたことはなかった。
 缶コーヒーに口をつけようとしたら、いきなり生吹が俺の額に手を当てた。目をしっかり見つめられて、見透かされそうな瞳に思わず目を逸らす。
「熱があるのかなと思ったけど……もしかして発情期?」
「あー……」
 この場を濁そうとしたが、生吹は目を泳がせる俺の反応でわかったらしい。
「なんのための番さ。おおかた平仁のところに行きたくなくてここに来たんだろうけど、意味ないからね」
 生吹もオメガであるだけに容赦がない。というより、誰よりもオメガの発情期の苦しさをわかっているから、こういう場合厳しく接するのだろう。
 向かい側の椅子に座った生吹は携帯電話を取り出した。
「俺から連絡入れようか?」
 放っておかれるのかと思っていれば、渋っている俺を後押しするようなことを言うので慌てて「やめてくれ」と訴えた。
「あの無口な平仁と喧嘩って意外なんだけど」
「喧嘩じゃない。俺の問題」
 コーヒーを一口飲んで素っ気なく言うと、生吹は呆れたように言い返した。
「面倒くさいこと考えてないで、体が赴くままいけばいいんだよ。なんだかんだいって、それが一番落ち着くんだから」
「あーもう! 煩いな!」
 声を荒げて立ち上がる。髪をかき乱してうろうろと歩き回った。
「意地を張ったっていいこと一つもないんだから。で、何が問題なわけ?」
 携帯電話を弄りながら生吹がさも興味なさそうに訊いてくる。俺は立ったまま生吹を見つめて口を噤む。
 生吹が携帯電話をポケットにしまい見上げた。その顔が真剣だったので渋々口を開いた。
「……あいつの考えていることがわからない」
 ため息交じりに吐露すると、生吹はしばらく目を閉じ無言で首をぐりぐりと至る方向に動かしていたが、けだるそうに目を開けて天井を見上げる。
「訊いてみたら? 叶人は平仁を怖がらない珍しい人種だと思ったけど?」
「訊けたらこんな苛々しない」
「何かきっかけがあってそう思った?」
「お前が……つーか、もとはと言えばお前が……!」
 声を荒げると心外だとばかりに生吹は肩を竦めた。
「俺? 叶人に対して感謝されることしかしてないよ。もしかして、妊娠してるかの確認のやつ? あれは言われて準備しただけ。あんなことがあったんだし、ちゃんと確認はしたほうがいい。あとから妊娠したとわかって大変なことになっても困るでしょ」
「そうだけど! あの時すっげーもやもやしたんだよ」
「何、子供欲しかったの?」
「違う!」
 これには本気で怒った。
「という冗談は置いといて……そんなことで苛々してたらこの先やってられないよ。平仁は言葉よりも行動で示すタイプだし。そこを間違わなければ、やっていけるんじゃない」
 俺にだってそのくらいわかる。何も考えずにただ平仁の側にいたわけではない。生吹はのほほんと続ける。
「側にいることを許されてるってだけで大きいと思うけどなあ。平仁の許容範囲って滅茶苦茶狭いし、なんとも思わない相手は切り捨てるタイプだよ。だから、番とか高校生の男子って……はじめて聞いたとき、耳を疑ったよ。マンションの出入りも許されてて、看病も甲斐甲斐しいほどまめにしてくれる。なんか発情期の時もつきっきりだったんだって? あの平仁が信じられない」
 平仁は俺に献身的だが、誰にでもそうするとは思えない。それを『許されている』と表すなら、俺は平仁の特別な相手ということになる。ただそれを感じたことはあまりない。
「人間って自分の利になることしかしたくないよね。それ以外って言ったらさ、気持ちが動く相手しかないじゃない?」
 俺は押し黙って考えこんでしまった。おもむろに携帯電話の震える音がする。
 生吹が携帯電話を持って立ち上がった。
「ということで、迎えを呼んでおいたから」
「は?」
 なんのことかと思っていれば、生吹がおもむろに引き戸を開けた。衝立の隙間から顔を出して覗けば、ちょうど車が停まり運転席から平仁が出てきたのが見えた。生吹と二言三言言葉を交わして、俺のほうに視線を向けたので慌てて隠れる。
「逃げ隠れなんて似合わないよ。らしくない。ほら行きなよ」
 生吹が俺の腕を引っ張って引きずり出した。「ちょっと待て! いやだ」という抵抗は、近づいてきた平仁の姿に威勢を失っていく。
 俺の前に来るとおもむろに平仁は俺の腰に腕を回し、軽く持ち上げるようにしてずるずると引きずった。誰も彼もが簡単に扱うのが腹立たしい。
 平仁は車の助手席に押しこむように乗せるとシートベルトを締め、俺の頬に手を当てた。平仁に触れられただけで体温が上がる。どくんと跳ね上がった心音を悟られないように目を伏せて、顔を背けようとする。
 すぐに手が離れ、ドアが閉められると、運転席に平仁が乗った。平仁がハンドルを握る姿をはじめて見て、そういえばいつも乗っている車とは違うことに気づいた。
 車が動き出したので、にやりと笑って手を振る生吹に思いっきり顔を顰めてやる。
 俺は密閉された車内に息苦しさを感じて、少しだけ窓を開けた。流れる景色を見ながら、心は平静から程遠いほど乱れていた。平仁の方を見られない。
 盗み見るように窓に映った平仁の姿を見て、小さなため息をついたそのときだった。
「気分が悪いか?」
 珍しく平仁が話しかけてきたので、驚いて思わず隣を見る。すぐさま顔を逸らしたが、目はばっちりと合った。
 いつもと違うことをされると調子が狂う。
「そうでもない。はじめの日は……それほどでもないから」
 気まずさを感じながらも、心配されるくすぐったさに、つい安心させるような言葉が口から出た。先ほどまで会いたくないと思っていたのに、こんな風に話しかけられたら悪い気はしない。
 いきなりぬっと手が伸びてきた。項を撫でられて思わず飛び上がる。平仁は俺の反応を見て僅かに口角を上げた。本当に一瞬のことだったので我が目を疑ってしまったが、またしてもすぐに消えてしまった笑みに、この顔を継続させるにはどうしたらいいのかと考えてしまう。今日は機嫌がいいからなのか、ただ面白かっただけなのか判断すらつかない。
 俺は自分の苛立ちを押しこめて、躊躇いがちに口を開いた。
「生吹から連絡がいったから来たんだろ? 悪かった」
「気にしてない」
 返事は、その表情と同じように感情の抑揚がない。いつものことではあったが、話してくれるだけで、気持ちを聞かせてくれるだけで本心を知ることができる。気にしてないと言うなら、本当に気にしていないのだ。
 だから、もう少し踏みこんで、気持ちを探ってみる。
「俺……迷惑じゃない?」
 普通なら面倒事でしかないのに、こうして迎えに来てくれるのはどうしてなのか知りたい。
「お前は俺の番だ」
 それは意外な言葉だった。義務や規則といったとらわれ事を誰よりも嫌っていそうな平仁が、番という理由で俺の世話を焼くのはあり得ないような気がした。でも嘘にも聞こえないのだ。
 車は平仁のマンションの地下にある駐車場に入った。薄暗い場内を、ヘッドライトをつけてゆっくり進んでいく。
 俺は考えながら、胸にあるもやもやを吐き出すように言った。
「オメガは番になったら相手のアルファに依存するしかないけど、アルファは違う」
 俺はこの先、発情期が来るたびに番である平仁を求め続ける。迷惑をかけ続けるだろう。平仁以外、体の疼きを癒してくれる相手はいないからだ。ただ、平仁は俺にかかわらずとも生きていける。番になったからといって、発情期もないアルファは行動に制限されない。最悪、放置できる。俺は平仁に放っておかれたら、発情期のたびに番が側にいない苦しさに苛まされるが、平仁は俺が側にいなくても普通の生活を送れる。
 アルファはずるい。番になることによって、双方が縛られているように思えるが、実際首に鎖がかけられているのはオメガだけで、アルファは手綱を握っているのだ。
 平仁は駐車スペースにスムーズに車を停めて、エンジンを切った。
「俺は気にいっている」
 平仁の言葉に俺は驚きのあまり、まじまじと横顔を見つめる。まさか、そんなことを考えているとは思ってもみなかった。
 ヘッドライトが消えると一気に車内が暗くなったような気がした。
「平仁にとって俺って……番って何?」
 訊くのが怖いような気がしたが、今このタイミングで訊かなければ、ずっと訊けないような気がした。
「永遠に離れない関係。生涯俺だけの伴侶」
 静かな声が俺の胸にずっしりと重りのように沈んでいく。驚いて見上げる俺の頤を掴んだ平仁は、身を乗り出してゆっくりと唇を重ねた。


 狭いエレベーターの中で、ズボンを太ももまでずり下げたまま後ろを長い指で探られ、俺は平仁の胸に凭れて喘いだ。
 車であんなことを言われたから冷静に考えたいのに、その隙を奪うかのように、エレベーターに乗った瞬間、体を引き寄せられ唇を奪われた。
 こうなってしまうと、もう何も考えられない。せめて発情期の初日はまだ普通に振舞えると思っていたのに、平仁に触れただけで熱に犯されたように一気に発情した。
 あられもない姿で前を勃起させてしがみつく俺に対し、平仁は、前は硬くなっているもののスーツの乱れもなく、楽しんでいる様子で唇を重ねてくる。
 浅い場所を悪戯するかのように探っていた指が、ぐっと一気に中に入った。弱い場所を指で突かれ、こみ上げる射精感にスーツを握り締める。
 ぎゅっと膝に力をこめて耐えると、ぬるりと後ろから指が抜かれた。そのタイミングで、エレベーターがチンと鳴り止まる。誰かがエレベーターを呼んだのかと思い慌てて表示を確認すると、そこは平仁の部屋がある四十五階だった。いきなり平仁は俺を易々と肩に担ぎ上げた。
「え? 何? ちょっと!」
 エレベーターを出て行く平仁に、誰かとすれ違わないか気が気ではない。半分尻が見えている状態で、男に担がれている姿など見られたら恥ずかしくて涙が出る。それに、すれ違う相手はこの状況を何が起こったのか勘繰るだろう。犯罪と思われたら堪ったものではない。
 平仁は堂々と廊下を歩き、部屋の前まで来ると鍵を開けて、俺を担いだまま体を屈んで中に入った。誰にも会わなかったことにほっとする。
 玄関先で下ろされると思っていたが、靴を脱いだ平仁はそのまま寝室へと向かった。
 ベッドに下ろされ、軋むスプリングが優しく体を受け止める。
 目の前でスーツを脱いでいく平仁を見て、はいたままのスニーカーを脱いでおずおずと服に手をかけた。いつもならベッドにもつれこんで知らない間に服を剥ぎ取られて裸になるので、自分から服を脱ぐことに恥じらいを感じる。排泄するところを見られたこの男の前で羞恥も何もないが、いざセックスするとなるとボタンを外す指が少しだけ震えた。
 俺よりも着ている服の枚数が多い平仁が早く全裸になりサングラスも外すと、俺の足からズボンを抜き取った。下着と靴下も抜き取られて飛んでいく。
 ベッドに乗ってきた平仁が俺の片足を持ち上げたので、何をするのかと思っていたら、横になった俺の開かせた足の間に顔を埋めてきた。
 散々セックスしてきた仲だが、普段晒されることがない場所を間近で見られると、さらに羞恥心が増す。咄嗟に足を閉じたが、平仁の顔を挟んでしまった。
 慌てて足を浮かせて体をずらそうとしたが、がっちりと太ももを掴まれる。勃起している前が温かいもので包まれた。
 嘘だろ、という言葉はあまりの驚きに、喉にはりついた。
 平仁が俺のものを舐めている。奴は手で触れたことは何度もあったが、一度も俺のものを口にしたことはなかった。
 ぬめる舌と、すっぽりと包まれた感覚に尻がぷるぷると震える。
 オメガだからか俺のものは小ぶりで陰嚢も小さい。男性のオメガは男のしるしがあるにもかかわらず、その先端から出る精子に生殖機能を持たない。孕むことはあっても、誰かを孕ますことはできないのだ。
 すぐにでもいってしまいそうになり、俺は必死で耐える。
 自分だけが気持ちよくなるのも癪なので、俺は這うように体の向きを変えて平仁の硬くなっているものに手を添え、先端を口に含んだ。
 ベッドで横向きになって互いの性器を舐め合い、息遣いと淫らに舌を動かすぴちゃぴちゃという音だけが寝室に響く。
 平仁が勃起したものから口を離し、俺の尻を鷲掴みして後ろに舌を這わせた。舌先でつつかれたり、中までねじこむように侵入してくると、恥ずかしさと快感に身悶えして体を捩る。
 それを力強く掴んだ手が遮った。集中できなくなり、平仁のものを口から離した。
 体内で舌が蠢いている。肌がざわついてじっとしていられない。
 逃れようと体を動かすと、平仁がいきなり舌を抜いて俺の尻に噛りついた。
 痛みはなかったが俺はぎょっとして体を曲げる。さらに尻までねっとりと舐められて、くすぐったさに足をばたつかせた。
 力が弱まった隙に平仁から這って離れる。その足を掴まれ、また引き寄せられて、みっともなくシーツに爪跡を残して平仁の元へ戻った。
 平仁は俺を上に乗せる。逞しい胸や腹にキスを落としながら俺は上半身を起こした。
 コンドームを差し出されて、反射的に受け取ってしまったが、俺からつけたことはあっただろうか。包みを破いて、恐る恐る平仁の勃起したものに被せる。
 平仁が俺の腰を掴んで体を浮かせて宛がったので、不安定さに手をついてバランスをとった。平仁のものが入り口をついたまま、なかなかうまく入らない。
 見られている恥ずかしさに顔が赤くなったが、俺は竿を持って先端をゆっくりと体内へ迎え入れた。大きくてきつい。先端が引っ掛かって入りきるまで時間がかかったが、一度咥えこむと、あとは体重をかけてずぶずぶと飲みこむ。
 さざ波のように快感が広がっていく。足のつま先まで震えるような気持ちよさに、俺は目を閉じて甘い息を漏らした。
 根元まで入ると、奥深くまで平仁の存在を感じる。あまりに気持ちよくて、俺の先端からは先走りの汁が漏れる。じっとしながら、体内にいる平仁の熱や硬さを感じるように締めつけていると、尻をやんわりと撫でられた。
 薄目を開けてみれば、平仁は俺の様子をじっと見つめている。
 キスが欲しくて、前のめりになって首を傾けると、平仁のほうから首を伸ばし口づけをくれた。
「好きにしていい」
 耳元で囁かれた平仁の声に反応して、俺の前がぴくりと揺れる。
 このままじっと動かずにいたいような、逆に激しく打ちつけたいような、どっちつかずなじれったさを感じ、俺はぼうっとした頭で内腿を緩慢に揺らした。
 暫く根元まで埋めたまま、たゆたうような心地よさを甘受してふうと息をつく。
 そして、体内にいる平仁を馴染ませるようにゆっくりと腰を前へ後ろへと動かした。
 堪らなく気持ちがいい。
 もっと平仁の体温を感じたくて上半身を倒した。ずるりと抜ける感覚があったが、長いそれは先端が引っ掛かってかろうじて繋がっている。
 抜けそうで抜けない、入れたいのにうまく入らないもどかしさに、しがみついて身もだえていると、平仁が軽く膝を立て、俺の尻を開かせてぐっと掴んだ。一気に奥まで突かれた反動で背が撓る。
 平仁はそのまま抜いては突き上げるように下から腰を動かした。
 俺はぎゅっと首に腕を回して、動きに合わせるように腰を蠢かせる。いつもとは違う角度から突かれる快感に、濡れた内襞が誘うように平仁を締めつける。腹の奥から痺れるような大きなうねりが体を包みこんだ。
 口から唾液を滴らせて「やばい……」と呟くと、平仁は息で笑った。余裕のある顔が憎らしくて、平仁の口にむしゃぶりついた。
 貪欲に平仁の雄を咥えるそこが震えて、絶頂はもうすぐそこまできていた。
「いきそう……くるっ!」
 俺は悲鳴に似た声を上げて、びくびくと体を震わせて深い悦楽を味わった。頭が真っ白になり、平仁の大きく膨らんで達したものをきつく締めつけ体を強張らせる。
 気がつくと、平仁の体の上で陸にあがった魚のように痙攣してした。一瞬気が飛んでいたらしい。
「嘘だろ……」
 肩で息をしながら再び平仁を締めつけて喘いだ。後ろだけで達してしまった。
 射精していない俺のものは勃起を保ったまま張りつめていて痛い。それでも咥えこんだそこがじんじんして、すぐにでもまた達してしまいそうになる。
「本当にやばい……おかしくなる」
 平仁は唾液まみれの俺の唇を舐めとり、ベッドに押し倒して後ろから未だ硬いものをずるりと抜いた。
 引きずり出される感覚にすら快感が走る。
 コンドームを付け替えて、平仁は俺の足を大きく開かせて持ち上げた。
 いったばかりでまだ快感にざわついている体で、すぐには辛い。
「まだ俺……」
 いやいやをして首を横に振って抵抗する。
 平仁は逃げないように覆いかぶさり一気に貫いた。甘い余韻に痺れていた襞が、再び突かれて喜びに打ち震える。
 仰け反り息を止めると、平仁は穿ったままさらに腰を打って進めようとする。
「入んないっ……もう、入んないって!」
 根元まで入っているのにまだ腰を押しつける平仁に、手で突っぱねて腰を引こうとする。どうあがこうと平仁の体はびくともせず、足を開き、なすすべもなく、ぐりぐりと押しつけられた雄を飲みこむだけだった。
「俺だけの番」
 呟かれた台詞とともに唇を塞がれて、串刺しにされたまま平仁の背に爪を立てる。
「永遠に俺のものだ」
 いつもの乾いた声とは違う独占欲が滲んだ声音と、押さえつけられた平仁の体に囚われて、ぶるりと体を震わせた。
 平仁にとって番とは俺を打ちつける楔。
 離れようとしても『離れられない』と思っていた関係を、平仁は『離れない』と自分の意志を明言した。はじめから、俺を逃がすつもりも手放すつもりもなく、離れないようにがんじがらめにしていたのだ。
 はじめて見せた執着心を感じ不意に怖くなる。
 今までずっと隠していたのか? いや、会うたびに抱かれるたびに少しずつ確実に俺の体に心に侵食していたような気がする。発情期以外のときでも、俺の体は平仁を求めて疼くこともあった。今日のように、会いたくても会えない気持ちを持て余して悩んで憤って……それでも欲しくて触れたくて堪らなかった。
 もうどんなに抗おうとしても逃げられない。逃げることも離れることも許さないだろう。
 平仁は腰を引いて二度三度と強く抉る。
 俺は何度でもどこまでものぼりつめる高みに、振り落とされないようにしがみつくだけだった。
感想 10

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