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【花色】の激昂(ゲキコウ)
しおりを挟む二人の男が馴染みの酒場で酒を酌み交わしていた。
パッチリとした二重瞼、真っ直ぐな黒髪、大人しい見た目の女性的な顔立ちをしているのが兄の【花色】(ハナイロ)、一方は切れ長の一重瞼、少し癖のある、色素の薄い柔らかい髪、社交的な雰囲気を持ち、強いて言えば中性的な面立ちをしているのが弟の【勝色】(カツイロ)といった。
二十七年という歳月を共にしてきたこの二人、二卵性双生児で同じ里の出身の男児だった。二人の里では十三歳の春から三十歳の春までを【山ノ内領】(ヤマノウチリョウ)にある【よろず屋】(ヨロズヤ)での奉公を義務付けられていた。二人は共に二十七歳。里に戻るまであと三年の猶予しか残されていなかった。よろず屋は料理屋と旅籠を営む店で、二人はそこの料理人であった。
よろず屋の厨房で働き、時間を見つけては週に三度ほどこの店に酒を飲みに来ていた。
二人がよく来るこの酒場は、隣にある女郎屋が経営母体の、酒も酒の肴も上手いと評判の店だった。店の名を【巴屋】(トモエヤ)といった。
「なあハナ、俺たちあと三度の春で里行きだぜ。戻りたくねえな、あんな田舎」
「カツもか、俺だって同じだよ。俺も里にはまだ戻りたくないよ。
いたずらに年を重ねるだけで嫌気がさすよ」
大きくため息をついた花色がどんよりとした空気を作り出す。
しんみりとした会話に、後が続かず居た堪れなくなった様に勝色がガタッと席を立った。
「俺ちょっくら隣、行ってくるわ。帰りは遅くなるから、ハナは先戻ってて」
徳利の隣に自分の代金を置くと、勝色が逃げるように隣にある女郎屋へと駆けて行った。
この店に来た日には必ずと言って良いほど締めとばかりに女郎屋へ足を向ける勝色に、半ば呆れたように再びため息を吐いた花色が、残りの酒を煽るようにして飲み干すと、自分の代金を卓の上に置いた、矢先。
見知らぬ男が二人分の代金を奪って走り去っていった。
軽く酔ってはいたがすぐさまその男の後を追って店を出ようとした花色だが、何者かに襟を掴まれて動きを封じられた。
「何をする。盗人が逃げてしまうだろう」
花色が襟を掴む男を睨んだ。
「はっ、食い逃げがよく使う逃げ口上だな。下手な三文台詞吐きやがって」
男は花色の言葉に耳を貸さず、花色を食い逃げと決め付けた。
「失敬な、俺は二人分の代金を置いたんだ。そしたら先ほどの男が」
「往生際が悪いな。俺に捕まえられたのが運の尽きだったな。
仕立ての良い着物着た別嬪さんなのにガッカリさせんなよ」
あくまでも信じない男に心底腹を立てた花色が、怒りに任せて怒鳴った。
「お前こそジャラジャラと女のように飾りを身に付けて、よく恥ずかしくないものだな。少しばかり男前でも品がなさ過ぎのくせして、俺を言えた義理か」
花色の容赦ない言葉に男が反論した。
「男の癖に少しばかり別嬪だからって、言って良いことと悪い事の区別もねえのかよ。
そんなんじゃ、何時まで経っても貰い手なんか見つからないだろうよ」
「なんだと」
花色が男に掴みかかろうとした、まさにその時だった。
「申し訳ございません」
二人の間に割って入ったのは、巴屋の女将であった。
「他のお客様も貴方様がきちんと御代を払ったのを見ておりまして、今日始めて来た客がそれを奪って逃げたと。
貴方様はうちの常連様でございますし、わたくしは疑ってはおりません。
むしろうちの使用人が、ご無礼を働いてしまって申し訳ありません」
この店の女主人が、平身低頭に花色を扱った。
それを聞かされた男が花色の襟を、しぶしぶ離した。
襟元を正した花色が、「わかれば良いんだ」と仏頂面で答えた。
女主人が花色に謝るように、男にキツク言った。
「すんませんでした」
男も本意ではないようだったが、女将に言われてはせざるを得なかった。
「次にいらしたときは勝色様の御代も頂戴いたしませんのでこれからも来て下さいまし」そういうと女主人は何度も頭を下げた。
店を後にしながら、何時までも腹の虫が収まらない苛立ちに花色が苦虫を潰すばかりだった。
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