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第一章 日常ラブコメ編

第12話 不順異性行為よ!

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 本当に不思議な事が起きた時……人間は、その思考を失うのだろう。ほんの一分前まではペチャクチャと喋っていた奴らが、今では石のように黙っている。まるでメドゥーサにでも睨まれたかのように、その口をじっと閉じていた。

 奇妙な沈黙が続く。
 
 俺はその沈黙を破るように、自分の席から立ち上がって、彼女の腕を掴み、彼女を連れて教室の中から出て行った。教室の外は、生徒達の姿で溢れていた。朝のホームルームまではまだ時間があるし、廊下で談笑するには丁度良い時間だった。
 
 俺は彼らの間をすり抜けて、誰にも見られないであろう場所、学校の屋上に向かった。学校の屋上には、やっぱり誰もいなかった。屋上の扉を閉めて、ゆっくりと深呼吸する。
 
 俺は屋上の扉に寄り掛かって、自分の頭を掻きむしった。

「はぁ」と、溜め息を一つ。

 俺は、正面の彼女を睨みつけた。

「どうすんだよ? これ」

「私は、別に気にしない」

 の言葉に苛ついたので、屋上の扉を思い切り殴ってしまった。

「俺が気にするなんだよ! 俺の鞄から、いきなり美少女が出て来てさ」

 周りの奴らにどう説明すりゃ良いんだよ?

「う、うううっ」

 彼女は俺の頬に触れ、その表面を撫でた。

「本当の事を話せば良い。そうすれば、周りの人達も分かってくれる」

「『ラミアが人間じゃない』って事を?」

「ええ」

「『そんなに単純じゃねぇ』と思うけどな」

 俺は彼女と連れ立って、自分の教室に戻った。教室の中では……別に俺達の事を待っていたわけではない。さっきの現象に驚いた奴らが、アホみたいに固まっていただけだ。
 
 憂鬱の顔で、自分の席に戻る。それに続いて、ラミアも俺の隣に立った。
 
 俺は教室の中を見渡し、また改めて溜め息をついた。
 
 仲間達は、その溜め息を無視した。

「お、おい、時任」

「さっきのって」

 俺はその質問に答えようとしたが、ラミアが代わりに答えてくれた。

「私は、モノフル。流行の作りだす力が集まって、キューブが擬人化した存在」

 彼女はより詳しく、教室の奴らに「それ」を説明した。

 教室の奴らは、その説明に固まった。
 特に服装検査から帰って来た神崎は、彼女の話を聞いて「不純異性行為よ!」と喚き、俺の目をじっと睨んでからすぐ、彼女の腕を勢いよく引っ張った。

「こんな男と一緒にいちゃダメ! 貴方は、私が保護するわ!」

「なっ!」と驚いたのは当然、俺だ。「冗談じゃない!」

 俺は、神崎から彼女を奪い返した。

「彼女は、俺ん家の大事な居候だ! お前なんかに渡すわけにはいかない!」

「なっ!」

 俺達は、互いの目を睨み合った。

 その雰囲気に周りが押し黙る。

 俺の周りにいた仲間達も。仲間達は俺の顔を見つつ、不思議そうな顔で「なんか、いつもの時任と違うな」と呟いた。
 
 俺はその声を無視して、神崎の目を睨みつづけた。
 
 ラミアは、神崎に微笑んだ。

「私も、彼と一緒にいたい」

 男子の一人が口笛を吹いた。彼女の事を茶化すように。それを聞いていた女子達も……こう言うシーンが好きなのか、ヒソヒソ声で静かに興奮していた。

 女子達は、神崎の周りに集まった。

「まあまあ、神崎さん」

「本人も、こう言っている事だし」

「ここは、大目にみてやろうよ?」

 女子達はラミアに微笑み、ついでに俺にもウィンクした。

 俺はその行為に戸惑ったが、神崎の方は何やらブツブツと呟いた。

「ふざけないで。それじゃ、私の」

 何だよ? 神崎の声が小さすぎて、最後の方が良く聞き取れなかった。周りの女子達は、テンションMAXに喋っているのに。ボソボソと呟く神崎の姿は、何処か哀れに感じられた。

 俺はその神崎に話し掛けようとしたが、今度は男子達に邪魔されてしまった。
 
 男子達は、ラミアの周りに集まった。

「ねぇねぇ、ラミアさん」

「ラミアさんって、キューブが擬人化した存在なんだよな?」

「ええ」と応えるラミアは、何処か冷めた様子だった。「そうだけど?」

 男子達は、互いの顔を見合った。

 ああ、なるほど。コイツらの考えている事が分かったわ。さっきのアレを見て、不思議な事を拒むよりも、自分もその主人公になる方を選んだらしい。

 男子達の顔が綻ぶ。
 
 男子達は嬉しそうな顔で、彼女の顔にまた視線を戻した。

「俺達も、キューブを買いつづければさ」

「そのキューブも、ラミアさんみたいに」

 ラミアは、彼らの言葉に目を細めた。

「擬人化するとは、限らない。彼は、選ばれた人だから。物が擬人化するには、それに関わる必要がある」

「じゃ、じゃあ、『可能性は、ゼロだ』って事?」

「限りなく。擬人化に関われる人は、限られているから」

 男子達はその言葉に……俺が睨まれたのは気に入らないが、絶望の顔でガクッと項垂れた。
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