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【熊谷領】(クマガイリョウ)での再会
しおりを挟む城下町にある『シギ屋』は熊谷城の城下に住む人間なら誰でも知る甘味処であった。主に大福が人気で、売り切れれば昼にでも閉店してしまい、それを知る客が朝早くから列を成していた。
気性の荒い将軍と名を馳せている一豊も、実は密かな甘党であり、ここの大福には特に目がないほどのお気に入りであった。
行列をなす客から離れたところに立っている人物を見つけ、茜が大きく手を振った。
「紫苑」
二つ違いの弟であり、よろず屋にいるみ空の友人である紫苑に会うのは、茜が里を出てから初めてであった。
「兄さん」
二人が数年ぶりの再開を果たした。
「すっかり大人びた雰囲気で最初は兄さんだって気づかなかったよ」
「紫苑だって、一人でここまで来れるくらいに立派になってるじゃないか。
嬉しいよ、兄としては」
褒められていないと思ったのか、紫苑が少し口を尖らせた。
「少し城下を回ってからお城に行こう。一豊様も紫苑に会いたがっているから」
屈託のない笑みを浮かべて茜が先を導いた。
城下を案内するついでと、茜に連れて行かれたのは城下のあちこちに張り巡らされたお堀の一角であった。山ノ内領にも堀はあるが比べ物にはならない大規模なものであった。
『貸し船』と看板が立ち、傍らの男にお金を払った茜が、船の一つに乗り込んだ。後ろについて、紫苑も船に乗った。
茜が櫂で船を漕ぎ堀の中ほどまでいくと、船がひとりでにゆっくりと動き始めた。
「ふふ、驚いた?
ここは海のないところだから、塩と水は貴重なんだ。
だから、遠くの水源から水を引いて城下に川が流れるような仕掛けを施していてね。
水は、滞ると腐ってにごるから。下を覗いて見てごらん」
「うわあ、魚がたくさんいる」
紫苑がはじめてみる光景に、はしゃぐように驚きを表した。
「川魚だよ。年に一度、漁の解禁をして町の特産品にしているんだ。
そうすれば、町の人たちも潤うでしょ。
ここ、熊谷城の城主である一豊様が、お父上の代からの事業を引き継いで、こうしてみんながより快適に暮らせるようにしたんだ」
茜が誇らしげに一豊のことを語った。
「それと…ここだと誰にも気づかれないで話せるから、安心して。
どうして紫苑がここに来ることになったのか、順を追って全て話すから」
紫苑が怯えないよう気遣いながら、茜が今までの経緯を話した。
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